アテナたん子供ができる!?

「ちちうえ、あにうえがげんきがないのです。あらたなはつめいひんをかんがえるきにもなれないとおっしゃってます」


 アテナがしょんぼりと飛んできた。いつもなら新しい装備やら道具やらを一緒に発明して構ってくれるヘパイストスが、アフロディーテの浮気で離婚したショックで落ち込んでいるので寂しいらしい。


「そもそもあの顔だけが取り柄の尻軽女神アフロディーテ堅物技術オタクヘパイストスではうまく行くわけがなかったんじゃ。それを無理にくっつけるからこんなことになる」


 あの結婚はヘラが取り持ったものではあるが、元はと言えば天才的な発明の数々でもてはやされるヘパイストスを誑かして掌で転がそうと、アフロディーテがちょっかいをかけたのが始まりだ。


 アフロディーテにとって誤算だったのは、頭が堅く浮いた話一つなかったヘパイストスは、あっさり引っかかっただけではなく本気であの尻軽女に惚れ込んでしまったこと。ついに思い余ったヘパイストスは、アフロディーテとの結婚を取り持つようにと母神のヘラに詰め寄ったのだ。

 その際、幼少時に醜い容姿を嫌ったヘラから受けた虐待の数々を盾にだいぶ脅していた事は、ワシは知らないことになっている。


 そういった事情を知らないアテナはきょとんとしているが、元々相性が悪かったという事だけは理解できたのだろう。


「うまくいかないとわかっているなら、どうしてははうえはけっこんをとりもったのですか」


「うまく行かないからこそ、婚姻と契約を司るヘラが取り持つ必要があったんじゃよ。放っておいてもうまくいきそうなら、わざわざ取り持たんでも勝手に結婚するじゃろう?」


「なるほど!! つまりははうえにとりもっていただかねばならぬようなけっこんは、さいしょからしないほうがよいのですね!!」


 なんか明後日の方向に理解された気がするが、あながち間違っていない気もするので放置。


「さいしょからうまくいくわけがないけっこんとわかっていたのだから、いまさらおちこむひつようもありませんね!!あにうえのところにおなぐさめしにまいります!!」


 元気を取り戻したのは良いが、あさっての方向の理解のまま、さらにしあさっての方向にむかって飛び去って行った。……大丈夫だろうか??堅物ほど思いつめるとろくでもない行動に走るものと相場が決まっておる。あまりお行儀は良くないが、堅物息子ヘパイストスの工房の様子をこっそりうかがってみる事にしよう。


「あにうえ!! そろそろげんきはでましたか?? アテナはまたあにうえのつくったすごいぶきがみたいです!!」


「アテナ、また来たのかい? すまないね、いつまでも不甲斐ないままで……。ああ、今はこんなに無邪気で清純なお前もいつかはあの尻軽女のように誰彼構わず媚を売り、男をたぶらかして操ろうとするようになってしまうのだろうか……」


 ぶんぶん飛び回りながら励ますアテナに、力のない笑みで答えるヘパイストス。こりゃ相当こたえておるな……


「あにうえ、アテナはけっしてアフロディーテさまのようにはなりませぬ!! アルテミスあねうえのように、だれにいいよられてもあいてにせず、このよのおわりまでおとめのままでおりますぞ!!」


「本当か!?なんと兄想いの優しい子だろう!!俺もいつまでもウジウジしていて悪かった。さあ、何か新しいものを考えようじゃないか!!」


 健気に兄を励まし、処女神でいることを誓うアテナに、さしものヘパイストスも心を動かされたらしい。思わず妹を抱きしめると、さっそく新しい発明品の制作にとりかかることにしたようだ。


「あれ、なにかベタベタしたものがとんできました。へんなにおいがしてきもちわるいです」


「あ、すまん」


 どうやらヘパイストスは感激のあまり、アテナを抱きしめた拍子にあらぬ液体が漏れてしまったらしい。いい歳をしてお漏らしなど恥ずかしい奴だ。


「とりあえずこれで拭いてくれ」


 その辺にあった使い古しの羊毛で、アテナのサンダルについた生臭い液体をゴシゴシとふき取ると、なぜか下半身は蛇になっている人間っぽい何かが突然誕生した。


「……なんじゃこりゃ?」


「とりあえず、ヘラははうえにおみせしてごそうだんしましょう」


 ……もろもろ相談の結果、出てきた半分人間っぽい何かはアテナの神殿で神官たちに育てられることになり、「エリクトニオス」と名付けられたそうな。この二人の血を引く(?)だけあって、聡明で機知に富んだ優秀な彼は成長してアテナイの王となるのだが、それはまた別の話である。


※うちのヘパイストスお兄様は品行方正なので、神話元ネタとは違ってアテナたん相手にナニしたり襲ったりはしていません。ご安心ください<(_ _)>

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