第4章 男と女の関係は・・・。

第1話 ジャーナリズムへの回帰。

 真理沙まりさは自分のノートPCに転送された、写真を真剣に見ている。

 そう、俗にいう目を輝かせながらといった表情である・・・。


 正直、この写真が世に出されたら写っている、とあるの評判は地に落ちるだろう。

 政治家としての活動も、次の選挙ではまず勝つことが出来ず終り、最悪何らかの方法でかもしれない。

 そのくらいの相手と手を組んでいた報いと言ってはそれまでだが、結局はその自身の行動がこの結果を生み出す事になっていた。

 国の為に政治を行うが、祖国を裏切る行為自体信じがたい事ではあるが、そういったを昔から大勢いる。

 民主主義の国では国民が政治の代行者を選ぶ。

 つまり選んだの政策の失敗は彼らを選んだ国民の責任でもある。

 だからこそ、民主主義国家の国民は賢くならなくてはならない。

 真実を見極め真剣に国政に携わる代表を決めなければならないのだ。

 選んだ代表が失策あるいは国の裏切り者だったとしたら、それは選んだ国民の責任だ。

 国民の選択で亡国になるといった事もあり得ない話ではない。

 選挙に参加していない、自分はその候補者に票を入れていないという言い訳は通じない。

 選挙に参加しないのも民主主義国家では自由だ。

 選挙に票を投じるのは強制ではなく権利に過ぎない。

 自分の投票した候補が落選したとしても、多くの投票者がそれを望んだ結果であり多数決による結果に過ぎない。

 民主主義国家の国民は賢くならなければならなくてはならないと述べたが、それは国民全員がそうならなくてはならないという事だ。

 もし民主主義国家の国民の大多数が共産主義の政策を望めば、共産主義国家となってしまう。

 だからこそ民主主義国家というのは、リスクの多い政治形態だともいえる。



「うん、バッチリね!」

「撮影は敏也としやに頼んでよかったわ!」


 真理沙まりさは非常に満足そうな顔つきをしていた。

 以前コンビを組んでいた時、記事をまとめた後、この顔付をすると大体記事は掲載されていた。

 よほど自信のある記事をまとめることが出来るサインでもあった。


「あたしも一応、カメラは持って居るんだけど、この写真みたいに人物を寄せては撮影できないだろうから、拡大させると粒子の荒で使い物にならないとこだったろうしね。」


 ファインダーでの撮影が苦手な真理沙まりさではあったが、液晶の画面を見ながらのつまりライブビューモードでの撮影なら出来るらしい。

 実際この撮影方法は便利だ、報道陣に囲まれた対象を腕だけでカメラを支え高い位置で撮影可能となる。

 銀塩フィルム写真時代にはこれは自分の勘だけで行っていたものだが、今ならプロでなくとも撮影できる事だろう。


「ほー、そんなにすげえ写真撮れていたのか?」


 牧田まきた真理沙まりさのPCを覗き込む。

 牧田はを見入っていたが表情が徐々に険しくなっていった。


「おいおい、これ冗談じゃねーよな?」

「こいつは現役のじゃねーかよ・・・。」

「しかもなんだこの黒服着た男達は・・・銃もってるじゃねーか!」

「こいつら何者だ!?」


「あたしは日本語以外英語しか聞き取れないのだけど、英語は喋ってなかったわ。」

「おそらくあの言語は中国語だと思うわ。」


「おいおい、共産党絡みかよ・・・。」


 牧田まきたはすこし難しい顔をしていたが、話し難そうに言葉を続けた。


「悪いが、このスクープはに出せないかもしれねぇ・・・。」


 牧田まきたは今の真理沙まりさにとって一番聞きたくない内容を述べてしまった。


「なんでよ!?」


お前真理沙も解っているだろ・・・今のマスコミの現状を・・・。」


 牧田まきたが口にしたマスコミの現状・・・。

 中国共産党の都合の悪い事は報道しない・・・。

 もしを報道すると共産党の報復がある。

 中国国内の報道許可が下りなかったり、中国国内に得班員を置けなくなり、最悪その得班員がスパイ容疑にかけられ逮捕されてしまう。

 つまり得班員が人質となる事を意味している。

 普通に考えれば子供じみた内容であり、まさかそんな事はしないであろうと普通の日本人なら考えるが、奴らはを平気でやってくる。

 一党独裁の政権が暴力組織と変わらないのがの現状だ。


「そんなの解らないじゃない!」

「リスクを恐れていたら真実なんてすべて闇の中よ!?」

「誰かが真実を発信しなければそれはいつまでたっても変わらない!」


 真理沙まりさはすこし興奮気味だったが、牧田まきたの言った内容も理解はしているはずだ。


「それは俺も理解できる・・・だが今のマスコミの体たらくさは、お前真理沙も解ってるだろ?」


