第4話 彼女は最高のパートナーだった。

 真里香まりかとようやく男と女の関係になり、俺達の関係は一歩進んだ。

 彼女真里香を大事に思いすぎるが為、なかなか関係を進めることが出来ずにいた俺だったが、ちょっとしたきっかけでそれはあっさりと解決されてしまった。

 男と女の関係というものは意外とそんな物なのかもしれない。

 俺が抱えていた心配も不安も今考えると馬鹿馬鹿しくなるほど、あっけなく不安は払拭された。


 二人が深い関係となった朝は、真里香まりかは珍しく寝室にいた。

 いつもなら俺より早く起き朝食の準備を行っていたのだが、この日の朝だけは目は覚ましていたが俺の寝ている姿をずっと見ていた様だ。


 その姿を愛おしく感じた俺は、再び真里香まりかと一つなる行為を求めようとしたのだが、さすがに避妊具の用意が無かった為ぐっとこらえた。


 昨晩の行為で用意も無しに体を重ねた事を考えると、今更という気はするが・・・。


 だが俺は昨晩の行為に関しては、全くの後悔はない。

 むしろ男と女の自然な行為であり、もし昨晩の事が原因で真里香まりかが懐妊しても俺は全てを受け入れる覚悟は出来ている。

 覚悟という言葉を使ってはいるが、俺の胸の内にはそんな大層なものは無い。


 むしろ俺自身が、そうなる事を望んでいる気持ちが強くある事を強く強く感じていた。



 真里香まりかと言葉も無しにずっと見つめ合っていた。

 今まで、どの女と関係を持ってもこんな感情は湧き上がらなかった。

 そう、俺は真里香まりかを愛おしいと感じてしまっていた。

 そう感じている自分に酔っているのか、定かではないが時間は着々と過ぎ去っていった。


 最初に声を上げたのは真里香まりかだった。


「大変、もうこんな時間・・・朝食作らないと・・・。」


 シーツで体を隠す様にベットから起き上がろうとする真里香まりか、俺は真里香まりかの左手を掴み、その行為を制止した。

 俺の行為に俺の顔を見入っている真里香。

 何故、制止されたのか理解が及んでいない様だ。


「今朝はいいよ、真里香まりか。」


 何となく間抜けな言葉を放ってしまったが、俺にとっては真里香まりかを気遣った気でいた。


「ダメ、朝食は一番大事なの、食べないといけません!」


 俺が朝食を食べたくないと勘違いしたのか、頬を膨らましている表情が何とも愛らしい。


「そういう意味じゃないよ、真里香まりかは初めてだったみたいだし、今朝は色々あると思ったから・・・。」


 真里香はおれの発言を聞いて、今更ながら顔を赤らめシーツで顔を覆い隠してしまった。

 昨晩の行為を思い出し恥ずかしくなったのか、無言になり固まってしまったかのように・・・。


「やっぱり今日は無理しない方が良いね、たまにはいいじゃないか、今朝は二人でモーニングでも食べに行こう。」


 すると真里香まりかはか細い声でそれに答えた。


「うん・・・ごめんなさい・・・。」


 今の真里香まりかの状況だと俺が居たらシーツから出てこない気がしたので、俺はキッチンへ向かう為部屋を出ようと思った。


真里香まりか、先にシャワー浴びていいから、終わったら教えておくれ。」


 真里香まりかが今日はいつ大学に行くのか俺は知らなかったが、どっちにしろ女の方が身支度に時間が架かる、男なんて髭を剃れば後はあっという間なんだがな・・・。




 洗顔をして歯を磨き、髭を剃るそしてシャワーを浴びていた真理沙まりさと交代する様に風呂場へ。

 全身を洗い、脱衣所にて体を拭いたら終了。

 いつも真里香まりかに風呂上りは髪を乾かす様に言われてはいるが、まあ髪は自然に乾くだろう・・・。


 真里香まりかが準備をしている間、出社準備を行っていた。

 出社準備と言われても着替えて、カメラバックを持ち出すだけだが・・・。


 真里香まりかが出てくるまでの間、キッチンのテーブルで暇を持て余す。

 化粧っけの無い真里香まりかだが、男の朝の準備と比べたらやはり時間は架かってしまう。

 メイクをバッチリする女の朝の時間はどのくらい架かるのだろうと、くだらない思考を巡らせていると真里香まりかが部屋から出て来た。


敏也としやさん、おまたせ・・・。」


 真里香まりかは俺の姿を見て不満そうな表情をしている。

 そして俺の手を引き、再び部屋の中へ、鏡台の前に座らされた。

 ドライヤーを出し俺の髪を乾かす真里香まりか

 以前ならこんな行動は行わず、髪を乾かしていないと頬を膨らましながら注意されるだけだった。

 やはり関係が深くなったのが原因だろうか?

