第1話 - 1:魔法少女に、私はなる‼
…………なんていうか、えっと、暗いな。
というか狭い。なに、この窮屈な空間は?
あの可愛い幼女、もといメティエラ、もとい女神によって、どうやら私は転生したらしいが………本当にそうなのだろうか?と、疑わしく思わざるを得ない状況に私はいる。
目が開かないからここがどこかわかんないし、身体を動かしてみようとしても狭すぎるから、うずくまった姿勢になるしかない。出ようと外壁を蹴ってみるもその弾力に弾かれてなんともまぁ………その、出られそうにはなかった。
さてはあの
しかし不思議なのはここがまるで水の中にいるかのような感覚だということ。
もしここが本当に水の中なのであれば、私は
…………なんか引っかかるんだよなぁ。
目は開かない、狭い空間、うずくまった態勢、水の中、けど息は苦しくない。
というかそもそも私、呼吸してないんじゃ?
……………あれ、これってもしかして──────⁇
そういえば、最近だと『異世界〝転生〟』と『異世界〝転移〟』があると耳にした事がある。その差異を端的に言えば、新たな
つまり?
私は今『異世界〝転生〟』しようとしているわけで?
つまり私は新しい
…………嗚呼、なるへそ。
ここってそういう事か、なんて思った時には、地上で産声が響いたのである。
まぁ、私の声だけど。
***
それから早くも十四年────私は新たに『ユメナ』という名前を新たな両親からもらって、イグジース家にお世話になっている。………いや、お世話になってるって表現は少しおかしいな。家族なんだし。血縁だし。
ともあれ私は転生して、この世界に順応し始めていた。
ただ少し残念なのは、生まれてからアニメやラノベみたいに、勇者になって魔王を倒す、みたいな刺激的な展開がないということ。
まぁ怖いから別に良いケドさ。
というかメティエラちゃんが転生特典くれなかったから、やれと言われてもどうしようもないし。もしそんなことを頼まれたら、どうやってずる賢く魔王を倒せるか選手権でも開催しようかな!、なんて考えていると、
「どうしたの、ユメナ?」
ふわりと鼻をくすぐる甘い香りが私を抱擁する。こういう時「え、何? 天使が現れた⁉」などと反応しないことは、この十四年で学習した。私はくるりと体を反転させて、その柔らかなお胸様に顔を
「姉様!」
「ふふっ、本当に甘えん坊さんね。ユメナ?」
そう優しく微笑んで頭をなでてくれるのは私の姉であり、このイグジース家の長女、マイア。小麦色の綺麗な長い髪と、左眼下の泣きぼくろが特徴。その優しい笑顔と眼差しはどんな心も浄化してしまうという(嘘)。
眉目秀麗、運動神経抜群…………って、今更だけど、こんな人存在するんだ⁉
「で、どうしたの? 悩み事?」
「………いえ、何でもありません。ところで姉様、学校は?」
「今日は午前中で終わり」
「それじゃあ兄様たちも帰りは早いかな? 今日は皆で集まれますね」
マイア姉様が学校から帰ってくることが早い日は、決まって皆で食卓を囲む日になっている。それは勿論偶然ではなく、父・アラディが早々と退勤するからだ。まぁ、自営業だし、そこのところはどうにかなるのだろう。ちなみに次男・イーギスも同じところに勤務している。
「ユメナもちゃんと勉強しないと。明後日試験でしょ?」
もうっ、と頬を膨らませて怒る姉………可愛い(※もはや妹の言葉ではない)。
「ほら、いつまでも私のおっぱいを堪能してないで、さっさと勉強、勉強!」
「はーい」
とほわほわな気分で返事をして、私は自室へと戻った。
………そんな感じで、転生して十四年。
私は新たな世界にすっかり馴染み、平和に暮らしてます。
初めは急に転生とか言われてどうかと思ったけど、今では転生してよかったとさえ思っている。何ならもうこれで終わりでも良いかもしれない。最高のハッピーエンド間違いなしだよ。(終)
それでも(続きます)、もしまだこの物語が続くというのなら、きっとそれはまだ私に未練があるからだ………と思う。
そう、アレだ。
魔法少女。
可愛くて愛らしくて、それでいて人々を助けるまさに神のような存在。
以前の世界ではそれを夢見たところで叶うだろうとは思えなかった。それはあの世界の事が解明されていくことによる諦念ではなく、私を束縛する社会による、一種の半強制的な『離脱』だった。
だがこの世界は違う。
進学や就職が絶対的に私を束縛することはない。旅人になってのんびりとした人生を送る人だっているのだ。
それに、学校や家では魔法なんてものを見かけたことはないけど、この新たな世界の何処かに、そういったものが眠っているかもしれない!仮に魔法なんてものがなくても、ドラゴンとかいるかもしれないよね⁉
だから───改めて。
私はユメナ=イグジース。
────魔法少女に、私はなる‼
………そう決意にした翌日のこと。
試験の終わりに迷い込んだ、不思議な部屋にて。
「おめでとうございます。あなたは魔法少女に選ばれました!」
「………………………………………は⁇」
素っ頓狂な声を上げる私の前では、ガラスケースに保管された一つの帽子が、ケタケタと笑っていた。
平和な世界の魔法少女は仕事が欲しいようです。 紫雨 @Purple_rain6639
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