第6話 死んだからループするのか、ループするから死ぬのか。

 呆然と一日が終わった。



 いやいやいやいや待て待て待て待て。


 なんで死んでもねぇのにループさせられてんの?


 え? オレ死にました? 


 なにかトラップを見逃しているのか? 子供、硬球の野球ボール、高級車……。


 解らない。まず、その最後のトラップを追求しない限りオレはこのループから抜け出せない。



 来たる十月九日。


 二度目の全トラップ回避。タネが解ってりゃ、トラップを回避するなんて簡単だ。


 待ち合わせ場所が見えてきた。心臓が高鳴る。


 ここで、オレは腕時計を見てループしたんだ――――。



++++++++++



「―――なさい」


「――なさい!」


「起きろぉぉぉお!!」


「んあ?」



――――は?



「ほーんと。死んだように眠ちゃって」


 どういうことだ。やっぱりループしている。

 

 冷や汗が止まらない。何が起きている?


「きゅうちゃん? どしたのそんな真剣な顔して手のひら見て……手相占い?」


「ん、ああ、いや……それより急がねぇと遅刻するぞ!」


「え? あ、うん。そうだね……てか、わかってんならもっと早く起きてよ!」


「ほら! オレ着替えるからさ!」



++++++++++++++++++++

++++++++++++++++++++

++++++++++++++++++++

++++++++++++++++++++


「―――なさい」


「――なさい!」


「起きろぉぉぉお!!」


「んあ!」


 あれから何回死んだ? いやいや、死んでないんだって。

 何回やっても何回やっても、待ち合わせ場所の手前で必ずループする。 


 走っても、ゆっくり歩いても、なんなら一回だけ匍匐前進したからからな!


 でもやっぱりループした。


「きゅうちゃん? ぼーっとして大丈夫?」


「あ、いや、むふふな夢が見られたから余韻に浸って――!」


 オレは顔面でゆいの投げたぬいぐるみをキャッチした。


「そんなこと言ってないで早く着替えろ――!」


 少し赤面したゆいを見れたので、今回のループは満足です。ごちそうさまでした。


 じゃないよ。なんでだからループしとんのさ。




――オレはその夜、考えた。



 まず、オレは十月九日に死ぬ。死ぬと必ず十月一日の朝にループする。


 これは多少演繹的だけど、確定だ。


 また、この一週間を生きて、死んで、また戻って、生きて、死んで。



 だけど、この死は回避できた。

 

 でも、最初の死を回避したら、すぐに別の死がやってきた。

 でも、二番目の死も回避できた。そうしたら三番目の死が……四番目の死が…………。


 でも、無限回にはならない。だって、オレにはゴールがある。


 待ち合わせ場所に着くということだ。



 いや、待ち合わせ場所で死ぬ可能性はあるけど……。



 だけど、やっぱりここ最近(?)のは違う! 

 オレはたしかに死んでない。一瞬で今朝に戻ってきた。



 それともあの場で即死する要因があるのか?


 いやいやないない。四方八方上下を確認するために十回くらい死んだからな!

 でも、何もなかった。


 しかも他のトラップは解りやすかった。ぶっ飛ばされたり、轢き殺されたり……生き埋めにされたり……。

 

 じゃあ、魔法とか、それとも年代物の呪いとか?



 というか、そもそも「死」ってなんだ? オレは本当に死んだのか?


 心臓が止まったら「死」なのか? 

 それともこの思考、脳が動かなくなった時が「死」か? 

 オレは本当はどのトラップでも死んでいなくて……。



 いいや。たしかに死んだんだ。オレが「死んだ」と思った。だから「死」んだんだ。

 その痛みも虚しさもいまのオレには感覚としては残ってないけど、その時のオレは本当に抱いて、それらはたしかに記憶はされている――。


 たしかに死にきって、そうして初めてループした…………。



「――ちがう……のか?」



『オレが死んだらループする』これが間違っている?



「――そっか……。」


 そりゃそうだろ。オレ一人のために世界がループするわけないだろ。



 オレは『救世主』なんかじゃない。

 オレは『勇者』なんかじゃない。

 オレは『神』なんかじゃない。

 


 オレって一体何なんだ?


 これは本当にオレか? 

 

 オレは本当はのトラックに轢き殺されて、これは死後の世界なんじゃないか? 


 オレは死んだら、オレじゃなくなるんじゃないか?


 としたら、オレは未練に縛り付けられた、未練の世界を彷徨っているだけなんじゃないか?


 そもそもなんだよ。最初って。命は一つしかないはずだろ――!



――命ってなんだ? 



 生物の原動力か? 動かない生物に命はないのか?

 

 いまのオレに命はあるのか?


 命がなければオレは死んでいるのか?


 死ねば命はなくなるのか?


 オレが命を持っているのか?


 それともオレが命の所有物なのか?



――解らない。

―――解らない。解らない。解らない。



 解らないことだらけだ。解らないってことだけは解る。



 人生何周目とか言われる人はいるけど、それは周回するコースを厳選しないと大したものは得られないってことだ。



「――はぁ……。やってらんね」


 とうとうのぼせそうになったから、冷水のシャワーを浴びて浴室を出た。


 

――でも、一つ。オレはまだ、死ねない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る