第8話 オレは知っていた。

 オレはあれからさらに何度も試した。


 やっぱり、オレは十月九日に死ぬ。



 最後のトラップはまだ解らない。


 もしかしたら、オレ自身に問題があるのでは? とも思って病院で検査してもらっても、やっぱり清々しいほどの健康優良児。

 


 大枚はたいてタクシーに乗った。タクシーなんて乗ったことがなかったから知らなかったんだけど、座席が白いレースみたいになってんだな。

 で、そのレースの触感を楽しんでたら、事故に遭った。


 どこからともなく飛んできた、吹き矢の即死級の毒で殺されている可能性を考慮して、ニット帽にサングラス、マスク、マフラー、軍用手袋(=軍手)に分厚いコート。そして極めつけに安全靴と、まだ秋なのにフル装備で挑んでも――――



++++++++++

 


「―――なさい」


「――なさい!」


「起きろぉぉぉお!!」


「んあ?」


「ほーんと。死んだように眠ちゃって」


 ループした。


 おいおい、ループものの主人公ってこんなにつらいもんなのか? 

 正直、馬鹿だろこいつとかいつも思ってたけど、オレも大概だな!



 何回目だ? 



 もし、オレのいままでの九日間が全部他のループものの主人公みたいに「感覚」として残ってたら、とっくに精神崩壊が崩壊してる。


 だってただの「情報」として残っててもかなりきてるもん。


「なぁ、ゆい。学校サボらないか?」


「……? どこか悪いの?」


「強いて言うなら寝起き」


「はぁ……。馬鹿言ってないで早く行くわよ! ほら脱いで!」


「いやいや一人で着替えられるから。不要介護です!」



――――やっぱ、無理だな……。



 オレはずっと前から伏せてきた。見ないようにしてきた。このループを終わらせる最後の方法。



――オレは知っていた。


 無駄な奮闘悪あがきする前から、このループの簡単な終わらせ方を。



――オレは知っていた。



 オレはその至極簡単な終わらせ方に赦されて、受け入れないといけないと。

 オレはそのな終わらせ方を赦して、受け入れてもらえないといけないと。




―――だから、オレはとうとうループからの脱出を諦めることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る