第3話 証拠と真実。

 暴走タクシーにより、俺達はの乗るタクシーを見逃さずに済んだ。

 タクシーを降りる際、俺達は一刻も早く地面を踏みしめたい気分だった。

 タクシー運転手に多めに料金を渡し釣りは取っておけと言ってやった。


 上機嫌なタクシー運転手は呑気にも「それでは、お仕事頑張ってください。」と一言を残し軽快にタクシーで去って行った。


 タクシー運転手は追跡が成功した事により代金に色を付けたのだろうと思ったのだろう。


 だが現実は釣りと領収書を受け取る余裕すらない程、俺達は疲弊していた・・・。


「まったく・・・ひどい目に合った・・・。」


 真理沙まりさに話しかけると真理沙まりさは歩道の隅でうずくまっていた。

 街灯下でわかる程顔色が良くない。

 完全な車酔いの様である。

 だが今は真理沙まりさの旦那を尾行中だ、正直時間的な余裕はない。

 そうこうしている内、真理沙まりさの旦那達は移動を始めた。


「俺は後を追うから真理沙まりさはここで休んでいろ。」

「言っておくが、今の状態の真理沙まりさが付いてきても足引っ張るだけだからな、何かあれば連絡するからそこでおとなしくしていろ。」


 俺は真理沙まりさにそう声をかけると真理沙まりさは力無く頷いていた。

 そして俺は尾行を再開した。




 俺は距離を取り真理沙まりさの旦那達の様子を伺いながら後を付けて行った。

 後を付けるとはいってもほんのわずかな距離ではあったが・・・。

 真理沙まりさの旦那達はタクシーから降り目の前のビルに入って行ったからだ。


 俺はそのビルと周辺を見渡した。

 そのビルは流行りのタワーマンションであり、周辺にも似た様な構造のタワーマンションが数棟立ち並んでいた。

 真理沙まりさの旦那達がビルに入った瞬間俺は尾行を中断した。

 この様なマンションはセキュリティーも売りの為、易々とは部外者は侵入できない。

 オートロック解除の方法もある事はあるが番号を知らない。

 当てずっぼで入力するのも手だが、どうやらこのマンションには管理人が常駐している様だ。

 オートロック解除に挑戦している際、防犯カメラでその様子が見つかれば、即警察の御厄介になる事だろう。


 この様な状況から俺は尾行を諦めビルから少し距離を取りビルの角を正面にしてビル全体を視界に入れる様に監視を始めた。

 こうすればビルの二面を確認できる。

 そして部屋の明かりが点灯するのを確認出来たら真理沙まりさの旦那達の部屋の可能性が高いという事だ。

 もっとも多くの部屋が存在するタワーマンションでは明かりが点灯するのを見落とす可能性は大いにあるし、俺が今見ている裏側二面が真理沙まりさの旦那の部屋ならこの方法では部屋を特定できない。


