第15話 理不尽と最悪。
「おい。クソ女神出てこい」
「また失敗したのですか?」
オレはまたループを選んだ、つまり死んだ。そういえばちゃんと死後を意識するのはこれが実質的に初めてだ。
最初に死んだ時と、前に女神に会った時は消えてなくなってしまうことしか考えていなかったからな。
「前のはどういうことだ……てか、『また』ってなんだ」
「あなたはあまり聞いていなかったようですが、何度も言っていたのですよ? 殺しなさい、と」
は? そしたらもっと早くにお前んとこに討ち入りに行ってるわ!
「でも、聞こえてはいなかったのかもしれませんね。こうしてあなたという実際的な意識を確立させたまま話すのはこれで二度目ですものね」
「……何言ってるか解かんねぇが、オレはゆいのことは殺さないぞ?」
「だとしたらループも終わりませんよ?」
「は? どういうことだよ」
「あなたは何かを勘違いしていると思いますが、ループの原因はあなたではありません」
「……え? オレじゃない……?」
「はい。あなたではありません」
じゃあ、なんでオレだけループさせられてんだよ…………。
「……。おい、お前、『私です』とか言う気じゃねぇだろうな? 流石にオレの拳が唸るぞ?」
「言いませんよ」
「じゃあ、原因はなんなんだよ。てか、それを教えろよ。ループを突破させたいのなら」
「でも、言えばあなたは撲るのでしょ?」
意外と女神さんって戦闘力は高くないのかもしれんな。
「でも、お前じゃないんだろ? お前じゃないなら流石に殴らん。それは理不尽だからな」
「……ループの原因はゆいさんです」
女神は突き放すように回答を言葉にした。実際に、互いの距離が遠くなったかのように感じる。
女神が一方的に取ったのではなくて、たぶんオレからも取った距離だ。
「……………え?」
この間は真偽の判定するためじゃない。女神の言葉を噛み砕くのにかかった時間。
「ゆい……が、原因?」
「はい」
ゆいが世界をループさせている? 何のため……ってそんな簡単に世界ってループさせられんの?
「適当言うなよ? なんでゆいがループさせてんだよ。てか、ゆいがループさせてんなら……」
「ええ。彼女は世界をまさか自分がループさせていることは知りません」
そうなるはずだ。もし、ゆいが本当にこの世界をループさせているなら、そしてそれを知っているのなら、オレに一回は話をするはずだ。
「そもそもループというのですから、ループしていること自体に気がつくはずもないじゃないですか」
たしかにそうだ。オレ以外の人間はループしていることに気づいちゃいない。それがループの本質だ。
だって、ループとは
たぶん、オレはループする瞬間に死んだから、ループしていることに気がつけている。
「……だから、その原因を殺せと」
「はい。唯一、世界のループに気がつけているあなたにしか出来ないのです」
気がつけている……ね。
「訊きたいことが幾つかある」
「どうぞ」
「まず、ループするタイミングは必ず九日なのか? オレは何回か七日とか八日に死んだ。あれは死んだからすぐにループしたように思えただけで、実際は九日、それ以降にループしているのか?」
もし、そうならオレがループの原因じゃないっていうのも納得がいく。
それにオレが死ぬということと、世界がループするということに全く繋がりがないのなら、どうにかして九日を生き延びて、ループする瞬間に立ち会うこともできるかもしれないし。
「……それは答えられませんね」
「は? なんでだよ」
「本来、ループされて無かった事にされた世界の記憶を引き継がせること自体、やってはいけないことなのですよ。ですから答えられません」
「は? 待て。その言い方だと、お前はオレだけに、意図的に記憶を残したのか?」
「ええ。ただ、それはあくまで『情報』として。『記録』としてあなたに『共有』したのです」
ということは、オレが特別ということではなく、全部偶然だったということか?
でも、いや、だけど――
「……どうしてオレなんだ?」
「……それはあなたにこのループを終わらしてもらうためです」
「だってそれは『殺し』なんだろ? オレは悪いが人殺しなんてしたことがない。もっとそういうプロみたいなやつに依頼すればいいじゃないか」
――それにオレは九日に死んでしまうんだ。もっとオレより長生きして殺しがうまいやつに依頼すべきで、こうして記憶を残しておくべきのはずだ。
本当にゆいを殺したいのなら…………。
「いいえ。あなたに殺してもらわない限り、ループは終わらないのです」
でも、女神はなぜかどうでもいいところに固執した。
これは一体、どういうことだ……?!
「「おい! まさかもう試したとか言うんじゃねぇだろうな!!」」
既に殺し屋とかなんかに試させたのか?
で、実際にゆいを殺して…………それでもループしたから――!
「それは答えられませんね」
「やったのか?」
「答えられません」
「回答拒否は肯定と取るぞ?」
「肯定も否定もできません。あなたには教えられないことですから」
くそったれめ! やっぱり神なんてものはロクでもねぇ。
「……じゃあ、次の質問だ。オレはどうして死ぬんだ? オレがループの原因ではないんだろ? そしたらオレはループする時に生きていてもいいじゃないか」
「あなたは気がついていると思いますが、九日中に確実に死にます」
「……それは答えられるんだな」
「ええ。死んだという情報を与えてしまった以上、ループするのですから、死ぬという情報を与えても実質的に同じですからね」
酷い話だが、聞ける、知れるだけましか。
「じゃあ、なんでその九日の前にも死んだりするんだよ。ループするはずなんだろ?」
「それもお気づきでしょう? あなたがゆいさんに告白しようとしたからです。あなたは九日には確実に死にますが、それよりも前に死ぬ可能性があるのです」
女神は申し訳無さそうにも、憐れむようにもしない。ただ回答を事実のように淡々と語る。
「酷い話だな」
本当に酷い話だ。
「オレがゆいに告白しようとしなくても、九日に死んで、告白しようとすればその告白の直前で死ぬ……と」
「はい。おそらくそうでしょうね」
ん? どうして聞いたみたいに言うんだ?
「お前が決めてることじゃないのか?」
「はい。これは世界の意思です。『おそらく』と言いましたのは、あなたの繰り返しを観察して、あなたと同じ意見を持っているだけです。真実は存じ上げないのです」
世界の意思だぁ?
こりゃあ、たまげた。オレが思ってたより話が壮大だ。
「じゃあ、あんたは何なんだよ。あんたが言ったことは何が真実で、何があんたの憶測なんだよ」
「……そうですね。真実なのはあなたが九日までに死ぬこと。そしてあなたの死後にループが引き起こされること。そのループを止めることができるのはあなただけであること。その方法が唯一なことです。あなたへ与えられる情報が限られるように、世界が公開する情報も限られているのです」
「つまり、あんたに世界は『オレは死ななきゃならないことと、死ぬ前にゆいを殺さなきゃならないこと』だけを伝えたんだな?」
オレは少し勘違いしていた。この女神は別にオレを直接どうこうできるわけではないらしい。あくまで『世界』っていう別の力がオレを殺すことを決めていて、この女神さんはそれを知っているだけ。
だけど、オレが死んだ後で世界はゆいによってループさせられる。この女神さんも世界もループを望んでいなかった。
そのループを止めるにはゆいを殺すほかない。
だが、その殺害者がオレ以外だとループする。
世界は、オレが死ぬ前にゆいをオレに殺させなければならない。
だから、オレだけに情報を残させた。これは超法規的措置みたいなもんなんだろう。
たしかに筋は通っているのか。女神の言うことに矛盾はないような気がする。
だが、女神はいつもオレの想像を最悪の方向で超えてくる。
「それも少し違いますね。ゆいさんがあなたの手によって殺される場合に限って、
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