 マスコミの体たらく・・・。

 報道すべきことを報道しないマスコミ。

 真実を伝えるのが使命のはずだったマスコミは今や殆ど存在しない。

 マスコミの報道はにはならない。

 だからこそ民主国家の国民は賢くならなくてはならない。

 幸いインターネットの普及で、マスコミの影響力は低下しているがまだまだ、メディアの影響力は絶大であるのも現状だ。


「そんなの解ってる・・・だからあたしはフリーのジャーナリストになった。」


 真理沙まりさも今のマスメディアの現状はよく理解している様だ。

 牧田まきたの正論を聞き、先程までの勢いは無くなって居た。


矢戸部やとべ・・・いや三島みしま・・・お前さ旦那いるのだろ?」

「もしこれを公開出来たとしたら、報復で旦那にも迷惑が掛かるかもしれないんだぞ?」


 牧田まきたはこのスクープを世に出す事には反対ではないだろうが、それによって真理沙まりさへ降りかかる災難を本気で心配している様だった。


「は? 旦那とは絶賛別居中よ?」

「今頃、浮気相手とよろしくやってるところだわ!」


 開き直る様に夫との不仲を語る真理沙まりさ、見る限り夫への執着は全く無い様だ。


「何でそんな男と、別れないんだよ・・・。」


 牧田まきたの疑問は納得の行くものだった。

 別居して夫には浮気相手が居る、それだけでも別れる理由となるだろう。


旦那あいつが別れてくれないのよ!」

「離婚すると会社での立場が悪くなるとか考えてるんでしょ!?」

「あたしとしては浮気相手に金銭なんて要求しないから、とっとと別れてくれた方が楽なのに・・・。」

「だからあたしは好きにやらせてもらう!」

旦那あいつと結婚して新聞社を退職したけど、旦那あいつと不仲になってからはを後悔した。」

「だからあたしはジャーナリストとしてまたこの世界に帰って来たのよ!」


 真理沙まりさは夫の都合で拘束されているも同然だった。

 ならば真理沙まりさ自身も好きにやらせてもらう。

 その理屈は共感できるものがあった。

 それに期待もあるだろう。

 今のスクープを公開する事で夫の方から離婚を申し出てくれるかもしれない。


「そっか・・・矢戸部やとべ・・・いや三島みしま・・・お前も大変なんだな・・・。」


まきさん! いつまで名前間違えるのよ!」

「もういっそ、矢戸部やとべでいいわよ!」


 あまりにも真理沙まりさの名字を言い違える牧田まきたに対して真理沙まりさは旧姓で呼ぶように要求している。

 確かに牧田まきたが多すぎる・・・。


「ならいっそ、俺も稲瀬いなせと同様、お前を『真理沙まりさ』って呼ぶかな?」


 それを聞いた真理沙まりさは暫く無言になっていた。

 そして睨みつける様に牧田の事を見ていた。


まきさん・・・セクハラで訴えるわよ?」


「ひでー! 何で稲瀬いなせは良いのに、俺はセクハラかよっ!」

「差別だろそれは!」


 この二人は昔からこんな感じた・・・。

 牧田まきたが年配のせいか真理沙まりさを多少気遣っている様だが、真理沙まりさの方は好き放題に言いたい事を言っている。

 まあ、牧田まきたは基本細かい事は気にしないし先輩としては付き合うのは楽な人間だろう。

 一方、真理沙まりさは気が強く、言いたい事を平気で言ってくる。

 良く言えば素直な性格だが、悪く言えば毒舌家でもある。

 そして昔から口論を良くしていた。

 牧田まきたの余計な一言が発端で、真理沙まりさがそれを気に入らず口論が勃発する。

 そして言いたい事を互いが言い合い最後は牧田まきたが折れるといったパータンだ。

 言いたい事を言い合える・・・。

 ある意味この二人は気が合うのかもしれない・・・。


お前真理沙なぁ! そういや昔俺の事『エロおやじ』扱いしてたよな!」


「『エロおやじ』を『エロおやじ』扱いして何が悪いの!?」


「あれから俺は他部署でも『エロおやじ』って影で笑われてたんだぞ!」


「なら今度は『セクハラおやじ』って影で笑われるのよね!」


「言いたいこと言いやがって!」


 えっと・・・気が合うのかも・・・しれない・・・。



 まったく、真理沙まりさも先輩である牧田まきたを少しは気遣えばいいのに・・・。

 こういった点は真里香まりかとは正反対の様だ。

 真理沙まりさの双子の妹の真里香まりかは人に気を使いすぎていた。

 俺と真里香まりか牧田まきた真理沙まりさの様に好きな事を言い合える関係なら、今とは違った関係だったかもしれない・・・。


 俺は真里香まりかとの思い出を思い起こしていた。

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