第18話 ギミック。

 十月二日。オレは一週間後の今日に死ぬことになっている。


 本当はそれより後に起こる(と思われる)ループする瞬間に立ち会いたいんだが、女神は言った。


『あなたが死んだらループする』と。


 でも原因はオレじゃないんだろ? 訳が解らない話だ全く。


「焦る必要はないよな」


 オレは鏡の前でネクタイを締めて、部屋を出た。



「きゅうちゃん。今日の化学の小テスト勉強はした?」


「ん? ああ、いや……。したわ。たぶん完璧」


 だって、もう問題文を一問目から暗唱できるくらいだもん。

 何度も受けた実感はないけど、その内容だけは知っている。


「珍しいね! きゅうちゃんが勉強でそんなに自信があるの」


「ああ。今週だけは頑張ろってな」


 とは言うが、オレは今週だけはノートも取るつもりはないし、授業を聞くつもりもない。


 だって、全部『情報』の中から引き出せるのだから。


 それにオレはそんな将来何の役に立つかも解らん、学校の勉強をするより、まず将来を手に入れなきゃならないしな。


 

 一体、ゆいはどうしてループさせて、どうやってループさせているのか……。


 例えば『絶対に押すな』と書いてあるボタンを押してしまってループしたとか……。それなら止めるのも簡単そうだな。


 それか、怪しい魔導書みたいなのを間違えて開いてしまってループするとか……。いいや、そんなものがあったら、開くのはオレだな。


 なんだろうな……オレじゃなくて、ゆいがループさせてしまうようなギミック……。


 少しでもファンタジー要素があれば、オレが飛びつくわけだから、ゆいが好きなもので、それが世界をループさせる何か……。


 洋服とかか? その不思議なドレスを着ると世界がループしちゃいます的な。タイムふろしきの強化版みたいな。


 オレには女装の趣味はないし、あるとしたらそれかもな。だとしたら、難易度が急に上がるんじゃ……?


「ゆい! 服を着るな!」


 なんて言ったら、オレが全身白黒ボーダーの服を着ることになる。

 


 オレは芯を出していないシャーペンをくるりと。ふとゆいの方を見た。


 相変わらず真面目に黒板を見てはノートを見下げ。



 あーあ、何が楽しくて授業を聞いているのかね。オレはゆいのことを一番知っているつもり(――と言うと何か語弊があるな)だが、その全てに共感はできない。


「ふふっ」


 やっぱり幸せに生きてほしいな。



 そうして、また九日に近づいていく。

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