第50話 破壊ならざる破壊 ★★★

「焼きつらぬいて! 【紅蓮飛翔鳥(ファイヤバード)】っ!」

「これでどうよっ!? 【雷破閃光牙(サンダーグレネード)】!」

「【氷精飛矢(アイシィ・アロー)】ッ! 食らいなさい!」

「お嬢様に続くぞ! 【風牙裂剣(エクスカリバー)】っ!」


 セリカ、ティガ、クーデリア、エルトシャルの詠唱が、綺麗にそろった。

 かくして、うねり叫ぶ火炎、激しく爆ぜる雷、鋭い氷矢ひょうや、風の飛剣が、傍若無人ぼうじゃくぶじんに進んでくる、暴走ゴーレムたちに向かっていく……


 だがユーリは、ゴーレムたちに向けて伸びていくそんな反撃の刃を眺めつつ、そっと独りちる。


(とまあ、カッコよく“一斉反撃”をあおってみたが……ちょいと無理め、なんだよなあ……)


 自分自身も申し訳程度にカモフラージュ用の適当な魔術を放ちつつも、内心では、ユーリはさらりとそんな本音ほんねを吐いている。

 無理、というのはつまり、魔銅製ゴーレムの対魔術強度のことである。


 さすがに防御結界ぐらいは崩せるだろうが、その先の本体が問題になる。マギスクロム……“魔銅”の特殊耐性により、学生レベルの魔術が、そうそう通じる相手ではないのだ。たとえ複数が束になったところで、その効果が撃破に至れるかというと、正直少々心もとない。


 だが……いや、だからこそ、というべきか。実はユーリがセリカたちに期待していたのは「戦力として」ではない。彼女らが果たすべき仕事は、いわば“目くらまし”なのだから。


 続いてユーリは、間髪入れず電理魔術を使う。それは、肉薄して放つ【零距離式・炎神言弾(アグニール・スピット・ゼロ)】でもなければ、派手で目立ち過ぎる、その他の超高等魔術でもない。


 ユーリは単に、自らがようする巨大なマグスを、最適効率で遠隔噴出させるための「アストラル経路チャンネル」を、現界に出現させたというだけだ。

 やがて、そのマグス経路は、薄っすらとにじむ魔術円の形となって、先頭切って迫りくるゴーレム二体の足元に、同時設置された。


 加えて、マグスで熱を操って陽炎を生み出し、大気中の光を歪曲わいきょくさせると、その魔術円を巧妙に覆い隠し、見えにくくする。そうでなくても浮き足立っている生徒たちには気づかれるはずもないと思うが、一応の用心である。


 ちなみに、その”発想”自体は、とっさのひらめきに過ぎない。だが理論上、勝算はあると踏んでのことだ。


(普段は“俺専用”だが、特別に分けてやんぜ……とっておきの非常食だ、喰らってみろよ! そのデカイ腹がはちきれるまでな!)


 それはまさに、奇想天外な異想いそうといえる――ゴーレムに外から魔術をぶつけて機能を破壊するのとは、むしろ真逆の発想なのだから。

 つまり魔装武器マギスギアにマグスを供給するのと同様の流れで、足元から伝わらせたマグスを、ゴーレムの内部へと「直接的に流し込む」……力に力で対抗するのではなく、むしろ付加してやろうというのだ。


 言うなれば、圧倒的な量のマグスをゴーレムの体内に押し込み、一気に限界状態を超えさせることで、駆動機関のオーバーフローを狙ったのだ。


 一方、そんなことを露とも知らない生徒たちの目に映ったのは……。

 セリカとティガ、クーデリアにエルトシャルが放った四つの魔術光の軌道が、互いにねじれより合っていく光景。それはまるで赤、白、青、緑の四色の魔術光を合わせたかのように、太く強く照り輝いた。


 そして、その光がひときわ増したかと思うと、暴れ狂う力の奔流となったそれは、一気に二体のゴーレムを穿うがち貫いた。

 同時、バトルフィールド内に、まるで巨大な鐘を突いたような、鈍い轟音が響き渡った。


 呆気あっけに取られていた生徒たちが、はっと意識を向けた時には、すでにゴーレムの巨体は、白煙はくえんを上げ始めていた。


 もちろんそれは、放たれた魔術のダメージではなく、ユーリの手で密かに流し込まれた大量のマグスにより、内蔵された数個の駆動装置はおろか、体表面が赤熱化するほどの凄まじい熱負荷を帯びてしまった結果なのだが……生徒らがそれを知るよしもない。


 やがてパーツの隙間からも白い煙がたなびき始める頃には、二体のゴーレムは断末魔のような不気味な機械音を立てつつ、動作もみるみる緩慢かんまんになって、やがて、地面に崩れ落ちて動かなくなった。


