プロローグ - 2:女神様、ブーブーチェアに座して告ぐ
綺麗に光り輝く数多の星々が空を彩り、地上には無限に続く白い空間が広がっている。眼前にはあれ、ほら………パレスチナ宮殿とかによくあるっていう、エンタシス?の柱がちらほらと立っている。
さて、この状況をどう説明したものか─────
「落ち着け私……まだあわてるような時間じゃないぞ…………」
と、
いやまぁ、慌てるような時間云々以前の話なんだけど。
「退学の手続きを終えて、学校探索してて、それで─────」
─────太陽を見てたら気が付けばこの場所にいた、と。
ふむふむ、なるほど?
つまり………つまり、どういうことだ?
と、困惑と考察を重ねていると、
「ようやくお目覚めですか」
背中の方から、幼げで可愛らしい声色で声を掛けられる。良かった、ここにもちゃんと人はいたんだと振り返ろうとして────一歩、思いとどまった。
いや、待てよ。落ち着け私。
そもそもこの場所が何処かもわかんないのに、《どうしてここに人がいる》なんて思い込んでるんだ………? もしかしたらあの瞬間、私は宇宙人に攫われたという可能性も否めないのではないんじゃないか?
だっていつの間にかこんな場所にいたんだよ? 宇宙人の一人や二人くらい、いてもおかしいとは思わないはずだよね(錯乱)。
けどどうしよう……………もし
────というわけで、振り向かないことにした。
「あの………私の声、聞こえてますよね?」
ついでに聞こえないふりもすることにした。
というか、これをまとめて現実逃避と言うんだろうな。
「………けど、ここってどこなんだろう? 出る方法とかあるのかな?」
「あの、ええと───」
「とりあえずまずは食糧と水の確保だよね。それから地図………はないだろうからまずは人か街を探す必要がありそうだなぁ」
「その、あのぅ…………」
「じゃ、早速────」
流石にここから離脱すればこの声の主もこの場から消える事だろう。
そう思って立ち上がったその時だった。
「うっ、ううぅぅぅっ……………」
「ご、ごめん! ウソ、嘘だから! ─────あっ」
すすり泣く声を耳にした私は思わず振り返り、そして気付く。
振り返ってしまった────その事実に思わず声のあった方から目を背けるがしかし、そこには誰もいなくて。
「あれ、誰も─────」
「本当に、どこにも行きませんか………?」
「え?」
私の向けた視線の下、さらに下。
そこに声の主はいた─────美しい白銀の髪に花の髪飾り、全身白のヒラヒラな衣装を身にまとった幼女の潤んだ瞳が、私をじっと見つめていた。
「それでは仕切り直しといきましょう!」
と、私は再度ふかふか椅子に座り直される。
一方でその子はというと、私に向かって対峙する形で椅子に腰かけた。座った途端、ぶーっと大きな音が周囲に響き渡る。「懐かしいな、ブーブーチェア」などと思いながら、その様子を見ていた。
ちなみに余談だけど、ブーブーチェアっていうのは座ると音が鳴る豆椅子のこと。つまり子供椅子ってこと。それを私はブーブーチェアって呼んでます。
さて、閑話休題はここまでとして。
この子────はその椅子に堂々とした態度で座して、そして告げた。
「まずはいきなりごめんなさい。私は《女神》、メティエラと申します。そしてここは《神域》の『判定の間』です」
「うんうん、メティエラちゃんっていうのかぁー。今何歳かな? おうちの場所、わかる?」
「私はこう見えても500歳超えてるし、家にだって帰れますぅ!」
だってさっき普通に泣いてたよね。今も目の隈赤く腫れてるよね!
というか、この子さっきから《女神》だの《神域》の『判定の間』だのって、厨二病発症するの早くない?
でもまぁ、その、なんだ‥‥……、
「こんな甘い香りを漂わせた可愛げのある
「私ってそんなに臭いますか……?」
幼女……自称女神のメティエラは、自分の匂いを鼻で確かめたのち、咳払いを一つ。それから私に再度向き直った。
「私の臭いについてはともかく………今日私がここに来たのはあなたの転生の手続きをするためにですね」
「え。転生……?」
「はい。そのための審査をするべく、この『判定の間』を利用しているわけですし」
転生? 何を言ってるんだ、このお子さんは。
確かにこのシチュエーションは最近の漫画やラノベで見られる転生前の状況によく似ている。突然変な場所に連れてこられて、可愛い女神かなんかに特殊な力や武器などの特典をもらって異世界にGO!って感じで。
だけどそれが本当にあるとは思えないし、そもそもその《女神》がこのメティエラちゃんだとはまず思えないしなぁ。
だとすれば?
「もしかして、本物(の厨二病)か⁉」
「はい、本物の《女神》ですが……?」
あ、いえ。そういう事ではなく。
とここでメティエラは、ふと何かを思い出したかのようにポケットから懐中時計を取り出して時間を確認する。
「もう時間がありませんので、転生についての詳細は転生先の世界で簡単に手に入るマニュアル本を参考にして下さい」
「うん、その厨二病設定はもういいからねー。お願いだからここが何処なのかとか色々教えて─────」
「ええと、そのごめんなさいっ!」
と、謝罪と共にメティエラちゃんは手を前に出した。すると突如、私の下を光が走り、魔方陣を描く。
でもこれってあれでしょ、ド〇キで売ってる感じのやつでしょ、コレ。
けどこれが『本物』だと、私が気付くまでにそこまで長い時間は要らなかった。
浮上、上昇。
身体が重力をなくし、浮く。ただでさえ小さいメティエラちゃんが次第に小さくなっていく。
「ちょ、え、待って─────⁉」
「ごめんなさいー! 門限なので失礼しますっ‼」
メティエラちゃんを見下ろして呼びかけると、そんなことを言ってメティエラちゃんは姿を消した。
門限とかあるんだ、などと和むのも束の間。私は上昇を続け、頭上の淡い光に向かい、そして包まれる。
「けど………本当に《女神》様だったんだ、メティエラちゃん」
今、この瞬間まで信じてなくてごめんね。
ところで。ところでだよ、メティエラちゃん………、
「私、何も転生特典貰ってないんですけど─────⁉」
涙ながらにそう叫ぶがしかし、もう既にメティエラちゃんの姿はない。
だけどまぁ、メティエラちゃんの事は許すことにしよう。だって可愛いんだもん。
例え、身勝手に転生させられたとしても…………ね?
例え、転生特典がもらえなかったとしても…………ね!
そんなことを思いつつ、「せめて転生の理由だけでも教えてくれたらよかったのに」などと不満を呟きながら、私は淡い光に抱かれ、やがて深い眠りについたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます