第4話 プレディクティブ・マスターだッ。

 オレは作中で『プレディクティブ・マスター』という、起こりうる未来を先読みする能力を以て世界最強の剣士を討っている(オレの自伝は勇者と言っておきながら、所謂ダークヒーローもので……いや、そんなことはどうでもいい)


 作り話だが、いまのオレの状況はまさにPredictive Masterだッ!


 やはり八日までは難なく過ごし、九日がやってくる。


 オレは前回より更に早くに家を出た。


「ふっふっふ。さすがはオレ。さすがはPredictive Masterだッ!」


 面白おかしくて笑いが漏れてしまう。


 どうだ? 神よ。これで完璧だろ。


 オレは事故が起こる現場に先回りしていた。

 二度目の事故で解ったんだが、あの子供は転がっていったボールを取りに飛び出したのだ。



 ならばオレがそのボールを受け止める――もしくはその子供を歩道に食い止めればいい。

 何度でも言おう。オレは賢い。目下の問題の最適解を最短で導き出せる!


「お、来たな」


 例の子供だ。やはり安っぽいビニールのボールを転がして歩道に来た。隣が公園だから、もしかしたら公園で遊んでいるうちに夢中になって飛び出してしまったのかもな。


 オレは転がってくるボールを拾ってあげた。


「ほら」


 オレはボールを子供に手渡しする。

 そのボールはオレなら片手で持てるが、子供は両腕で抱きかかえた。


「ありがとう! お兄ちゃん」


 オレを純粋で輝いた、憧憬の眼差しで見上げてくる。


「ここは車道が近いからなァ。公園にお戻り」


 オレはイケボを意識して、お兄さん風を風速一七.四メートルで吹かせた。


「うん!」


 はい。勝訴。


 あとは安全第一で目的地に向かうだけ。


 そもそも日常生活で死ぬとすればそれこそ交通事故くらい。しかし、その問題は解消された。

 

 あとは悠々と歩いて待ち合わせ場所に向かうだけ……。


「……フラグ、じゃないよな」


――その矢先。


 後頭部を強く殴られたかのような衝撃。


――あ。これ死ぬやつ……!



 二度も死ねば三度目もすぐに解った。

 たぶん、当たっちゃいけない類の飛来物に当たっちゃったんだな。



++++++++++



「―――なさい」


「――なさい!」


「起きろぉぉぉお!!」


「んあ?」


 四度目。三度目の正直というやつだ。もう、んあ? の時点で全てを覚った。



 そして解った。ループは当事者になれば普通に難しいことだと。

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