第6話 口紅(ルージュ)の伝言
まさか、
俺は昨夜、
俺が
当時を振り返っても冷静になって考えれば俺にとって
だが俺の中で今となって考えればくだらない自尊心が二人の関係を悪くしていった。
いや、俺だけが関係悪化の原因を提供していただけなのだ。
夫が家庭の収入を支えそれを生きがいとするといった古い考えが俺にはあった。
しかし
努力して俺より収入の良くなった
加えて
炊事、洗濯、掃除全てが好きだからといった理由で・・・。
俺は仕事が終わり帰宅すれば家事の一切を行う事は無い、
俺と
収入も
俺は一人勝手に
何をやっても
自然と
それでも
だが俺はそういった
いつも一緒に出掛けていた休日も一人で出かけ、平日帰宅すれば
それにもかかわらず
今となって思い起こせば、
俺が勝手に
悪いのは全て俺だ・・・。
俺達の関係は、同棲から同居へと変化して行った。
そして、俺達の別れを決定づける出来事が訪れたのだ・・・。
俺は夕食を外食で済ませ帰宅しリビングでくつろいでいた。
別に
俺はリビングのソファーでくつろいでいるといつの間にか眠り込んでいた。
ふと眠りから覚めると、俺は時計に目を向ける。
二十二時か・・・。
いつの間に寝ていたらしく、夜寝られるかなと余計な心配をしつつソファーから起き上がった。
ふと何かの気配を感じ振り向くとソファーの後ろに
俺の態度がずっと冷たい為、俺が起きるまで待ってたのだろうか?
俺は
「あの・・・実は相談が・・・。」
ついにこの時が来てしまったと俺は冷静に思考を巡らせていた。
俺の態度は一年近く
「なに?」
俺はそのまま振り向かず
ついに
本音を言うと俺にとって
所帯を持つとしたら
そして
だが、俺の態度はそんな感情は毛ほども感じられない程、
当然の報いだな・・・。
だが
「実は今日会社で内示をもらったの・・・。」
俺は黙って聞いていた。
「海外の赴任が決まったの・・・。」
俺は返事を返さない。
そんな俺の態度だったが
「期間は二年間・・・二年後には本社勤務が約束されてる・・・。」
「また、ここへ戻って来られるの・・・。」
「私、行った方がいいのかな?」
何を言っている?
考えて決断するのは
「行っても良いんじゃない?」
海外赴任をえて本社に栄転、更に上の役職が待っている・・・そんな所だろう。
「それでね・・・私達の事なんだけど・・・。」
本題が来てしまった・・・。
俺は
「二年間・・・。」
二年も会う事が出来ない、今の関係からして別れるのは当然だ。
俺はこうなるならもっと
だが、
「・・・二年間・・・待っててくれるかな?」
俺の
別れを切り出されて当然だと考えていた。
なのに、
「二年か・・・長いな・・・。」
二年、
「二年も待てないな・・・。」
俺は何を言っている!?
俺には
本音を話して関係を修復するのが一番いい選択だろう!?
「たとえ二年待ったとして、君は更に偉くなって俺よりまた収入が良くなる・・・俺は益々惨めな気持ちになるな・・・。」
俺は初めて
・・・違うそんなそんな本音ではない・・・俺は何を言っている・・・。
「そう・・・だったんだ・・・。」
「そういう事だったんだ・・・。」
頭の良い彼女の事だ、俺の態度の変化の理由を想定して居ない筈はない。
「だったら、私は会社を辞めます!」
俺が全く想定していなかった彼女の言葉に複雑な心境になっていた。
俺が理想としていた家庭には一番の解決策であった。
「何を言っているんだい・・・君は・・・。」
本音とは別の言葉が先走ってしまう。
「仮にそうなって俺達が夫婦となって、仕事の出来る妻を俺の都合で会社を辞めさせたとでも周りに話すのかい?」
「益々俺が惨めになるじゃないか・・・。」
俺は本当に何を言っているんだ・・・。
このままでは本当に
「ならどうすればいいの!?」
俺はゆっくりと
俺の感情は複雑であった。
心が痛むとはこういった事を言うのだろうか?
彼女を抱きしめて一緒になろうと言えばすべて解決するだろう・・・。
その後の事は後で考えればいい・・・それだけの事だ・・・。
「別れよう・・・。」
本心とは別の言葉がまた出てしまった。
俺はいったい何を言っている!?
「俺より仕事ができる女を家庭に入れとは言えないし、ましてやそんな女とは一緒に居られない・・・。」
なぜあんな事を言ってしまったのか・・・。
俺はずっと意地になっていたのだろう。
それがあの大事な場面での修復不能な態度を取ったのだろう。
俺は、
子供の頃の
再会した時の
そしてこの部屋で一緒に過ごした
俺は
いや、別れたくない・・・。
例え収入が多かろうが冷静に考えるとそんな事はたいした問題ではない。
それなのに何であんな態度を・・・。
明日の朝、
そして素直な気持ちを打ち明けよう・・・。
そして
そう、それがいい・・・。
翌朝、俺はいつもより早く目覚めてしまっていた。
俺はそのまま
だが・・・。
俺は不安を感じ家中、
キッチン、書斎・・・どこにもいない・・・。
そして風呂場の傍の洗面台にいつもとは違う物があった。
洗面台の鏡に文字が書かれていた。
さよなら
赤い文字で書かれたそれを見て俺は
この赤い文字は血か?
いやちがう、クレヨンの様な・・・いやこれは・・・口紅か!?
口紅で書かれたその文字を呆然と眺め俺は、
そしてそのメッセージに違和感を感じつつも、その時の俺はそれを確信するに至れずにいた。
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