第3話 自作の自伝ほど、恥ずかしいものはない。

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……いや。二度目は洒落にならんのだが。


 え? オレってそんな生きるの下手だったか?


 また子供助けてトラックどーんて。運転手さんも気の毒で仕方ない。二度もオレを轢いちゃって……あ、いや実際には一回なのか。


 たぶん、神とか仏やらもいま天界みたいなところで大笑いしているのだろうな。



『え? あいつ二回もおんなじ死に方してるよwwwwwww』

『南無阿弥陀仏 #無常とは』



 でも、仕方ないじゃん。あの子を助けなかったら、見殺しにしたみたいじゃないか!


 はぁ……今度こそ死ぬんだろうな。せめて遺書を遺すべきだった。結局オレは何も活かせちゃいなかった。

 

 というか、ループしたのに実感がないせいだ。気を抜いたらループしてたこと忘れそうになったもん。


 

「――――なさい」


 そこんとこ、ちゃんとしてほしいよな――。

 っても、さすがに今回はオレが馬鹿だった。



――でも。



「――なさい!」


「起きろぉぉぉお!!」


「んあ?」


 オレは強くゆすられ目を覚ました。


「ほーんと。死んだように眠っちゃって! 遅れるよ!」


――死んだように……。


「……ああ、なんだ。ゆいか」


「なんだじゃないよ! 何時だと思ってんの!」


 やっぱりだ。

 

 オレは九日に死ぬと必ず一日の朝に戻ってくる。


「きゅうちゃん?」


「あ、いや、てか急ぐぞ!」



――オレはどうやらループする世界線に迷い込んだらしい。

 

 だいたいループってのは一回でクリアできるはずがないもんだ!




「まず解っていることを整理しよう」



 オレはこれから三度目の十月一日から九日を過ごすことになる。


 二度目のときに解ったけど、多少行動を変えても、大体同じことが同じ時間に起きる。空から急に女の子が降ってきたりとか、○ンター○ンターが連載再開したりはしなかった。


 たぶんそこら辺は世界の復元力みたいなものが働いているんだろう。


 だから、オレは九日に死に直した。



 はっは! 簡単な話だ。オレはこれからこのループを抜け出せばいい。



 自分で言うのもなんだが、オレは賢い。そこらの物語の主人公たちよりは上手に立ち回れる自信がある。

 


 では、どうすればループを抜け出せるか。



「フッ……実に簡単なことだよワトソン君」


 オレが死ななきゃいい。それだけ。


 だって、死んだからループしてんだからな!



 でも、もう二度も死んでるじゃないですか! ホームズさん! 


「フッ……問題ない。策はもう打ってあるのだよ」


「何やってんのきゅうちゃん」


「ふわゑぇ?」


 気が付かなかった。背後にゆいがいたことに。


 オレは思わず反射的に背筋を伸ばした。


 このパターンは初めてなのだ。前回まではこの時間はオレは教室で惰眠を貪ていたからな。


「いつから?」


「『フッ実にかんたんなことだよ、ワトソン君』から」


「――ッ――――」


 恥ずかしいいいい。普通に恥ずかしい。


「世界の勇者から探偵にジョブチェンジしたの?」


「お、おい! そ、それは子供の頃の……」


「でも、きゅうちゃん中学生の頃まで自伝書いてたわよね。『勇者ノイ……」


「ああ! ああ! 言わないで! てかなんで知って……見たのか」


 あれは墨で塗りつぶされた黒歴史。机の鍵付きの引き出しの奥底に『封印』したはず……。


「うふっ♡ きゅうちゃんのことならなーんでも知ってるの!」


 そういえばゆいも同じ机使ってたんだったな……。

 それに勉強机の鍵なんてクリップでもあれば簡単に開けられるしな……。


「ぷ、プライバシーというものが……だな……」


 オレは席に座っていて、ちょうど目線の高さにゆいの……そのアレ……丘があったのだ。


 幼馴染補正をなしに言えば……それは決して大きくはない。

 だが、たしかに――そこにたしかに、そのベージュ色のベストの下にはオレには無い、ほんわかがある。


 ふーむ。人は成長するものだな……。染み染みする。


「ちょっ! どこをまじまじと見てんのよ!」


「いや、つい! あ、不可抗力だ。ま、いいじゃねぇか。朝言ってたじゃないか。裸なんて見飽きた関係だろ?」


 なぜ山に登るのか。それはそこに山があるからだろう?


「……つまり、小さいというのね。そうね。小さいわね」


 いや、そんなことは言っていない……あ、「子供の頃の話だろ!」か。


 裸を見合ってたのは「子供の頃」とオレが言った。いや、見合ってたわけでもないけど!


 つまり、子供の頃からお前の裸は変わらな……オレは何を脳内整理しているんだ?

 どうも二度も死んで三回も同じ日々を過ごそうとすると変な癖がつく。


 というか、その捉え方はゆいが偏屈すぎるんじゃ?



「ああ、いや、オレは貧乳派……」


 だがしかし……オレは一回目……ループする前は、この頃からゆいの事が好きだったのだろうか。


 オレはいつからゆいを好きになって、いつから告白しようと決めたんだっけ。



 忘れそうになるが、オレはゆいに告白する途中で死んだ。



 でも忘れそうになるということはまだ、このときにはただの幼馴染としか思っていなかったのかもしれない……。


 最初に告白を決心したのはオレの中では一週間以上も前のはずだ。

 でも、いまのオレにとっては未来の話…………?


 ま、時間なんてどうだっていい。


 オレはたしかにこの女の子を好きになったんだって。

 また、どうせ九日にはゆいのことで心がいっぱいになっているんだから。



「さて、わたしは胸、そして心も小さいから、いますぐにでもきゅうちゃんの黒歴史を言いふらさないと気が済まなくなりましたー!」


「それ最悪じゃねぇか……って……まじで。ちょ! 待てェ……なんでそのノート持ってんの! あ、ちょっと!」


 このあと、『自伝』は多少、人の手に渡り、最終的に必殺技DOGEZAで返してもらった。


 だが、その代償と言っちゃなんだが、オレはこの『自伝』から一つ、アイデアを得た。

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