第19話 目的と手段。
一番知りたくて、知らなきゃならないのは、ゆいが世界をループさせている理由とその方法。
それを知るためにはオレは九日より向こう側の空気を吸わなきゃならん。
だとしたらやることは変わらないんじゃ……。
つまりオレはできるだけ九日と闘いつつ、ループを繰り返してゆいから情報を集める。
もう、解りきってるけど、ループとは言え、全く同じ世界が繰り返されるわけじゃない。
それはオレも同じで、ループしているけど、何度でも迎えた、生きる日々には初めての感覚があって、やっぱり意識しないと同じ日々を繰り返す。
それに積極的にオレが違う行動を取っても、未来に与える影響は微々たるもの。
もしかしたらオレが学校の窓でも割って周ったりすれば、いろいろと変わりそうだけど、これはゆいを悲しませるに違いないし、これでループ突破しても色々お先真っ暗な気がする。
世界はある程度の既定路線に乗っかって進んでいて、時々オレが駅の間隔を変えたり、少し線路をいじってみたりするだけで、目的地と到着時間は変わらない。まるで日本の鉄道だね。
十月八日。
「ゆい。何かここ最近……」
「最近そればっかだねってこと以外、特に無いわ。で、そろそろ真意を訊かせてくれてもいいわよね?」
ゆいはオレが何度も何度も同じ質問をするから、少々苛々気味です。
「あはは。そう怒るなよ……。ま、ないならいいや。あ、あのさ、明日の放課後空いてる?」
でも、やっぱりないか。とりあえずループするためにゆいを誘っておく。別に誘わなくともループできるんだけど。
しかし、慣れないな。いつもは流れで遊ぶから、こうして正面から予定聞くのとか……本当に何度やっても慣れない。
「うーん。空いてるけど……どうしようかなぁ。きゅうちゃん、ここ最近同じ質問ばっかしてきて耳が痛くて耳鼻科に行きたかったんだよなぁ」
おっと、これは今更ながら初めてのパターンだ。
「……ごめんって。もうしないからさ。空いてたら駅の時計台の前のところに来てくれよ」
「もうしないって……なんであんなに毎日毎日同じことばっか聞いてきたの?」
「い、いやそれは……言えないんだ。そ、そんなに嫌だった?」
「わたしの身になってみなさい。いくら幼馴染と言っても意図のわからない質問を毎日何度もしてくるのよ? ちょっとは頭痛がしてくるよ」
これはかなり怒ってらっしゃるな。オレは久しぶりにゆいの前で緊張した。
「そして理由を訊けば、絶対に答えないし」
「ほんとに……あれだよ。暇つぶしみたいな。ゆいの声が訊きたかったんだよ」
「へぇ…………」
ゆいは目を細めて、冷たい目線を向けてきた。
でも、オレ、そんなに訊きまくってたかな?
「じゃ、散々きゅうちゃんの暇つぶしに付き合ってあげたんだから、明日行かなくていいわよね」
「……え?」
断られた……?
「これ以上、『暇つぶしにわたしの放課後をも潰させろ』と? 親しき仲にも礼儀ありって言葉を知りなさい。いくら幼馴染でも嫌なものは嫌だし、苛々するものは苛々するのよ」
そ、そんな突き放すような言い方。
「ごめん。で、でも明日だけは……」
ゆいはパチンと手を叩いた。
「はい。おしまい。じゃあね、きゅうちゃん」
「ちょ、ちょっとゆい……。ごめんって……。あ、謝るから……」
「明日一日はわたしがなんで怒っているのか考えなさい。その答えは明後日に聞くわ。それまでは話しかけないでちょうだい」
「そ、それじゃ間に…………」
――合わないんだ。だって、オレは明日、死ぬんだから。
オレは彼女の手を掴んで「行かないで」と言えなかった。
ゆいが怒るのはすごく珍しいことだ。しかもただ質問……そんな精神壊すレベルだったかな……。
いや……オレは必死だっただけ、なんだ。
十月九日。オレは学校を休んで、約束されなかった待ち合わせ場所に向かった。
子供を助けて……ボールを避けて……缶広いして……。
昨日から、ループのことは考えられなくなった。ゆいがなんで怒ったのか。
いつもなら時間を空けて醒めてから土下座の一つでもすれば赦してもらえた。
でも、今回に限ってはそれが出来ない。今回のオレはゆいに嫌われたまま死ぬんだ。
ゆいに嫌われてしまうことがどれだけ辛いか。
だって、オレは君のために何度も死んできた。君のために質問……。
違う……違う。違う。違う。違う。違う。
オレがゆいのためと確信してから、死んだのはものの数回だ。
それまではオレがゆいに思いを伝えるために死んだ。
でも、どっちにせよ、だ。
オレはゆいがいたから頑張ってこられた。これに疑いようはない。
待ち合わせ場所が見えてきた。
「――そろそろか。」
待ち合わせ場所にはなんとなくゆいっぽい人がいるように思えたけど、たぶん、気のせいだ。
「ごめんよ。ゆい。次はもう少しうまく立ち回るから―――――」
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