アテナたんと堅物兄上

 アテナがヘパイストスのところにすっ飛んで(物理)行ってからしばし。

 常に仏頂面で冷静で、おおよそ取り乱すという言葉からは程遠いはずの堅物息子ヘパイストスが、鬼のような形相でやって来た。すさまじい迫力である。


 脳天にアテナをしがみつかせているので色々と台無しではあるが。


「父上、アテナにおかしなことを吹き込まないでください。あんな『家族のあいさつ』を他の兄弟にした日には、誰に何をされてもおかしくありませんよ!?」


 怒髪天をつくとはこのことか。

 ……というか、最初に怒るところはそこなんだ。このシスコンめ。


「ところで、私の可愛い妹にとんでもない『手本』を見せたという馬鹿兄貴と尻軽嫁はどこです??」


 うっそりと微笑んで尋ねられた。怒鳴り散らされるよりかえって怖い。めちゃくちゃ怖い。夜中に一人でトイレに行けなくなりそう。


「え……えっと……さっきまで、そこの森にいたかな……??(てへっ)」


 とりあえず可愛くてへぺろしてごまかそうと思ったのだが、全く通用しなかったらしい。

 もともと冷たかった堅物息子ヘパイストスの視線が北辺トゥーレの氷雪よりも冷たくなった。


「父上が媚びても可愛くないどころか気色悪いです」


「ちちうえ、いまのはあてなもきもちわるいとおもったです!!」


 二人して口々に気持ち悪いと言われて心が折れるワシ。

 お前ら父に対する敬意と愛情がちと足りんのではないか?


「で、あいつらはどこに?」


 イイ笑顔で問う堅物息子。

 ワシ、滅多に怒らない相手を怒らせてはいけないと思いました。まる。


「すまん、さっきまでそこでナニをイタしてたんだが、ちょっと目を離したすきにいなくなった」


「なるほど、さすがに全裸で外にいるには少々寒い季節ですからね」


 そういう問題なのか?


「だいじょうぶ!! アレスあにうえならいくらさむくてもかぜはひきません!!」


 それは鍛えているから大丈夫なのか?

 それともナントカは風邪をひかないからなのか??


「多分、家に帰ったんじゃないのか?」


馬鹿兄貴アレスと一緒にですか?」


 いや、さすがに家に連れ込んではないと思うが……


「とりあえずあにうえのおうちにかえりましょう。おはなしはそれからです」


 アテナの一声に堅物息子も重々しく頷いて、自宅に向かう。……アテナを脳天に乗っけたままで。


 ……うん、何も見なかったことにして今日は寝よう。そして何もかも忘れよう。


 数日後、ワシがこの判断を心の底から後悔するのはまた別の話である。

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