その恋、進展なし
学園都市にも季節の移り変わりがあります。
魔法使いが使う言葉ではどの季節を言っているのかわかりません。
「年明けの日より月が満ち欠けを四度繰り返した夜が明けた朝の季節」とか。
理解できない物を無理に使うよりも、書庫で得たどこかの呼び名をお借りして春夏秋冬としましょう。
学園都市にも夏がやってきました。
火にかけられたお鍋の湯気の中に居るようだったお屋敷と比較すると、ここは冷涼な気候なのでとても過ごしやすいです。
「あつい。」
わたしが涼しげに寛いでいる傍では、クラスメイト達が制服をはだけながら思いのままにとろけていました。
制服は全体的に薄くなっていて、ところどころ透けています。柄のある下着などは丸見えなのではないでしょうか。見えないとこでもお洒落がしたいお姉さま方にとっては大変であり、意中の相手にアピールするチャンスでもある時期かもしれません。
意中の相手といえば、わたしが大好きなのは先生です。それは春から夏になった今でも変わりません。
しかし、傍から見ると何の進展もないように見えるらしく、諦めたかフラれたか小さな話題になっているとの情報を耳にしました。女性の噂話というものは怖いもので、聞いた話ではわたしと先生の関係は既に終了していて、数日のうちに故人とその家を侮辱した先生に懲罰が下される事になっていました。展開が早い!
わたしを探す為に探査の魔法を都市全体に張れる程なので、既に耳に入っているとは思いましたが、一応先生にも報告しました。
関係が進んでいないという部分まで自分から語るわたしを見て苦笑なされていました。
ええ、認めましょう。確かに今の時点で関係に進展や後退はありません。
わたしの想いは出会ったその日のうちに伝えていますし、先生にもご理解いただいています。
先生はわたしを傷つけまいとしているのでしょう。添い遂げる事を人生の目標として学園に通うわたしは、想い人に拒絶された時点で生きる目的を失う事になります。一人の女性を愛する程度には人の感情を理解している先生は、現状維持という決断をしたのです。
返答をただ待ち続けるのはとても苦しいです。思わせぶりな言動をしていたのにダメだったときの落胆は待つ時間に比例して大きくなります。ショックのあまり世界を滅ぼそうとする程に絶望してしまうかもしれません。
なぜ先生は即答せず、そんなリスクを背負ってでも現状維持を選んだんでしょう。その答えはこの学園の現状にあります。
この学園は歴史が長く、それを誇りとしている上の役員ほど古い価値観に基づいた言動を行います。ここの教師達には恋人をすぐに乗り換えるのは相手に対しての侮辱であり不義理であるという意識があるんです。交際する男女が別れた際に毎回大騒ぎになるのは首を突っ込んでくる役員達が原因です。
理事長が懸命に変革を促しているおかげで若い人達を中心に変わり始めてはいるのですが、意識改革というのはなかなか難しいようです。
大切な人を失ってまだ間もない人がすぐ次の誰かに乗り換えるのは、それが許される環境であるのならば、心のスキマを埋める自衛のための行動として認められるでしょう。この学園都市ではそれが許されていない。
それどころか、一番安静にして差し上げるべき時期に一番面倒で大変な仕事を押し付けられている。忙しく動き回らせ、疲労させて悲しむ暇を与えてないのです。合理的だけど上司としては最低です。
待つ方も苦しいのですが、返事ができない先生も苦しいはずなのです。
わたしがその原因なのは本当に申し訳なく思います。
でも、この恋はやめられません。止めたくありません。
わたしは信じます。特別学級のまとめ役として立ち振舞うわたしを疎ましく思わずに頼ってくれる先生を。
今もなお慕っていることを明確に嫌っていない。それが答えだと信じています。
とても頭のいい人ですから、わたしの幼い恋心を利用して問題児学級をうまくまとめているのかもしれません。
証拠を残さない方法を用いて「使い捨てにされるぞ目を覚ませ」と警告してきた役員がいました。一瞬だけですが、揺らいでしまった自分が情けない。
便利なものとして利用される事になっも傍に居られればいいのです。なにをいまさら。
他の女性が先生に絡んでくる事や、先生がそれになびいてしまう事にも恐れはあります。
どんなに取り繕い、背伸びしようと子供は子供。一端の人間としては認められません。本物の大人の包容力の前には為す術がないのです。
わたしはわたしができる事をできる限りで頑張ります。だから、落ち着いた時には返答を言葉で欲しいです。
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