第六章 憎悪に燃える皇都/復讐鬼
第53話 暗黒街にて
べル・カナル……暗黒街と呼ばれる一帯が、皇都には存在する。
元は貧民街だった場所だが、そこにやくざ者や
皇都のゴミ溜めとも呼ばれ、皇国内でも悪名高いそんな地区の入り口近く。
まるで
この季節は一面、青く晴れ渡っているのが普通な皇国の空までが、ここでは心無しかどんよりと曇っているかのようで、石柱はちょうど石
その二本の塔は、元は皇都の外殻障壁の一部だった電理ブロックが、雑に積み重ねられた
そんな暗黒街入り口近くの路地に、今、二人の少女の姿があった。
「それにしても……ティガの家が、
薄い
「ま、あんまし
ソバカスの浮いた顔に照れ笑いを浮かべながら、浅黒い肌の少女が答えた。
ちょっと午後のひと仕事でも終えたような顔で、仲良く歩いているこの二人は、マギスメイア電理魔術学院の一年生……セリカとティガである。
今日は休日なので、制服は着ていない。
「ううん、それでも、尊敬に値することよ。私も、見習いたいくらい」
「えへへ、セリィにそんなこと言われちゃうとな~。実は、この街区の
「ふぅん……でもティガって、子供達に人気あるんだね。救貧院の子みんなに『ゴハンのお姉ちゃん』って慕われてたじゃない?」
にこにこしながら、セリカが言う。
どうやら今はちょうど、紙皿に盛った料理を
「あはは、やめてよぉ! あんなガキんちょどもにモテたって、しょーがないじゃん。まあでも、子供は嫌いじゃないけどね。ウチは弟に妹が多いからさ~。でもセリィも、ありがとね? せっかくのお休みを潰して手伝ってくれて、さ?」
「ううん、ちょうど試験があんなことになった直後だもん。昨日は、二人して休んでるのも何だかな……って思って、ユーリ君のところへ行ったら、留守なんだもんね」
「そうそう、ついでにいつもの訓練、付けてもらおうと思ったのにさっ! レギオン・バトルからこっち、なんだか身体がうずいて、仕方ないんよね~。再試験もそのうちあるはずだし!」
「あはは……ティガ、気合が入ってるのは良いことだけどさ、ユーリ君にも彼なりの都合があるでしょう? 訓練の指導っていったって、無理強いはできないわよ?」
「もちろんだよ! ウチの手作りの料理を差し入れたりして、お礼がてらに、少しずつ教えてもらおうと思ってんの!」
「あ、そうなんだ? ふぅん……」
「何よ何よ、その間は……!? ウチが訓練にかこつけてアプローチしてんじゃないかって、ちょっと気になんの? ウリウリッ!」
「ち、違うわよ……彼のことは尊敬してるけど、そんなんじゃ……!」
「大丈夫だっつの、ウチは何せ、そのヘンは友情第一だもん! オトコは縁が切れたらそこまでだけど、オンナの友情は一生モンだって母ちゃんが言ってたし!」
「そのヘンってどのヘンよ……! いえ、その……ちょっとね、ユーリ君ってどんな料理が好きなのかな? って思っただけ! まあ、お菓子は、かなりの甘党ぽいけど……」
「あ~、ユリっちっていつも、砂糖菓子とかばっか食べてるもんね。よくあの痩せマッチョ体型保ってられんよね……ある意味で
「ああ、それは確かに、ちょっと思っちゃうわね……食堂でもよく、メガ・シュガーボム・ドーナツを、パクついてるのを見るし。どういう体質なのかしら?」
「うんうん、よっぽどカロリー消費が激しいんかな? で、飲み物の好みは、なんつっても
「あ~、エーテルペッパー……レギオン・バトルの後もクーデリアさんに、以前のお昼ご飯の時にダメになったぶんは、しっかり弁償してもらったみたいだしね……」
「あれはもう、中毒だよ中毒! どんだけ愛してんだってハナシだよね! ショージキ、女の子より、あっちのほうが好きなんじゃね!?」
「えっ!? いやいや、さすがにそれはないと思いたい……けど……」
「セリィも、ユリっちのオトコ心の前に、エーテルペッパーの
「ど、どういう意味っ!? もう!」
「はぁ~っ、さてさてどんなイミでしょうね~、にひひひっ!」
そんな、賑やかな帰り道の途中。
ふと、セリカは足を止め……つかつかと道路の片隅に歩み寄った。
