第2話 調査と尾行。

 道路をはさんだビル内の店舗に一人の男が居た。

 男は待ち合わせをしている様であった。

 俺は真向いのビルの非常階段の踊り場でファインダー越しに男の行動を監視している。

 望遠レンズを介したファインダー越しに、俺は男のを嫌という程感じていた。


 なるほどな・・・奴は自己中心的な思考しか持ち合わせていない様だ・・・。


 普段なら人のを感じる行動などまっぴらごめんだ。


 少々気分は悪いが、真理沙まりさの為だ・・・。

 男は真理沙まりさの別居中の旦那である。

 今真理沙まりさの旦那を調査をしているのである。


 ふと、真理沙まりさの旦那が何かに気付いたような素振りを見せ席を立ち上がった。

 一瞬、尾行に気付かれたかと不安になったが杞憂の様だった。


 真理沙まりさの旦那が待ち合わせていた相手の到着の様だった。

 若い女性である。

 二人は席に腰かけていた。

 俺は二人のの集中砲火を受けている状況だった。


 まったく、気分が悪い・・・。


 その時、俺のスマホに着信があった。

 イヤホンマイクで相手も確かめず着信を受ける。

 タイミング的にも相手は解りきっているからだ。


「ねえ、見てる!? 絶対あの女が浮気相手よ!」


 スマホ越しに真理沙まりさは自信ありげに俺に話しかけている。


「まあ、まだ確定している訳では無い、それより行動は慎重にな・・・。」


「ええ、解ってるわ。」


 真理沙まりさは今旦那の居るビル内に居る。

 俺は真理沙まりさの旦那の顔を良く知らなかったし、近くで写真を撮るそぶりを見せる訳にもいかない。

 俺のはカメラのファインダーを覗きこんでいる時のみ使える中途半端な物である。

 見ず知らずの人間に撮影されるなど相手からは不審がられるだけである。

 なるべく目立たない様に、真理沙まりさの旦那に見つからない様に行動しなければならない。

 互いに顔を知っている真理沙まりさに旦那の近くで尾行させるのはリスクがあったが、俺が離れた場所に居る為移動されたら見失ってしまう。

 俺は真理沙まりさの連絡で撮影に適した場所を見極めて行動している。

 無論、先程尾行に気付かれたのかといった心配は、真理沙まりさが気付かれたといった心配であった。


 尾行しているが行動を起こした。

 席を立ち上がり店から出ようとしている。

 男の手には店の伝票が握られていた為だ。


真理沙まりさが店を出ようとしている、気を付けろ。」


「ええ、こちらでも確認しているわ。」


「頼んだぞ、俺の所からは既にの姿は見えないからな。」


 俺は今いる場所から移動をする事にした。


「まかせて・・・あっが移動しているわ・・・。」

「ビルから出るようね・・・。」

「場所はさっきいた店の真下の入り口ね・・・。」


「わかった。の顔も覚えたし移動の間は俺が近くで尾行するよ。」

真理沙まりさは少し距離を取っててくれ。」


 真理沙まりさの事を認識していないとはいえ、同じ着衣をしている人間が後を付ける続ける事にはリスクがある。

 それにずっと近くで尾行していた真理沙まりさも気を張っていたはずだ。

 真理沙まりさの緊張をここらで解かしてやりたいと言った考えもあった。




 俺は移動するの後ろ側からを尾行していた。

 がビルから出た際、道路向こうのビルから出たばかりだったが、歩行者信号が青になった為タイミングよく合流できたのだ。

 真理沙まりさは俺の後方に居るようである。


「ちゃんと尾行してる? 見失ってない?」


 イヤホンマイク越しに真理沙まりさの心配そうな声が聞こえる。


「大丈夫だ、ちゃんと後を付けているよ。」


 真理沙まりさから大夫距離を取っている様だ。

 の行動を認識できていないのがその証拠だ。


「ねぇ・・・あの、完全にクロよね?」


 真理沙まりさが不意に俺に俺に質問をしてきた。

 社にいた時、容疑者を撮影した際、何度もされた質問内容である。


「ああっ・・・クロもクロ、真っ黒だ。」


 俺はから感じられた悪意から既に確信していた。

 二人の関係は俺達の想像通り。

 旦那の方は真理沙まりさの不倫が原因で致し方なく離婚した後にこの若い女と再婚を模索している様だ。

 女の方はもっとが悪かった。

 大手商社マンである真理沙まりさの旦那をたぶらかしたのはこの女の様であった。

 無論金銭目的であり真理沙まりさとの離婚を何度も旦那に迫っていた。

 だが、会社役員が絡む真理沙まりさとの結婚の事を知ると旦那の社内での立場が悪くなり自分が望んだ金銭に不自由しない生活を満足させられない結果に陥る可能性を知ると、旦那に相談し興信所に依頼、真理沙まりさの不倫を調査させた。

