第5話 失意・・・そして・・・。
交渉は完全な失敗だった。
いや、金銭目的だけなら大成功と言えるだろう。
だが
まとまった金は手に入れた、だが
本当に世の中は上手く行かない事が多すぎる。
俺達を裏切った
一般的に考えれば
現に
この案件で何かあった際の連絡に俺の連絡先が必要な為だ。
元々部下からの信頼が厚かった
良く言えば元部下達の危険回避の為、悪く言えば保守的になりそこにジャーナリストとしての矜持は枯れてしまっている。
言葉は発せず時折ふらついている。
見ていて危なっかしい。
余程、今回の件でショックを受けたのだろう。
無理もない、あまりにも大きな
それが二度と世に出る事は無くなったのだ。
どう声をかけたら良いのか、俺には全く見当もつかなかった。
元々人間不信気味だった俺は正直人との接し方は良くわからない。
喜怒哀楽がはっきりしている様に見える
双子の妹である
喜怒哀楽は
関係をうまく進めようとするには
何年も付き合いのある
もっとも
普段勝気な
昨日から睡眠を取っておらず
俺達は列車にて地下トンネル内で揺られていた。
正直、一定で刻まれる列車の揺れで眠気はとっくにピークに達していた。
ふと気づくと車窓の風景が明るくなっていた。
列車は地上に出たらしい。
俺は一瞬列車がどこを走っているのか理解できていなかった。
車内アナウンスが流れ、目的駅を通過していない事に安堵していると
「あーあ・・・残念だっね・・・。」
「ああっ、残念だったな・・・。」
俺は無難な返事を返した。
「あたしにとっては今までで一番の案件だったのになぁ・・・。」
かといって愚痴を言っているようにも聞こえなかった。
「まあ、俺にとってもそーだよ・・・。」
俺にとっては
俺にはジャーナリストとしての気概は無いし、まかり間違ってこの件で名が売れても困るだけだ。
俺はメディアに素顔を晒す事なんて遠慮したいし、そうはなりたくない。
「まあ、権利全部持っていかれたからもうどうにもならないよね・・・。」
フリージャーナリストを自称する
俺は何と返答してやったら良いのか考えあぐねいていた。
だが俺の気遣いは
「まあ、今回失敗したから次は失敗しないわ。」
「また別件を探すからね!」
「悪いけどあんたには付き合ってもらうから!」
一方的である・・・。
この女狐め・・・またあんな危険に巻き込むつもりなのか・・・。
回答は控えたが、先程までの落ち込様を見ていた為、自分を取り繕う余裕を見せる事が出来ている
見るに見かねて俺は
「あら、あんたにしては随分お優しい事ね?」
全く、強い女だ・・・。
「まあ、部屋まで送るよ・・・。」
無論完全な好意で出た言葉であった。
俺は
「そうね、あの時の約束、今から返してもいいかもね。」
「約束?」
正直そんな約束などした覚えは無かった。
「ひどい! 覚えていないの!?」
「 『生きて帰れたら、貴方に抱かれてあげるわ!』って言ったじゃない!」
「あたし、覚悟しているのにひどいわ!」
完全に俺をからかおうとしているのが窺える。
「あのな・・・俺もそれに対して答えたよな・・・。」
「『不倫なんてまっぴらだ!』ってな!」
「あれ? そーだっけ?」
「あたしにはあの時のあんたがニヤついていた様に見えたけど?」
事実無根である・・・、そんな表情した覚えはないしそんな余裕も無かった。
「まあいいわ、今日の所はお互い疲れているし約束は後日って事で・・・。」
「してない約束なんか果たす必要ねーわ!」
まあ、
既に帰宅ラッシュの時間に入っていたが運よく座ることが出来た。
俺は
「あまりあんたに言う事では無いと思うのだけど一様伝えておくわ。」
「
若く責任ある立場となり、新聞社に勤務していた俺より多くの給与を持って帰っていた
「退社って? いつ!?」
「あんたと別れてすぐみたいよ・・・。」
その時の
そこで数年勤務してある程度の実績を残すと栄転という名の本社勤務となり更に責任ある立場に上り詰める予定だった。
それなのに何故・・・。
俺は完全に思考が停止し、終点で職員に起こされるまで目を開ける事は無かった。
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