第14話 二人。

「ただいま〜」


「「遅い!!」」


「ゆ、ゆい? なんでうちにいるの?」


 ゆいはうちの合鍵を持っているから、家に入る経路に疑問はないけど。


「あんたが学校サボって帰るからでしょ?」


「あはは……楽しかったよ」


「それはよかったね……」


 ゆいは少し哀しそうな顔をした。いいや、呆れた顔なのか?


「でも、それはそれよ」


 ゆいはオレの弁当箱を両手に持っていた。


「あ、いや……それは」


 背筋が凍る思いとはこういうことか。

 

 たしか、オレは昼休みに学校を抜けて…………弁当を食べきっていない!!


「これはわたしの料理はもう食べないってことかしら」


 この弁当はゆいに作ってもらっている。オレは購買とかでいいって言っているのだが、「多く作り過ぎちゃうから」らしいのでありがたく貰っている。


「いやいやいやいや! いますぐにでも食べます」


「もう腐ってるかもよ?」


「げ! で、でも食べるって」

 

 正直なところ、カラオケであいつにいろいろ食わされすぎて、あまりお腹が空いていないんだけども。


 オレは弁当をゆいの手から受け取る。


「――あれ?」


「プッ! 腐っちゃうのに残しておくわけないじゃない。友達に配ったよ。本当はきゅうちゃんに食べてほしかったけど」


「ご、ごめん」


「いいよ。今回だけは赦してあげる」


 それに弁当箱は既に洗われていた。


「ありがとう」


 オレはゆいの頭に手を置いた。


「うぇ?」


 できるだけ優しく触れた。髪までも柔らかく、優しかった。

 二人の背丈は互いに一回ずつ高くなって、いまの身長差に落ち着いた。


「ちょ、ちょ何よ」


 なんとかしないとな……。


「きゅ、きゅうちゃん?」


「はは。大丈夫だって」


「……何言ってんの?」


 少しご立腹のようだ。オレは撫でるのを止めてから、笑顔をった。


「代わりと言っちゃ何だが、オレが夕飯作ってやるよ」


「きゅうちゃんが? 料理できんの?」


「おう! 任せなァ!」


 なんて大言壮語で。結局、家事じゃなくて火事を起こしそうになっちゃうし、見ていられなくなったゆいに手伝わせちゃったし、味も笑えるほど酷かった。



――嗚呼、やっぱり。ゆいと笑っていたいな。

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