第12話 ひび。

『彼女、ゆいさんを殺しなさい』



 女神は確かにそう言いやがった。



 オレがループを止めるにはどうすればいいと。

 これ以上、何をすればいいかと。



 そして、



――ゆいを殺せ、と。



 オレはちらりとゆいの方を見た。女友達と談笑しながら昼飯を食べている。


「お前……さすがに見すぎじゃね?」


「あ? 何をだ?」


「ゆいちゃんのこと」


 と耳打ちしてきた。いつもなら「んなわけねぇだろ。オレは未来を見てたんだよ」とか即答できたが、今回ばかりはすぐに言葉が出てこなかった。


「そうかもな……」


「やけに素直だな……。明日は台風と吹雪が手をつないでやってきそうだな」


「はは。そうだったらいいな」


 オレは適当に答えた。が、それに怒ったのか、ああもう、何なのか。急に椅子を乱暴に立つ。


「……おい、立て」


「は?」


「とにかく立て」


 オレは言われるがままゆっくり立つ。


「行くぞ!」


 オレの手を掴んで――まさかゆいのところに引っ張ってくつもりじゃないよな!


「お、おい、オレはそういうつもりは……」


「いいから。行くぞ、午後はサボりだ!」


 オレと自分の荷物を反対の手で持って、オレを教室外に連れて行こうとする。


「あれ? きゅうちゃん?」


 最後にゆいに呼ばれた気がするが、その頃には廊下を小走りで駆けていた。




「おい! どこに行くんだよ。学校抜け出しちゃって」


「ははははは! とりあえずカラオケでも行くか!」


「はぁ?」


「カラオケなら、部屋に入っちまえば職質とか受けないからな!」


 そういう問題じゃなくね――!?




 で、オレたちは駅の近くのカラオケボックスに入った。



「「ほらほら! 歌うぞ! オーイエア! ノッてるかーい!?」」


 オレは無理くりマイクを持たされ、無理くり歌を歌わされた。


「きゅー太ァ!! 声が出てねぇぞォ!! 心から叫べェ!!」


 あなたのテンションはどこから?


 それに選曲がラブソングなの少し苛々すんな。


 でも、オレはマイクを強く握り直した。



 なーにが、女神だこのヤロー!



「スーッ! うおおおおお!! 今夜は帰さないぜ!!!」


 今夜といってもまだ真っ昼間だけど。





「にしても、相変わらず音痴だな゛……」


「はっはっは! カラオケが俺の歌についていけていないだけだ。にしてもお前は喉弱いな。声嗄れてるぞ?」


「そりゃ、あんだげ歌わされればな゛」


 交互に歌えばいいのに、オレの曲ばっか入れて、しかも自分のときはデュエット曲ばかり入れるから、ほぼ三時間くらいぶっ通しで歌ってた。


「じゃ、次はどこいくか。ボウリングでも行くか?」


「え?」


 気がつけばオレたちはボウリング場の前にいたんだ――。





「はははは! お前ボウリング下手だなァ!」


 三ゲーム遊んで、オレの手首やら腕やらは一〇ポンドのボールに持ってかれていた。

 でも、こいつは嘲笑うだけあって、ボウリングだけは本当にうまいのだと知った。



(今度遊ぶときはボウリング以外にしよっと)



「だって、オレボウリングとか行ったことなかったもん」


「な! ボウリング童貞だったのか?」


 「うぇー」と両の指でチクチク差してくる。


「その言い方はやめろ」


「お? ゲーセンがあるな。行こうぜ」


「まだ遊ぶのか?」


「そんなこと言って、お前だって乗り気だろ?」


 しょうがないな……。


 オレは脱いだブレザーを肩に引っ掛けた。


 たぶん、オレは笑っていたんだ。

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