 結局俺は十分ほどマンションを眺めていたが部屋の明かりの変化に気付くことは出来なかった。


 反対の二面のどちらかが正解だったか・・・。

 中に入ってポスト室で名前を確認して部屋を探す事も考えたが、名前を書いていない可能性もある。


 仕方ない・・・やりたくはなかったが・・・。


 俺は移動し、先程確認できなかったビルの二面の内の一つの面を正面にカメラを構えた。

 ズームをして部屋の一つ一つを覗き込む・・・。


 俺の行為は俺自身に対して様々なを感じる事になっていた。


 ローンの支払い・・・。

 子供の教育・・・。

 離婚の問題・・・。


 近しい間柄なら助けにはならないが話ぐらいは聞いてやっても良いと言った様々な家庭の問題が俺の一身に襲い掛かる。


 正直気分が悪かった・・・。


 真理沙まりさの為とはいえ、聞きたくも無いをこの身に受けるのは俺の精神状態にも何らかの影響を受けてしまいそうだった。


 進学の悩み・・・。

 不倫問題・・・。

 家族への嘘・・・。


 一つ一つは良くある問題だろう・・・だがこれ程多くのを連続で感じ続けるのは俺の精神が持たない気がしていた・・・。


 正直・・・もう無理だ・・・。

 頭がおかしくなってしまいそうだ・・・。


 この一面を調べたら諦めてしまおう・・・。


 そう思っていると残りは最上階の部屋のみとなった。


 残り数部屋・・・これで諦める・・・。


 そう思っていた矢先、真理沙まりさに対するが感じられた。


 俺はシャッターを切りその部屋を撮影した。


 最上階の角部屋・・・間違いない・・・真理沙まりさの旦那はそこにいる・・・。



 俺は隣のタワーマンションに行き中に入ろうと試みたがオートロックにより阻まれてしまった。

 周囲を見渡すと管理会社名を見つける事が出来た。


『産政不動産レジデンシャル株式会社』


 俺が以前勤務していた新聞社の子会社だった。

 社に勤務していれば社を通じて取材や撮影などと言い訳をして入館許可が取れたかもしれない。

 だが今の俺は退社しており関係性は皆無となっていた。


 ここまでを使い精神的にも疲れ果てていた。

 そして結果がこのザマだ・・・。


 俺はこの事を伝える為、真理沙まりさの居る場所へ向かった。




 俺が戻ってくると真理沙まりさは元の場所にいた。

 先程までは弱り果てていた真理沙まりさだったが大夫元気を取り戻している様だ。


「ただいま。」


「・・・あっ、ごめん・・・。」


「調子はどうだい?」


「だいぶ良くなった・・・。」


 先程まで立っているのも辛そうだったが、今は腕を組みガードレールに持たれかかっている。


「旦那の部屋は解ったぞ。」


 真理沙まりさは少し驚いていた。

 だが疑いの表情にも見える。


「どうやって特定できたのよ、建物内には入れてないでしょ?」


 当然の疑問である。


「うん・・・ビルをずっと見ていた。」


 真理沙まりさは首をかしげている。


「暗かった部屋の明かりが灯った部屋が旦那あいつの部屋って判断したって事?」


「ああ、とにかくビルをずっと見ていた。」

「そして確信できた。」


 真理沙まりさは不可解そうだったが、暫く思考を巡らしている様だった。


「まあ・・・敏也としやは良く当たっていたしね。」

「社に居た時も敏也としやに容疑者の記事を書く際、シロクロの判断してもらっていて殆ど間違ってなかったから・・・。」


 俺のは俺以外誰も知らない。

 そして話す事は今後も絶対にない。

 を感じたとも話していないし、「ビルをずっとみていた」と嘘もついていない。

 真理沙まりさが勝手に旦那の部屋を特定したのは明かりの灯った部屋を見て、俺のが働いたと思い込んでいるだけだ。


「隣のビルから部屋を撮影したいと考えているんだが、問題があるんだ。」


「オートロックでは入れなくて、管理人が常駐しているって事でしょ?」


 真理沙まりさは当然だと言う様に話を返してきた。


「あのビルの管理会社が『産政不動産レジデンシャル』だった・・・。」


「あたしらが退社して居なかったら、何らか対処できたわね・・・。」


 真理沙まりさも俺と同じ思考をしている様だ。


「ならさ、今でも社に居る、まきさんにでも頼んじゃう?」


 俺は首を横に振った。


牧田まきたさんに子会社まで話を通すような権限はないよ。」


 その言葉を聞いた真理沙まりさはニヤついていた。


「だよねーっ、まきさんじゃどーにもならないわよねーっ。」


 まったく真理沙まりさ牧田まきたさん、もっと仲良くできないのだろうか・・・。


「確かに社には知り合いいるから、牧田まきたさんは無理でも他を当たるのも手かもしれないな・・・。」


 真理沙まりさの表情は更にニヤつき始めた。


牧田まきたさんは無理でもねーっ。」


 かなり嬉しそうな表情だ・・・。

 一応牧田まきたさんは先輩だぞ・・・真理沙まりさにも困ったもんだ。



「あっ、いい手が思いついた・・・。」


 俺はふと協力してくれそうな人物が思い浮かんだ。


「なに、誰?」


 真理沙まりさは関心を寄せていたが、真理沙まりさには話さない方が良いだろう。


「いや、俺に任せてくれないか?」

「明日にでも話をしてみる。」


 真理沙まりさは首を突っ込みたそうだったが、とりあえず納得してくれた様だ。

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ポートレイトが撮影せない。 杉田浩治 @cameo111

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