第47話 対標的戦闘試験② 

 カミルは、そんなセリカの態度に苦笑しつつ。


「ああ、そうだったね。もちろん知っているよ、『カラフルブルーム』だっけ? なんか、この前のレギオン・バトルで勝って以来、入団希望が相次いでるとか? 特に男子の……」


「あ、いえ……でも、ほかのメンバーとも話し合って、今のところは小規模で構わないかな、と……」


 セリカが苦笑するのは、ユーリが「これ以上、“指導対象”が現れるなんて面倒くさい。そもそも厄介事が増すなら、最初の約束通りレギオンを抜ける」の一言で、あらゆる入団申請をキックしているからである。


 そもそもマスターとしてレギオンを立ち上げたティガとしても、特に頭数を増やしたいわけではないので、現状、『カラフルブルーム』は方針としては不拡大という形になっている。


 もちろん、レギオンは所属人数が増えるほど学園内での存在感は増すし、カミルが所属している数十人規模の最大手レギオン『ゴルディオン』ほどともなれば、専用トレーニングルームなども与えられるくらいである。だが人数が増えれば、それに伴い、雑多な面倒事が増えるのも事実なのだ。


 対人関係のもつれや才能への嫉妬、恋愛絡みのトラブルなど……未熟で血気盛んな学生が集まれば、め事の種は枚挙まいきょにいとまがない。


「はは、なるほど。少数精鋭を目指す方針なのかな。でも……こういっちゃなんだけど、一緒に切磋琢磨せっさたくまする仲間は、もう少し選んだほうがいいね?」


 苦笑ぎみに、ユーリとティガをちらりと見るカミル。


「……それ、どういう意味ですか?」


 セリカが少し眉根を寄せて、カミルを強い瞳で見つめた。当のカミルは、小さく肩をすくめつつ両手を広げるゼスチュアとともに。


「おお、怖い怖い。何って、言葉通りの意味じゃないか。君もずいぶん、変った好みだな、と……レギオンを率いるのも、大変だろ?


前のレギオン・バトル、僕はあいにく見逃しちまったんだが、どうせ優秀な君が一人で頑張って、仲間を引っ張って勝ち抜いたってとこでしょ?」


「違います! まず『カラフルブルーム』のマスターは、私じゃなくて親友のティガ・レイスハートですし……むしろ私は、あのレギオン・バトルでは、皆に助けてもらってばかりだったんですよ。まずはティガが一勝して、最後はユーリ君がクーデリアさんに勝って、締めてくれたんですから!」


「はあ、そうなの? あのサボリ魔君が、凄い“まぐれ勝ち”を収めたって噂は、ホントだったんだ?」


「そ、それはちがっ……いえ、その……!」


 セリカは、どうにも歯がゆそうに、顔をしかめた。

 ユーリは、セリカとティガに、クーデリアとの試合の“真相”を一切伝えていない。ただ、聡明なセリカは「ユーリの勝利が偶然ではなく、確実に何かあった」ことまでは、きっちり把握していた。


 だからこそ、カミルが言う「まぐれ勝ち」という表現には、セリカとしては、かなり思うところがあるのだ。


 だが、それを口にされるのは、たぶんユーリの“本意”ではないのだろう。そう悟っていたからこそ、セリカはここで、口ごもってしまったのだが……

 そこに、いつの間にやってきたのか、当のユーリ本人がずいと進み出て。


「ち~っす、カミルパイセン……あのさ、俺が言うのもなんですけどね? もう少し身だしなみってヤツ、気をつけたほうがいいっスよ」


「はあ? なんだ、君は……今。僕はセリカさんと話しているんだが?」


 カミルは小馬鹿にしたようにユーリを見るが。


「だってね、切れちまってますから……ほら、ズボンのベルト……」


「……っ!?」


 そしてユーリがニヤリと唇を歪めるが早いか、カミルのベルトのバックルが音を立てて転げ落ち、彼の制服のズボンが……ストンとずり落ちる。


 真っ赤になったカミルは、大慌てでズボンを両手で押え、ぐいぐいと力をこめて引っ張り上げた。

 色男の無様ぶざまな姿に、一瞬驚いたような顔をしたセリカだったが、その次にはクスッと口元に手を当てて、忍び笑いを漏らす。


「……っ!」


 カミルの整った顔が思わずしかめられるが、ユーリは素知そしらぬ顔である。 

 もちろん得意の【マグネシス】を使った悪戯いたずらなのだが、それすら見抜けぬ素人に、別に教えてやるまでもない。


 とはいえ、詳しい状況は分からぬまでも、ユーリが「何かした」ことまでは理解できたのだろう。


 カミルは「覚えていろよ……!」とでも言いたげに真っ赤な顔でユーリをにらむと、そそくさとその場を立ち去っていった。大方おおかた、男子トイレあたりに駆け込み、ズボンのベルトをどうにかするつもりなのだろう。


