第9話 涙を流す。

 ほーんと。お手上げだよ。



 オレも馬鹿じゃない。どうせ死ぬなら早めに告っちゃえばいいじゃない! って思ったけど、八日にしても、無理に七日にしても、なぜか告白する前に世界に殺される。


 逆に九日に告白しなきゃループしないんじゃね? って思って、一日ずらして、九日にゆいと約束しなくても、オレは九日にちゃーんと死んだ。


 だからこのループのルールは――――



『オレが死んだらループする。死ぬ条件は九日の夕方頃に自動的に。または告白する直前に』

 

 

 ていうかそんなにオレを葬りたいのなら、ゆいに告白させたくないのなら、ループさせなきゃよくない? なんでループしてんの? させてんの?



 なんなんですかね。かまってちゃんなんですかね。



 もうオレ、トラップとか回避しませんよ?

 やってられないもん。



 それに遺書も書き認めたし。


 オレは手汗に握られた、油性ボールペンを机に置いて、『遺書』をその隣に置いた。



 よぉし。はりきって死にまーす!



 きっとこれが正解だ。もう書いてて確信した。

 書きながら涙流してさ。



 たぶんさ、ループさせてたのはオレ自身なんだ。世界は必ずオレを殺さなきゃならないんだ。

 でも、オレもゆいに伝えなきゃならん思いがあるんだ。


 それを伝えられなかったから、オレのわがままで世界はループした。


 でも世界も何度もループするわけにはいかないし、オレを生かしておくわけにもいかない。

 だからオレに「ループしているという記憶」を残させてループさせた。オレに抵抗するのは「無駄」だと気づかせるために。



 オレは死ななきゃならない。ゆいに思いを直接伝える前に。

 これはこの世界が決めたことなんだろう。



――たぶん、オレがゆいに思いを伝えてから、オレが死ぬのはよくないんだ。



 オレはゆいに思いを伝える前に死なないとならない。

 でもオレはゆいに思いを伝えないと死ねないループする


 だから、オレが死んでからオレが思いをゆいに伝える方法。



――遺書手紙



 化けて出て見るのが一番面白そうだけど、それだとループしちまうからな。



――はい、飛び出るなよ〜。



 でもさ、なんでオレなんかな。世の中にゃもっと、なんなら死んだほうがいいやつなんてわんさかいるでしょ。



――ストライーク!



 オレは本当に普通の人間だし、法律も守るし、借りたものはちゃんと返すし、学生としても良くも悪くも平均だし……。



――――逆か?



 オレは平凡だから、替えがきくから……。  


「みっともねぇ……。こんなとこで泣くとか……」


 オレは涙を拭って、前を見た。待ち合わせ場所ではなく、死ぬべき場所の方を。



「――そろそろだな……」



 やっぱ死にたくないな……。本当に死にたくないな。まだ生きていたいよな。



 痛いよな。



 辛いよな。



――生きて、死にたい



「オレってちゃんと生きたのかな?」



 十六年間、ちょっとごちゃごちゃした記憶があるから、もっと生きていた気がしなくもないけど、今回だけなら十六……ああいや、この場合は九日になるのか?



「九日はやだな……」


「やっぱり死にたくないかな」


「何回も死んだ……はずなんだけどな」


「でも、今回は正解ホンモノだと思うんだ」



 伝えたい。でも、伝えられない。

 生きていたい。でも、生きていられない。

 ループしたくない。でも――。



 父さんはどんな思いだったんだろう。オレが生まれる前に逝っちまったらしいから、オレは直接逢ったことはない。


 あっちで会えるのかな。


 逆に母さんはどんな思いなんだろう。まるでオレと入れ替わるように父さんが他界して。

 そして、その息子さえ……。



「ああ……いけね」



 また涙が零れてきやがった。


 ごめん。母さん。オレ、先に父さんに会ってくるよ。


 

「じゃあな。ゆい……」



――――。

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