 一拍いっぱく置いて……誰からともなく、歓声が上がる。


「やった!」


「効いたぞ!」


 (ふぅ、一応自信はあったが……なんとかなったな)


 ユーリが一息つきながらちらりと見ると、セリカにティガ、クーデリアにエルトシャル、全員がほっとしたような笑顔を浮かべて、互いに健闘を称えるかのように、微笑み合っている。


「おい、気ぃ抜くのはえーよ。まだ、残りがいるんだからよ」


 額の汗をぬぐい、一瞬表情を崩しかけていたセリカだったが、そんなユーリの言葉を聞いて、すぐにハッと表情を引き締める。それから彼女は再び、ティガ、クーデリア、エルトシャル以外の生徒たちに向け、大きな声で叫んだ。


「みんな、とにかく集まって! すぐこちらに来れないなら、各自でグループを作るのよ! 力を合わせて対処するの!」

「円陣を組むのですわ! 怪我をしておらず、魔術を少しでも使えるかたは、どうぞ前へ!」


 クーデリアも続いて、生徒たちを誘導する。

 一年生でも最優秀である二人の声には、自然と周囲を鼓舞し意に従わせる効果……一種のカリスマがある。しかも、現実に“戦果”を挙げた直後とあれば、なおさらだ。


 互いに顔を見合わせ、セリカらに合流するか、思い思いに円陣を組み出す一年生たち。それに監督生たちも加わり、いくつもの円陣となったマギスメイア生の輪の中から、電理魔術の一斉攻撃が、二度、三度と彼らを追うゴーレムらに襲い掛かる。


 バトルフィールド内に走る激しい魔術光と、それをまともに受けたゴーレムの身体が立てる巨大な轟きは……それは、ユーリの水面下での動きを覆い隠すのには、まさにうってつけの煙幕となった。


 結果……ものの十数分で、あれほど暴れていたマギスクロム・ゴーレムは全て動作を停止し、完全に沈黙したのである。


 魔導教官たちが訓練場のシステムをようやく再構築し、魔導障壁を切ることに成功したのはその直後だった。


 遅まきながら踏み込んできた教官たちの横で、無事を喜びあう生徒たち。そんな安堵感漂うムードの中で、ユーリは一人、最初に己の前で暴走を始めたゴーレムの残骸を眺める。


(……)


 ユーリのてのひらの上には今、小さな破片が一つ……それは、喧騒けんそうにまぎれて倒れ伏しているゴーレムの露出した内部機関から、密かに抜き取ったもの。

 さきほどその身体をり貫いた【アグニール・スピット・ゼロ】の前の“簡易走査”で、わずかに感じていた違和感の正体だ。


 見たところ、その物体はどうやら、小さな箱のような装置の破片らしかった。その一部には、小さな黒紫色の魔導石の欠片かけらがはめ込まれている。そこに触れてみると、ユーリの優れた魔導知覚には、破片に確かに滞留する微細なマグスの余波が伝わってきた。


(こりゃあ……何かの魔導装置か? だとすると、やっぱこの“暴走”は……)


 事故などではない、人為的なもの……同時、ユーリの脳裏にある記憶がよみがえった。


 そう、先日、女子寮での大トラブルから解放された直後……校内で見かけた、妙な人影のことである。


 顔こそはっきり見えなかったが、あの不審な男子生徒らしき人影は、この訓練場のほうからやってきたのではなかったか。


(……匂うな。誰だか知らんが、ここの地下格納庫に潜り込んで、備品のゴーレムに何か細工でもしたって線か? けど、そんなことする動機がある奴ぁ……)


ユーリの目が鋭く細められ、その表情が一際ひときわ険しいものとなった。


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★★★【読者の皆様に、よろしければ……のお願い】★★★

いよいよ年末も近いですが、著者とユーリの戦いに休みはありません…!(ホントか?) ついに50話到達&皆様の応援のおかげで無事、本作、PV15000、フォロワー190人を突破しました! 直近だと、異世界ファンタジー部門で【403位】を確認しております(もう変化しているかもですが)


ちなみにこそっと観測してみたところ、★一つで順位が30位とか変わることもあるようです。★三つで100位近く…! つまり皆さまの★一票は、小さいように見えて、文字通り作品の運命や著者のやる気に、巨大な影響を与えうる一票なのです! 


ですので、よろしければ目次下の★にて評価いただければ、更新と誤字修正その他、もっと気合入れて頑張れますので、なにとぞっ! 


当分は毎日朝7:00か夜19:00ごろ更新予定です。応援よろしくお願いいたします。






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