第5話 ループしてループして、そしてループして。

――――十月九日。



 綿密な計画を練って、やはり早めに家を出る。


 まず、子供を公園に返し、そこから二つ目の街灯とすれ違うところでしゃがむ。

 そうすると、頭上に殺人野球ボールが飛んでくるから、通過して対向車線の走行中車にぶつかるまでを見届ける。



「はい、ストライクストライク」



 そして低い姿勢のまま、歩道に落ちている空き缶を拾う。そうすると、黒の高級車が止まって「兄ちゃんいい心構えじゃねぇか」って言われて、コーヒーを投げ渡されるから、「恐縮ッth」とか言ってキャッチする。


 ちなみに、この缶を拾わないとなぜか、その高級車がスリップしてオレに突っ込んでくる。

 こうして一回高級車を減速させないといけない。



 嗚呼、この正解にたどり着くまでに何度死んだことか!



 これだけじゃない。このあとも様々なトラップがある。


 だいたいどれも車絡みだから、一回公園を抜けてしまえ! と思って、公園を進んでたら、道が派手に陥落して生き埋めになったから、もう二度と通らん。



 正直、生き埋めが一番つらかった。



 それにオレが通ることで陥落するらしいし。

  


 詰まる話、世界はオレを殺しに来ているんだが、そんなに殺したいならループさせるなって話だ。



 というかこれで何度目だ? 正確な数字は解らない。もしかしたら、一年以上ループで過ごしたのかもしれないな。


 でも、身体はリセットされているから疲労感とかはない。実際、いままでループしてきた記憶はあれど、それがオレの実体験という……言わば「実感」というものもない。


 だからこの十月九日も、知ってはいるけど実感としては初めての十月九日。



 いままでのループした日々は単なる情報としてオレに蓄積されているだけ。その情報は時の長さを感じさせない。


 それはある意味救いだったのかもな。もし、散々ループした九日間が、過ごした時間の永さと死の痛みを遺しやがった日には、オレの精神は崩壊しているころだ。


 さてさて待ち合わせ場所まであと数分。最後の謎の闘争に巻き込まれるトラップを抜けてから、数分間何も起きない。



 あれが最後のトラップだったのか?



 では、今度こそ勝ったのか?




 待ち合わせ場所が見えてくる。



――あ、そうだった、告白するんだった。



 最初のときは何言うか決めておいたはずなんだけど、もう何回もループして死線をどう掻い潜るか、言わば世界を攻略するか、に手いっぱい頭いっぱいで、告白の文言とか考えてなかったな。



 心臓も高鳴ってるけど、これは告白するからなのか、いつ訪れるか解らない近い死への恐怖なのか。



 ま、「なんくるないさ~」の精神だ。ちょうどよかったじゃないか。 

 


 トラップに頭を使っていた分、もうトラップはないのだからその脳の空いたスペースが余裕となる。


 オレは腕時計を見た。




++++++++++



「―――なさい」


「――なさい!」


「起きろぉぉぉお!!」


「んあ?!」



――――十月一日。

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