そこには、薄汚れた年寄りの男性が座りこんでいる。どうやら、皇都の片隅にはよくいる、物乞いの類らしい。
「……」
ティガが黙って見つめる中、セリカはそっとかがみこむと、ポケットからおもむろにウォレット・カードを取り出す。
続いてそれを、物乞いの老人が震える手で差し出した、薄汚れた電理カードにかざした。
ほんの数百ソルが電理処理されてカードからカードへと移動し、老人は深々と頭を下げ、しわがれた声で言う。
「ありがとうよ、親切なお嬢さん……あんたに、光神ローディスの幸いがあらんことを……」
そのやりとりを見ていたティガが、苦笑して。
「しょうがないなあ、セリィは……気持ちは分かるけどさ、ああいう物乞いはこの地域に無数にいるんだ……全員におカネをあげて回るつもり? キリがないよ?」
「う、うん……分かってるわよ。でも、ね……?」
セリカは少し慌てたように身体を起こすと、立ち上がってから、ティガに小声で
「確かに、偽善かもしれないけれど、やらないよりはましだと思ってるのよ……小さい頃から、“休日に街へ外た時、最初に見かけた
「やれやれ、お情けぶかい公女様だね……! しゃあねえ、ウチも付き合うかっ! 来世の徳を積むと思ってね! ジイちゃん、これでお菓子でも買いなよ?」
「おお、おお……! こんな老人に、お二人とも、なんてありがたい……!」
拝むようにひれ伏す老人を苦笑しながら立たせてから、歩き出すセリカとティガ。
「ごめんね、ティガ。合わせてくれたみたいで」
「いやいや、よく考えたらさ、救貧院に差し入れするのも、似たよーなもんだって思ってね!」
そんな時……。
ティガがふと、はっとしたように動きを止めた。
「どうしたの?」
「し~っ! セリィ、あれ……見てみ?」
「?」
セリカは思わず釣られたように、ティガが指し示した、通路の先をうかがう。
そこは、ちょうどメインストリートにつながっている小路の出口近くだ。
本格的な暗黒街の深部に繋がっている、ちょうど境界線のようなエリア……。
小路の先に開けた大通り、その街頭の下に、二つの人影がある。
片方は、フードで顔を隠した怪しげな痩せぎすの長身男。そして、男に比べるとやや小柄な、もう一人は……
「あ! あれ……もしかして、金獅子組のマルクディオ・ラハン?」
「そうそう、今は停学中で、
ティガが、眉をひそめつつ言う。
セリカも、改めてその人影を、確認するようにじっと見つめた。
やっぱり、間違いない。
制服姿ではなくそれっぽい外套を着込んでいるが、ちらりと見えた顔と、フード越しにも目立つあの赤髪は見間違えようもなかった。ましてや少し前にはなるが、彼とはひと
「相手は誰だろ……大人、だよね」
「あっちはあっちで、露骨に怪しいわ~」
セリカとティガは、そんな風に囁きあいつつ、なおも観察を続ける。
その視線の先で、痩せぎすの男とマルクディオは、何か小さく言い争っているようだった。漏れ聞こえてくる言葉からすると、彼が男から購入した何かについて、トラブルが起きたらしい。
押し問答がしばらく続き……そうこうするうち、何らかの話が付いたのか、痩せぎすの男とマルクディオは、和解したように小競り合いを止め、互いに
セリカとティガは顔を見合わせあうと、どちらからともなく、二人の後を付け始めた。
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皆様の応援のおかげで本作、PV16500、フォロワー190人を突破しました! 直近だと、異世界ファンタジー部門で【403位】を確認しております(もうとっくに変化しているかもですが)
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年末年始の間、当分は毎日朝7:00か夜19:00ごろ、毎日更新予定です。
※今日は、人生初の『スラムダンク』をガシガシ読み進めています! 最近『俺だけレベルアップな件』もちょっと興味があります…!
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