 そんな風に彼の姿が消えたところで、セリカがふとユーリに近づくと、そっと耳打ちして。


「ふふ、ユーリ君。またあなたが何かやったのね……? カミル先輩には悪いけど、私、ちょっぴりスカッとしちゃった」


「さあな。そろそろ試験、始まんだろ」


「うん、ユーリ君も頑張ってね? ティガも、もうじき別エリアで、雷属性の試験がスタートするはずだし」


「言われなくてもな。……ま、俺からすりゃ、上手く手ぇ抜くほうが、難しいくらいだわ」


「まあ……ふふ、やっぱりユーリ君だね。余裕があっていいなあ。私、ちょっと緊張してきちゃってね? 今日は、魔装武器マギスギアだって、学園からの借り物の既製品きせいひんだし」


「はっ、何をしおらしいこと言ってんだ。俺の訓練をくぐり抜けてきたんだから、ぜって~大丈夫だよ。【ダブルチャージ】二本ぶんの魔力を一本に集中して、特大火力でぶちかましちまえよ……ま、今日は試験のA日程で、銀星組と金獅子組その他クラスが対象だ。


なら、例の白銀令嬢様はおいといても、お前がぶっちぎりの高得点、間違いなしだって!」

 

 ニヤリと笑うユーリは、続けて。


「それによ、この前俺ん部屋で。ゴッツイ軍用魔装武器をブンブン振り回してた酔いどれ公女様の大迫力、俺は忘れてねーからな? あのパワーがありゃ、ちょろい試験なんて楽勝だっつーの!」


「……っ!! も、もう、それは言わないで……お願い……!」


 直後こそ意識朦朧もうろうとして記憶が怪しかったが、いまや、どうにも恥ずかしいその一場面が、はっきり思い出されてしまう。たちまち真っ赤になったセリカは、少し口を尖らせて、ユーリを軽くにらむ。


 そんな彼女をいなすように、ひらひらと手を振ったユーリは、セリカを見送り。

 それから彼は、フィールド内に並ぶゴーレムをそっと観察する。


(見たところ、ゴーレムは魔銅まどう製……マギスクロム・ゴーレムか。軍の新兵演習用に使われてる奴の、おさがりだな)


 ならば、性能自体は大したことはないはずだが、この訓練場のシステムとリンクしているという点は、マギスメイアの独自仕様であり、まだユーリとしても未知数の部分だった。


(いわば演習用の魔導人形とはいえ、対魔鎧をまとった中堅魔装騎士程度と考えるのが妥当なとこか?)


「おい、ユーリス・ロベルティン。準備は整ったか? 出番なのは、君もだぞ」


 カミルとは別の監督生が、そんなユーリに対し、いぶかしげに声を掛けてきた。


「え? あ、そうでしたっけ……?」


「君は、炎属性で申請しただろ? 男子でも、炎属性のグループは最初だよ」


 ゴーレムは生徒らそれぞれの使用魔術に応じて耐性を調整されるため、試験の順番は、ある程度グループ化されて定められている。

 ちなみに変異能へんいのうたる【同時魔変回路】を持つユーリだが、まさか学生レベルで凄まじく稀有な天才的特質ギフトである【同時魔変回路】それを持つことなど、明かせるはずもない。

 そのため、若干の面倒くささも手伝って、得意の両属性たる「炎」と「氷」のうち、一応「炎」で申請しておいたのを忘れていたのだ。


「さあ、急いで! もうじき、試験が始まるぞ!」


「はいはい、了解です。今、入りますんで」


 監督生にうながされ、ユーリは今一つ緊張感に欠ける態度で、バトルフィールド内へと歩き出したその時。


(ん?)


 ユーリはかすかな違和感に、そっと小さく眉を寄せた。


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