 真里香まりかにブラシで髪を梳かれているととても心地が良かった。


「はいおしまい、ハンサムさんのできあがり!」


 俺の髪をセットし終わった真里香まりかはやはり以前なら絶対言わない冗談を一言・・・。


「ハンサムさんって・・・。」


 俺の言葉に、すこし照れているのか今度は頬を赤く染め俯き加減になってしまった。


「私、今まで恥ずかしくて敏也としやさんに対して遠慮がちというか他人行儀だった気がするの・・・。」

「でも、今日からは変わろうと思う・・・。」

「私が貴方敏也にやってあげたい事は全部してあげようと思うし、今までみたいに躊躇しない・・・。」


 確かに俺と真里香まりかはスキンシップなんて壊滅的だった気がする。

 真里香まりかは俺に対して遠慮がちだったし、俺は初めて魅かれた女に対してどう接していいか躊躇していた自覚がある。


「そうだな、これからはお互いに遠慮なんてせずに言いたい事はちゃんと言い、やってあげたい事は積極的に行動しよう。」

「相手の行動が嫌ならそれもちゃんと嫌だと言い合おう。」

「それが原因で喧嘩する事もあるかもしれないけど、それも後になれば笑い話になるはずだ。」


 照れていた真里香まりかは俺にとっての最高の笑顔となっていた。


「そうだね、私もこれからは積極的になる・・・。」

「遠慮なんてしてたら、損だものね・・・。」


 そして俺達は朝食を取る為、部屋を出た。


 移動の際、真里香まりかは俺の左腕に身を寄せて来た。


「早速、行動しているね。」


「遠慮なんてしないって決めたばかりだから・・・。」


 当然だが、まだ慣れないのかどこか行動がぎこちない。

 真里香まりかはどこかモジモジした様子だ。


「あの、あのね・・・私の行動が嫌ならちゃんと言ってね・・・。」


「別に嫌だって思った事は無いけどな・・・。」

「まあ、そう思ったら当り障りのないように言うよ。」


 真里香まりかは俺の腕を強くつかんでいた。


「ダメ! はっきりと言ってほしいの。」


「?」


 不思議そうにしている俺の表情を見て真里香まりかが一言。


「だって、喧嘩したくないもの・・・。」


 俺は思わず吹き出してしまった。

 現時点で俺は真里香まりかに対して何の不満も無い。

 現に今だって変わろうとする真里香まりかの姿を見て以前より興味が深くなっている。

 真里香まりかと喧嘩なんて想像すら出来ない。

 真里香まりかはこの後も俺に対して色々積極的に尽くしてくれた。

「喧嘩したくない」という心配など全くの杞憂だった。

 真里香まりかとはどちらかが死に至るまで仲睦まじく一緒に居るものだと思っていた。

 真里香まりかと別れてしまった今では後悔しかない。

 何故、俺は真里香まりかと別れてしまったのだろうか?

 今になって思い返すと、彼女真里香は最高のパートナーだった・・・。


「本当・・・女々しいな・・・。」


 俺は真里香まりかに対する自分の感情を思わず口に出していた。



「誰が女々しいだって!」

「俺は『セクハラおやじ』ってこの女に言われたんだぞ!?」


 俺が真里香まりかとの思い出を思い返している間も、牧田まきた真理沙まりさは口論していた様だ。


「そうよ! 敏也としやもっと言ってやってよ!」


 全くこの二人は普段はそうでもないのに、口論し始めたら俺が制止しないと止まらない・・・。


「俺はさ、二人共喧嘩している時以外は意外と気が合うと思うんだよな。」

「昔から言うじゃないか、「喧嘩する程、仲が良い」って・・・。」

「・・・そっか、二人はお互いを意識しているからそんなに喧嘩しているんだな!」

「二人共、いっそ付き合っちまえよ!?」


 俺の言葉に二人は拳を震えさせていた。


「誰がこんな『セクハラバツイチおやじ』と付き合うか!」


「見た目だけ良い腹黒女に興味ねーよ!」


 俺の一言は火に油を注いでしまったらしい・・・。


「見た目が良くて何が悪い、セクハラばかりしているおっさんよりマシだわ!」


「セクハラなんてしてねーだろ! バツイチってなんだよ! 旦那と不仲なくせにバツイチにもなれないお前に言われたくねーよ!」


 牧田まきたの一言に言葉を失う真理沙まりさ

 そして真理沙まりさからは怒りの表情が消えていた。

 その変化に気付いたのか牧田まきたも表情が変化していた。


三島みしま・・・悪い・・・俺言い過ぎたか?」


 気を使っているのが傍で見ていてわかる。

 牧田まきたは心配そうな表情をしている


「・・・あたしだって・・・別れたい・・・。」


 真理沙まりさはうつむきながら一言漏らしていた。


「悪かった、俺の負けだ、言い過ぎたみたいだ、その事についてはもう言わねーからかんべんな?」


 真理沙まりさとの口論はいつも牧田まきたが幕を引く。

 普段はガサツな男だが年齢が一番高いのもあるのか、この中では一番大人なのかもしれない。


「あたしが別れたくてもあいつ旦那が分かれてくれないのよ!」

自分旦那は別に部屋借りてて一緒に住んでないし、絶対別に女居ると思うし・・・。」

「子供も居ないし、財産割り振りしなくていいと言っても別れてくれないのよ!?」

「どーすりゃいいのよ、あたしは!?」


 普段、良くしゃべるが、本心があまり読み取れない真理沙まりさ

 その真理沙まりさが本心を感情的に語っているように見えた。

 どうやら、この問題は真理沙まりさにとっての一番の懸案事項なのだろう。


「話せよ、真理沙まりさ・・・。」


 話して少しでも楽になれるならと俺は提案した。

 話したくなかったら、真理沙まりさの事だ絶対に話さないと思うから問題ないだろう。


「そうだな、話せば少しは楽になるかもしれないしな・・・。」

「俺に聞かれたくなければ、俺帰って良いし・・・。」


 牧田まきた真理沙まりさに気を使い、俺の提案に賛成してくれた様だ。

 自分と真理沙まりさとの関係を考慮した発言までしている。


 そして真理沙まりさは旦那との事を語り始めた。

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