 その調査結果は、女の期待通りの結果となっていたのである。

 その真実が全く異なる物でもかまわないといった思考の持ち主だった。


「貴方がそう言うなら、間違いないわねっ!」


 イヤホンマイク越しの真理沙まりさは俺の返事に対しての関係をしたみたいである。

 真理沙まりさは報道マンとしての俺のが良く当たる事を知っている。

 実際はなどでは無く、俺は相手のを読み取れる為、それは真実なのであるが・・・。


 の後ろを尾行していたのだが、の行動に変化があった。

 立ち止り歩いていた歩道から車道側を気にし始めていた。


「まずい! 真理沙まりさが道路を気にしている、タクシーを探しているのかもしれない・・・。」


 現在の時刻は19時過ぎである、それ程渋滞はしていないと思われる。

 車両で移動されたら見失ってしまう・・・。


「ええっ!? 困ったわね・・・。」


 の内、真理沙まりさの旦那が歩道より上半身を乗り出し手を挙げていた。


「まずい! がタクシーを拾ってしまった。」

「俺もタクシー捕まえなくては・・・。」


 はやって来たタクシーに乗り込んでしまった。


 俺もを追う為即車道を確認し手を開けたところ、すぐに別のタクシーが来た。


 しめた! 運がいい。


 だがタクシーの表示板は『賃送』となっていた。


 くそっ!


『賃送』と表示のあるタクシーが俺の前で止まりドアが開いた。


「乗って敏也としや!」


 俺に声をかけたのは真理沙まりさだった。

 俺はすぐさまタクシーに乗り込んだ。


真理沙まりさタクシー捕まえてくれてたのか。」


敏也としやがタクシーを探していると聞いてあたしもすぐにタクシー拾ったのよ。」


「助かったよ・・・。」


 安堵する俺は、バックミラー越しにタクシー運転手の視線を感じた。

 フロントガラスに写りこんだタクシー運転手の姿を確認したところ不審そうな目で俺を見ている。

 カメラマンベストを着ていて、そのポケットにはカメラのレンズが多数収納されている。

 手には街中で使用するには似つかわしくない大型のプロ用カメラを抱えている。

 不審がられても仕方ないのかもしれない。


「運転手さん、前のタクシーを追いかけて!」


 真理沙まりさがタクシー運転手に行先の指示を行っていた。


 それを聞いた運転手の表情は硬くなっていた。


「お客さん、報道関係者が探偵でしょ?」


 突然の質問に俺はなんて答えていいか解らなかった。

 真理沙まりさ質問に答えた。


「ええ、そんなところよ。」


「でしょうね、そちらのお客さんの姿、どう見てもカメラマンぽいですからね。」

「私も長年タクシードライバーしているけどこんなシチュエーションは初めてなんですよ・・・。」


 迷惑がられているのだろうか?

 だが、の乗ったタクシーを追いかけてもらわなくては俺達も困ってしまう・・・。


「迷惑・・・ですか?」


 真理沙まりさは遠慮がちにタクシー運転手に質問をしていた。


「いや・・・とんでもない!」


 タクシー運転手は笑顔になった。


「ドラマとかでみたタクシーのこういったシチュエーション憧れてたんですよ!」

「絶対に見失いませんから、しっかりつかまっててください!」


 俺達の乗ったタクシーはの乗ったタクシーを追跡し始めた。


 その運転は荒々しいものだった・・・。


 の乗ったタクシーが交差点に差し掛かったところで信号が変わり始めたら急加速、別の車が割り込みをしようとしたら強引に割り込ませず、急加速、急停止の繰り返しだった。


敏也としや・・・あたし・・・車酔いした事ないけど・・・今非常に気分が悪いわ・・・。」


「ああ・・・俺もだ・・・。」


「お客さん! 絶対に前のタクシー見逃しませんから、しっかりつかまっててくださいね!」


 タクシー運転手の暴走に俺達はすっかり参ってしまっていた。

 だがの乗ったタクシーを確実に追跡出来ていた様だった。

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