第6話 結果、独占スクープだった。
時間は20時を越えていた。
俺は社にやっと戻っていた。
あれから俺はずっとあの事件の現場で撮影をしていた。
まあ、
まあ、警察に取り囲まれた時点であの犯行は失敗したも同然だったのだが、決定打は他にあった。
編集部に戻ると
「やったわ
「あの記事、ウチの独占よ!」
夕刊の締め切り時間をギリギリまで延ばしてもらい、他社に嗅ぎ付けられる前に記事に出来た事により一社のみのスクープとなっていた。
「もう、帰ってから大変だったよ!」
「中田キャップと記事にまとめて・・・でもいい経験になった・・・。」
入社して数日でこの成果だ。
「でも、
「もうすごかったのよ・・・。」
「「写真はまだかっ!!」って・・・。」
編集部の締め切りを考えるとその様子が目に浮かぶようだった・・・。
「見て見て、これがその記事!」
手に取った俺は、驚きと喜びがこみあげて来た。
「おいおい、一面トップ記事じゃないか!」
「あの時の
「やっぱあんたは最高だわ!」
よりによって、あんた扱いかよ・・・。
先輩を先輩として敬ない女だ・・・。
おれは不意に
『
あり得ないな・・・。
そんな態度、
きっとあれは
「誰が最高だって!?」
とても疲れた表情で・・・。
「
「一面トップ記事だと・・・これお前達の記事だよな・・・あの時の?」
「そうですけど?」
一瞬、怒り顔になっていたが、更に深いため息をしたかと思うと、今度は疲れ顔に戻ってしまった。
「あの後な、この新人のねーちゃんを社に届けてな・・・。」
「あっ、社会部の
「昼間はありがとうございました。」
昼間まで面識が無かったのだろう。
「あっ、ども、バイク便担当の、
「
とてもネガティヴな発言をする
「そうそう、あの後な先に頼まれた雑誌社へ記事渡しに行って、帰ったらまた違う子会社へ小荷物届けて・・・その後、名古屋まで行かされた・・・で今帰ってきたばかり・・・。」
「お前らの記事運んだのが、唯一のプレスの仕事だった訳よ・・・。」
「しかもさ・・・持って帰った記事が、一面トップって・・・。」
「俺、褒められても良くね?」
全くである。
それでこの扱いとは、不幸すぎる・・・。
それにしても、自称バイク便とは・・・かつては、一部バイク乗りのあこがれの職業でもあったプレスライダーの
今はかつての栄光もプライドも枯れ果ててしまったのか?
「でも・・・いいか・・・。」
「ご褒美はもう貰ったし・・・。」
上に文句の一言でも言って良いとは思ったが、
「何かいいものでも貰ったんですか?」
「ああっ・・・。」
「噂になっていた、社会部の美人新人とお近づきになれたからな。」
「まさか
興味ないと
「美人新人って、私の事です?」
「そうそう、噂通り本当美人だな。」
「
こいつ・・・美人って昔から散々言われてきたタイプだし、自分が美女だって自覚あるな・・・。
しかもこの愛想笑い・・・完全にネコ被ってやがる・・・。
「その美人記者が俺の単車の後ろに座ってな、俺にしがみ付いて離れないんだ。」
「少々ぎゃーぎゃーとうるさかったが、俺の背中に感じる感触は最高だったぞ!」
その言葉を聞いた、
「・・・エロおやじ・・・。」
「
俺は牧田に対して呆れていた。
「記事とあたしを社まで特急で連れて帰ってくれた恩もあるし、
「中身は単なる「エロおやじ」だったのね・・・。」
「普通、そう思ってても口には出さないでしょ!」
「
「ん?・・・何だ?」
「今のは
「すまん・・・俺、正直なんで隠し事出来ないんだわ・・・。」
この時から
「で・・・
「ええ、先程帰社したばっかりですよ。」
「
「途中、シャッター閉められてヒヤヒヤしていましたが、1箇所だけ最後まで閉じられなくて助かりましたよ。」
「もしかしてATMの入り口付近か?」
「ええ、良くわかりましたね?」
「なんか最近はATMのシャッターは警備会社が入っていてな、タイマーがセットされているらしく、途中で開け閉めは易々とは出来ないらしいぞ?・・・まあ俺も良く知らんが・・・。」
「まあ、あれのおかげで、自動ドアのガラス越しですが、偏光フィルター使えば中は何とか撮影出来ましたよ。」
「後は犯人たちが観念してからの御用の様子もバッチリです。」
「さすがに、それは他社も駆けつけてましたけど・・・。」
大きく口をぽっかりと開けている・・・。
「おい・・・もしかとは思ったが、この記事うちの独占か!?」
「ええ、そうですけど・・・。」
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ、やっぱ俺、褒められる立場じゃないか!」
「エロおやじの愚痴は無視しといて・・・。」
「今日あの現場に出くわして、あたしも記者として自覚が足りないと反省したのよね・・・。」
「今日、現場に遭遇した時、あたしはスカートだったのよね・・・。」
「ああいった偶然に遭遇する確率は低いとは思うけど、あれではいざという時行動力が落ちちゃうと反省してる・・・。」
「明日からはスカートやめてパンツスーツにするわ。」
あの時、スカートをはいてなかったら、もう少し早く現場に到着出来ていただろう。
そして、最悪の場合は俺に追いつく事が出来ず
失敗を修正して改善する姿勢は、俺にとっても頭の下がる思いだった。
「
またバカな事を言わなければいいが・・・。
「そっか・・・今日で
心配した通りバカな事を言ってしまっている。
そしてとても残念そうな表情をしている。
「ドスケベおやじ・・・。」
その視線に気づいた
「そうそう、
余程、気まずいのだろう。
「
「犯人たちの様子や、銀行員、客の写真を撮っていたんですけど、まだ他社にはバレていないと思うネタも仕入れました。」
「おっ、いいね! 詳しいく教えてくれよ!」
俺は
「実は客の中に屈強な男が居て、犯人を取り押さえていたんです。」
「マジか、それ!?」
「ええ、俺が帰社がこの時間になったのは、彼が警察の調書を受けているのを待っていたからなんです。」
「え・・・もしかしてその彼にアポを取ったの?」
「明日の昼、会う約束をした。」
「
「ナイス!敏也!」
「強盗事件の裏にそんな事実が隠されていたなんて!」
「あたしはそういった『真実』を世に出したくて記者になったの!」
「最高の気分だわ!」
「配属されて数日だけど、本当に記者になって良かった!」
世の新聞社は一応真実を伝えてはいるが、購買者達の求める内容に絶妙に記事を改変して誤解を受ける様な記事を出してくる社もある。
生き残るための手段か、社是なのかは俺には理解できないが記事としては最低の物だと思う。
特に新聞の購買数は年々下降している。
インターネットの普及で新聞社の悪事なども暴露され、報道機関としての信用を大きく落とした社もある。
正直、俺も真実を見極める目さえあれば、新聞よりネット記事を読むだけでいいと思う。
新聞社も昔程、取材力は今はない。
新聞社が特化するものが少なくなっている。
これでは購買数が落ちて当然だ。
今の純粋な気持ちで、この先も仕事を進めてほしいものだ・・・。
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