アテナたんとカッコウ狩り

 あれから数日。堅物息子ヘパイストスは工房にこもりきりである。


郭公カッコウ狩りをいたしましょう」


 あの日、アテナを連れていったん帰宅した後、奴は実にイイ笑顔でのたまうと、せっせと設計図を引き始めた。相変わらず物静かではあるが、なんとも言えぬ殺気が漂っており、神々の王たるワシですらそうそう声はかけられぬ雰囲気である。


技術部長ヘパイストス殿、やはり貴殿がこちらにこもりきりの間、ヤツらはお宅で好き勝手やっているようですな」


 何だか金ぴかのやたらと立派な鶏がばっさばっさとやってきて、人語で報告した。

 あまりにデカい鶏が、鳥特有のつんざくような声でしゃべるもんだから、一瞬度肝を抜かれてしまう。

 こいつ誰だっけ……と考えることしばし。

 そう言えばヘリオスの使いだと思い出し、跳ね上がったまま飛び出しそうな心臓を必死でなだめる羽目になった。


 太陽神ヘリオス巨人ティターン一族のくせにワシらオリュンポスの神々とも仲良しで、東の果てにデカい宮殿を建てて住んでいる。

 光明神アポロンとは特に仲が良く、毎日戦車チャリオットで空を駆け回る間柄だ。


 空から地上の全てを見渡しているせいか、ヘルメスと互角に情報通で、時々こうやって他の神の悪さを告げ口するのが悪い癖である。

 ……いや、冥界の王が農耕女神ペルセフォネを誘拐した時にワシも加担していた事を大地母神デーメーテールに告げ口したのを根に持ってる訳ではないぞ、決して。信じてくれ。


「ヘパイストスあにうえ!!おいいつけどおり、アレスあにうえに『アテナのあたらしいどうぐをつくってもらうから、とうぶんのあいだヘパイストスあにうえはおうちにかえれません』っておつたえしました!!」


「よし、でかしたぞアテナ」


 未だにひらがなでしゃべっているアテナは成長に応じてかなりの長文を話すようになったため、読みづらいことおびただしい。


「いやカタカナや句読点も使いこなせるようになったから、かなり読みやすくなりましたよ?」


 そういう問題ではない。知恵と軍略の女神がこれで良いのか。


「アテナはひらがなでもちゃんとしんぼうえんりょをめぐらせているからよいのです!!」


 ……さよか。こいつの巡らせる深謀遠慮とはとりあえず双槍サリッサでぶっとばすとか山羊革盾アイギスでぶん殴るとか、だいたいが脳筋スタイルのような気がひしひしとするのは……

 気のせいですね、わかりましたもう言いませんから双槍サリッサを所かまわずぶん回すのはやめてくれください。


「よし、完成!これで奴らを文字通り一網打尽にするぞ!」


 何やらヤバそうな笑みを浮かべた堅物息子ヘパイストスが工房からやっと出てきた。きっとろくでもないものが出来上がったのだろう。


「ヘパイストスあにうえ!さっきアフロディーテさまとアレスあにうえがそろっておさんぽにでかけました!いまがチャンスです!!」


 堅物息子ヘパイストスの家を偵察していたとおぼしきアテナがすっ飛んで(物理)きて報告する。それを聞いてニヤリとしたヘパイストス、何やらでっかい網のようなものを担いで自宅へと向かった。おそらくあれが今回の発明なのだろう。

 どうせろくなものではないから正体を知りたいとは思わないのだが、嫌でも思い知る羽目になるのだろうなぁ……。ワシはそこらの花を観察しているふりをしながら、万事見なかった、聞かなかったことにできないかと思いを巡らせるのであった。

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