第3話 思い出語り。
公園は黄昏かがっていた。
目の前の芝生には大きな時計が、そしてその後方には噴水が確認できるベンチに男女のペアが居た。
一見するとカップルに見えるかもしれない。
だが、男女の年の差はあきらかで、表現的には相応しくないのだが男の方が薹が立っており、女の方は若々しかった。
親子程の年齢差も無い、年の離れた兄弟にも見える。
もっとも、周辺を行き交う人々には、その男女の関係など興味の対象にもなっては居ないが・・・。
その男女のペアは物静かに、だが楽しそうに会話をしていた。
「そっか・・・
「ええ・・・でも、
おかしなことを言う、容姿なら
「
「・・・本当・・・ですか?」
先程より声量の小さな声で
「うん、化粧っけもないし、眼鏡だって決してスタイリッシュではないけど、レンズ越しに見た君の姿はとても綺麗だったよ?」
俺は先程、ファインダーを通して感じた
「カメラを通してるからそう見えただけですよ・・・私は
どうやら
幼い頃の二人は比べようもない程どちらもかわいらしかった、どちらかを選べと選択を迫られたとしても選びようがない程に・・・そして二人はとても仲が良く対等といった様な関係に見えていた。
俺が上京後何かあったのだろうか?
「
「カメラってさ人の目の性能には到底かなわない、だけどねその瞬間を切り取って1枚の写真になるでしょ、その写真には写した人物の毛穴すら写りこむほどに細やかな表現力があるんだ。」
「カメラより性能の良い人の目は写真になんてできないでしょ?」
「つまり、カメラには切り取った瞬間の止まった世界しか表現できないけど、その瞬間は人の目よりも多くの情報量を残しているんだ。」
「人の目で見た物なんて記憶の中にしか存在してないでしょ?」
「つまり記憶の曖昧さによって良くも悪くもなる、だが写真は違う、写真に写った人物は切り取られた時間の真実の姿なんだよ?」
「そして偶然ファインダー越しに見た君の姿を見て、俺はシャッターを切ってしまった。」
「撮影許可も取っていない人物を思わず撮影してしまったんだよ?」
「プロカメラマンの俺が撮影せずにいられなかった、君の姿は間違いなく魅力にあふれていたって事だよ。」
理屈っぽく長々と説明してしまったが、一応プロの俺が言うのだから納得してくれればいいのだが、まあ話した内容の半分は普通に現像した場合に限られるものであり、いくらかの修正はきく、だがまったくの嘘は言ってはいない。
「
そう言った
場が持たない・・・。
何か別の話題を振らなければ・・・。
「あっ、そういや君達に初めて会った時の事を思い出しちゃったな・・・。」
「近所に双子が生まれたって聞いてね、俺双子って見た事なかったから興味本位で見に行ったんだよね・・・。」
「そしたら、君たちのお母さんが家の庭に居てね、その時君達を見せてくれたんだ。」
「君達のお母さんは一人を抱いていて、もう一人はベビーカーに乗せていたんだよね。」
「二人共そっくりで、かわいくて、抱かれている子に指差しだしたら興味も示されなくて・・・。」
「ベビーカーの子に指差しだしたら、指掴んできてね・・・中々放してくれないんだよね・・・。」
「あの頃はどちらが姉か妹か解んなかったから、今思えばベビーカーの子ってどっちだったんだろ?」
興味深く聞いていた
「小さい頃の
「いやいや、別にいいんだよ。」
「ただ印象的だったから、今だ思い返せば忘れていた記憶が思い起こせると思っただけで・・・。」
「でも、あんなに小さな赤ちゃんが、俺の指を離さなくて痛くはないんだけど、赤ちゃんて結構力あるんだととても不思議に思ったよ。」
「ん?・・・どうしたの?」
「ごめんなさい、兄ちゃんの話聞いていたら思い出し笑いしちゃった。」
「小学校に入学した頃だったかな・・・。」
「兄ちゃん覚えているかな・・・私、
それはたわいない幼い頃に抱く感情の一つだった。
「ああ、あったねよく覚えているよ・・・。」
「私と
「うんうん、俺確か、中学か高校の時だったな、君達の喧嘩って初めて見たから驚いたよ。」
「
俺はこの双子の姉妹の成長をずっと見て来た。
俺には双子の姉妹と同世代の妹が居り両親の愛情も妹に注がれていた時期でもあった。
年の離れた兄弟という事もあり両親の愛情が実の妹に対して向けられている事には然程思うところはなかった。
両親の過度な妹への愛情から俺は妹に対して少し遠慮がちになっていた。
実の妹へ向けるべき愛情を、近所に住むこの双子の姉妹に向けてしまっていたのである。
結果、この双子の姉妹は俺にとても懐いており、俺もこの双子の姉妹をとてもかわいがっていた。
向けられる愛情に対して愛情を返すのは当然だ。
かといって、実の妹が可愛くないと言ったら噓になる。
血の繋がった兄弟であり歳が離れているのだから、歳の近い兄弟よりも俺には余裕があり妹を優先させてきたつもりだった。
それが災いしてか結果妹は俺に対して我儘になってしまった。
我儘な妹と、素直な近所の姉妹、つい構ってしまうのは後者となってしまった。
「ツバをつけるって・・・。」
俺は思わず吹き出してしまった。
「いや、ごめんごめん・・・俺の事二人で取り合ってたのかなと想像したら、なんだか可笑しくなっちゃって・・・。」
「でも、あの頃は子供とはいえ真剣だったんですよ。」
「
「
幼い頃の話とはいえ、当時の気持ちとしては真剣だったのかもしれない。
俺の今の行為はそれを笑い飛ばす行為に過ぎなかった。
「悪かった・・・昔の事だからって、当時の君達の好意を笑い飛ばすのは失礼だったね。」
「ごめん、俺が悪かった。」
謝罪をする俺に対して、
目は笑っており口元も微笑みの表情をしていた。
最高の微笑みを前に、俺はまたベストショットを取り損ねた気分となっていた。
「昔の事ですしね・・・もういいです・・・。」
「
徐々に聞こえ辛くなる彼女の声の最後に聞き取れた言葉が俺は頭から離れなくなっていた。
「だから私は今でも・・・。」
どういった意味なのだろう、意味合いとしてはいくらでも想像が付く。
俺が望んでいる意味なのだろうか?
言葉の意味は二人の関係が急接近した頃に判明した。
それが判明するのにそれ程の日数を要さなかった。
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