アテナたんとすねかじりな弟

 なんだかこのところふくらはぎが痛い。

 よく見てみるとすねが腫れているような気がする。

 気になりだすとズキズキズキズキしつこく痛んで気が散って仕方がない。

 これでは綺麗なお姉さんがいても……げふんげふん。


「ちちうえ!おかおがへんですがどうかしましたか!?」


 ふよふよと相変わらず手のひらサイズのアテナが飛んで来た。


「ああ、すねが腫れてしまって痛んでたまらんのだ。ほらここ」


 ワシが指さすと、アテナはただでさえ大きな銀色の円い目を更に大きく瞠ってまじまじとワシのふくらはぎを見た。


「ちちうえ!なんだかこのはれてるとこ、うごいているきがします!!」


「な、なんだと……っ!?気持ち悪い!!なんとかしてくれっ!!!」


 思わず叫ぶと「おまかせください!」と気合一閃、アテナが双槍サリッサをふるった。

 もちろん狙いあやまたずワシの脛をざっくりと斬りさいて……


「うあぁ……っ!?いきなり何をするんじゃっ!?」


「きっとまたあかちゃんがはいっているのです!きりひらいてだしてみました!!」


「そうそう何度もヘンなところから子供が産まれてたまるかっ!?」


 思わず喚くが、アテナは自信満々にわけのわからないことを言う。

 脊椎反射でろくでもないツッコミを入れている間にも、すさまじい勢いで血が噴きあがって……おや、噴き出した大量の血液と一緒に何か出てきたような気がする。


「ぉんぎゃぁっ!!ぉんぎゃぁっ!!」


 猫の子のような、なんとも言えない鳴き声までするじゃないか。

 ワシはその血まみれの塊を拾いあげて適当な布でふいてみた。


「あかちゃんです!おとこのこ、ちょうかわいいです!!」


 銀色の瞳を星のように輝かせて素晴らしい笑顔で叫ぶアテナ。

 お前本当に赤ちゃん大好きだな。


「……まさか、あの時の胎児か……??」


 そういえば、テーバイの王女があんまり可愛いからつい手を出してしまったんだが、ヘラのやつに嵌められて死なせてしまったんだよな。たしかセメレーとか言ったか?

 あの時腹の中にいた胎児はヘラにばれないように飲み込んだような気がする……


 なんだかわけのわからないところでしっかり成長していたらしい。


「なるほど!むすこはせいちょうするまでおやのすねをかじるものなんですね!!」


 アテナはしたり顔で納得しているが、「親のすねをかじる」というのはそういう物理的な意味じゃないと思うぞ。


「こいつどうしよう……」


 途方に暮れるワシ。


「とりあえずどなたかごしんせきのところにあずけてみてはいかがでしょう?」


 おお、さすが知略の神。わりとまともな提案だ。

 結局、この赤子はディオニュソスと名前をつけてセメレーの姉であるイーノ―のところに預けることにした。


 どうかヘラにバレませんように。

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