第11話 方法。

「あなたはまだ、死なないのですから――」


「―――――は?」


 おい、まさかまたループしろ……と? オレは永遠に死ねないまま同じ一週間を過ごし続けなきゃならないのか?


「なんでだよ……。天罰ってやつか? ちょっと容赦なさすぎませんか?」


 願ったのは、ゆいに告白できるように、だ。なにも永遠にループすることは願っちゃいないぞ!


「いいえ。これは天罰ではありません。あなたには『救世主』になってもらいます」


 何、オレの黒歴史『自伝』を現実化しようとか言い出すんじゃないよな?


「おいおいおいおいおい。だから異世界転生とかまじでいりませんから。とっとと無とか輪廻とか、なんていうか知らないですけど、死なせてくださいよ」


「ですから、あなたは死なないのです。言い換えれば死ねないのです。あなたはあなたがいた世界を救うのです」


「は? オレの世界って別に魔王とかいませんよ?」


「……。それはいたら困りますね……。でもそういうことじゃないのです」


 オレはなんとなくこの女神さんが吹き出しそうになっていたのを確かに感じ取った。


「じゃ、どういうことなんですか?」


「あなたにはこのループを止めてほしいのです」


――――ループを止める?


 何をいけしゃあしゃあと。無理だったから、いまここにいるんだろうが。


 オレが何回無様に嗚咽を漏らして、何粒もの冷たい涙を零して、何人の無力なオレを犠牲にさせてきたと思っている。


 挙げ句、屈辱的な嘘を混ぜた、情けない遺書まで書いたんだぞ。


「お前! オレが何度もループしてきたことを知らないのか! 


 やっと諦めたのにまだループさせるというのか! 


 オレが未練なく死ねばいいんだろ? 

 

 オレが世界から……せ、かい…………クソッ。お、オレのせいなんだろ? いいじゃないか、本人がもういいって言っている。まだこれ以上……オレは、もう……」



 もう……言いたくない。オレが世界から消えればいいなんて。



 オレは消えたくなんてなかった。何か悔しくて「好き」なんて感情をとうとう言葉にしなかったけど、オレはあの世界がなんだかんだ「好き」だった。


 消えたくなかった。

 死にたくなかった。


 ゆいにも、母さんにも、あいつにも……とうとう言えなかったけど。


 ただ、一緒に生きてさえいられればよかった。



「「これ以上! オレは何をすればいいんだ! また何度も死ねばいいのか!」」


「いつも言っているでしょう……。―――なさい、と」


 最後に女神はとんでもないことを淡々と言いやがった――!


「おい! な、なんて言った! 言いやがった! いま!」



++++++++++



「――なさい!」


「起きろぉぉぉお!!」


「んあ?」


 ループした。

 いつもどおり、優しく揺すられて。


「ほーんと。死んだように眠っちゃって! 遅れるよ!」


「ゆ、ゆい……か」


 オレはゆいの顔を直視できなかった。


「なに驚いてんのよ。二日に一回はわたしに起こしにもらってるくせに!」


「ああ、いや。なんでもない……なんでもないんだ」


「悪い夢でも見たの?」


――悪い夢……か。そうだったらいいな。


「そうかもしれねぇ……いや、ほんとに」


 オレは、流したくなかったのに、みっともなく涙を流した。

 せめてゆいの前では流したくなかったのに。


「え、きゅうちゃん」


 絶対、好きな人に、これから告白しようと思っている人に見せていいような姿じゃない。

 オレは幼馴染に甘えている――!


「ご、ごめん。なんでも――」


 オレは柔らかくゆいに抱擁された。


 オレの方が身体は大きいのに、全部が包み込まれた。


「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ」


「ゆい……制服が濡れる……」


 オレは。


「涙はいつか乾くよ」


「――う、うう。ゆい。ごめん……」


 嗚咽が漏れ出して、止まらなくなった。


「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ」


 こんなみっともないオレでもゆいは優しく頭をなでてくれる。


 やっぱり、オレはゆいのことが好き(になるん)だ。


「きゅうちゃんはだいじょうぶだよ」


 ゆい。いつもは隠しているけど、こんなに優しい女の子。


「わたしはここにいるから」


 ゆい。


「うん……」


 ゆい。



 オレは君を殺さなきゃならないらしい。

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