太陽神と香る花
「んふふふふふふふ。存分に思い知るがいいわ」
何ともおぞましい笑顔で
よく見ると、エロースの弓を背負い、射抜かれた相手を魅了して愛執の念を植え付ける黄金の矢を持っているではないか。
ああ、何かろくでもないことをやらかしてくれたに違いない。とにかくワシに今できることは……
見なかったことにする!! うん、ワシは何も見てないし何も悪くない。
それから数日、
これを誰かから伝え聞いたクリュティエの怒りやすさまじいもので。厳格なオルカノスにあることない事告げ口した。
やれお前の娘は淫乱で相手構わず男を誘い込むだの、「自分は
そしてしまいには「オケアニデスを侮辱した娘に
そのため、もともと厳格なオルカノスは国民を守るためにも、とレウコトエを詰問した。
問いただす父親に、後ろ暗い事は何もしていないレウコトエは疑惑を否定する。
しかし、怒り狂ったクリュティエが
「
と騒いだため、王は娘の言い分に耳を貸さず、生贄として彼女を河岸に生き埋めにすることにした。
それをたまたま聞きつけて激怒したのがアテナである。
「じぶんがみむきもされぬからといって、こいがたきをさかうらみしておとしいれるとはごんごどうだん。そのみにくいこころねがきらわれているとなぜわからぬか!!」
愛用の
「アフロディーテさま、ひとのこころをもてあそぶのもほどほどになさいませ!!」
アテナが
お~飛んだ飛んだ……
飛んで行った先をよく見ると。
……ありゃぁ、アマゾネスの国じゃないか。女ばかりの戦士が集うという国であるが、実は男衆は夏の間遊牧に出ているんだよな。あそこは女も強くて賢い事を求められる国だから、美貌で男をたぶらかしてナニをいたすしか能のないアフロディーテは相手にされまい。ああ、幼女にまであっさりうち負かされて、びしびしと畑仕事を手伝わされておるわ。当分の間はあちらで預かっていただいて、根性をきっちり叩き直していただくのが良いだろう。
さて、めでたく正気に戻ったクリュティエとヘリオスではあるが……
ヘリオスの心がクリュティエに戻る事はなかった。致し方あるまい。いくら互いにアフロディーテの呪いに惑わされていたとはいえ、嫉妬のあまり恋敵のありもしない悪い噂を方々で吹聴した挙句、冤罪に陥れて処刑させようと迫るなど、
ヘリオスに別れを告げられたクリュティエは、自分は何も悪くないのにと太陽を見つめながら河岸で泣き暮れて、いつの間にやら芳しい小花に姿を変えていた。神々は彼女を憐れんだが、やはり本性が本性なので元に戻そうとする者はおらず、その花を『ヘリオトープ』と名付けて愛でる事にしたそうな。
めでたしめでたし?
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