第46話 対標的戦闘試験

 それから休日を挟み……

 ついに、「対標的戦闘試験たいひょうてきせんとうしけん」の当日がやってきた。


 朝早くから模擬訓練場に集められた生徒たちは、いずれも皆、緊張の面持おももちを浮かべていた。

 セリカとティガも、もちろんその列の中に加わっている。 

 ちなみに対標的戦闘試験は、実戦を想定したものであるため、比較的危険度が高いテストだ。

 

 具体的には、標的である魔導人形――ゴーレムに魔術を撃ち込み、一定以上のダメージを与えて停止させるというものだ。ただ、この試験が一癖ひとくせあるのは、魔術のまとであるゴーレムが。動くだけでなく“殴り返してくる”ことだ。己に魔術を放った対戦者に、反撃を加えてくるのである。

 もちろんこの模擬訓練場のバリアシステムは作動しているものの、力自慢のゴーレムに打撃をもらえば、バリアゲージはあっという間に減少してしまう。


 それがゼロになった状態でさらに攻撃を加えられるようなことがあれば、肉体がダメージを受けるのは避けられない。ゴーレムには出力を制限するリミッターが付いているとはいえ、ときに負傷者が出ることすらある、荒々しい内容なのだ。


「……間近で見ると、さ、さすがに迫力あるわね」


「うんうん、見るからに頑丈がんじょうそうだし。見なよ、あのゴッツイ腕……!」


 セリカとティガは、模擬訓練場内のバトルフィールドに並んだゴーレムを眺めつつ、ごくりと唾を飲み込んだ。

 ゴーレムはいずれも、この訓練場のバリアシステムと連動した、高性能の防御結界をその身にまとっている。


 なので頑丈がんじょうさは折り紙付きで、遠慮なく魔術をぶつけて大丈夫、という触れ込みである。そもそも目的は別にゴーレムを破壊することではないため、一定量の魔術的ダメージがゴーレム本体に加われば、自動停止する仕組みなのだ。


 このへんはある意味で、ゴーレム自身もまた、試験に挑む生徒たちと似た、独自のバリアゲージを持っていると考えると分かりやすい。要はそれを全部削り取ればいい、というわけだ。


 ちなみに試験の流れ自体は、会場となるバトルフィールドを電理魔導障壁でんりまどうしょうへきでいくつかのエリアごとに仕切り、何人ぶんかを並行で進めていくという形だ。


そのため、いったんA日程に割り当てられた銀星組と金獅子組の参加生徒全員が、試験実施エリアのみならず、待機エリアごと障壁で囲まれた、このバトルフィールド内に集められていた。


 手続きが煩雑はんざつになるため、この試験では、場内のコントロールルームで確認・採点を行なう魔導教官らとは別に、マギスメイアの二年生から優秀な者が選抜され、監督生かんとくせいとしてアシスタントをする仕組みになっている。


「そういえば、ユリっちって……どうしたん?」


「えっ! ……そういえば、今日はまだ見ないわね……」


 きょろきょろとする二人は、やがて、どちらからともなく顔を見合わせて……


「ねえ、ティガ。この前の祝勝会で、『対標的戦闘試験』の話って、出たかしら?」


「えっ、ほら、あの時はさあ、ドタバタしてて、それどころじゃなかったじゃん……!」


「そうよね。じゃあ、ユーリ君って、もしかして……」


「あっ! 魔導バンドマグスレットの連絡網とか、ぜって~見てなさそう……開始時間とかもっ!」


 噂をすれば、ではないが、そんなところに……当の本人の眠たげな声が響いてくる。


「すんませ~ん、ちょっと魔晶時計のアラームが止まってたんで、起きらんなくて……思いっきし寝坊しましたぁ~!」

 

 睡眠不足なのか、ふらふらしながらバトルフィールドへと走り込んできたのは、誰あろう、ユーリス・ロベルティンその人である。


「そんで~、慌てて支度したくして教室に駆け込んだら、なんか誰もいなくて……そこで初めて『そっか、今日って試験の日だったんだなあ~!』ってわけで! いやいや、ホント、申し訳ねえっす……!」


 緊張の面持ちを浮かべていた一年生たちの間に、一気に爆笑の渦が弾けた。

 セリカが頬を引きつらせて苦笑し、ティガが思わず顔をてのひらで覆って天を仰ぐ中……

 

 魔導教官や監督生たちの苦い表情と冷たい視線を他所よそに、ユーリはひょうひょうとした態度で、頭をかきながら一年生の列に入り直したのだった。


※ ※ ※


「じゃ、ティガ! 行ってくるね」


「うん、セリィ、頑張って! ウチも気合入れっから!」


 セリカとティガが、互いに呼びかけ合って、こつんと拳をぶつけ合う。

 炎属性のセリカと雷属性のティガでは、試験の実施エリアが異なるのだ。


 ティガと別れ、セリカが歩き出した時……一人の優男やさおとこが、声をかけてきた。制服の襟章から、二年生だと分かる。


「おや、君は……セリカ・コルベットだろ? 先日は君のレギオン、凄かったみたいじゃないか。学校内でも評判だよ」


「あ……カミル先輩。どうも、こんにちは」


 セリカがあわてたように、丁寧にお辞儀をする。


 彼――ジェイル・カミルは、長身に甘いマスクで女子生徒に人気の、二年男子である。


 家柄もよく成績も優秀であり、ティガも一時、なんやかやと話題にしていたが……セリカは本能的に、彼の常に己の美男子ぶりに自信満々の笑みや、どこかスカした態度が好きになれない。


 ラベルナの公女たるセリカは、世間知らずな一面もあるが、逆の意味では、貴族社会には慣れている部分がある。


 若い頃“ヤンチャ”だったというラベルナ大公たる父親が、裏表なく豪快な人柄であるぶんだけ、ほかの貴族男性を見る目が、他の一般子女より磨かれていると言えよう。


特に、上流階級の男性に付き物の、薄っぺらい虚栄心や利己主義的な狡猾こうかつさを伴う二面性には、どうにも辟易へきえきしている部分があるのだ。


「おっ、僕の名前を知っていてくれたとは嬉しいね。それがこんな美人さんとくれば、なおさらだ。僕、今日の炎属性女子グループの監督生を務めているんだ、よろしくね」


 そう言って、カミルはにっこりと笑う。真っ白い歯がこぼれ落ちそうなイケメンぶりだが、ちょっぴり軽薄というか、少しキザな雰囲気がただようのも事実。


「あ、そうなんですね。よろしくお願いします」 


 セリカが苦笑しつつ返すが、その少し硬い表情で示した「それとない距離感」を、カミルはまったく意に介さず。


「こちらこそ。美人公女様とお近づきになれて光栄だよ。そうだ、今度、僕が所属してるレギオン『ゴルディオン』のトレーニング・スペースに遊びに来ないかい? 魔術や武術のことなら、いろいろ教えてあげられると思うんだけど」

 

 さっとれ馴れしく距離を詰めると、握手を求めるつもりか、手を差し出してくる。セリカはそれに対し、軽く遠慮するように手を振って。


「いえ……! お手間をおかけするのもなんなので、結構です。そろそろ私、バトルフィールドに向かわないと……申し訳ないんですが、そこを空けてもらってかまいませんか?」


「ふぅん。僕の誘いをソデにするっていうの? ちょっぴり残念だな」


「……別に、そういうわけじゃないですけど。私、もうレギオンに入っているので。そういった訓練や練習は、自分たちの力でやっていきたいんです。そうでなければ、そもそもレギオンを組んでいる意味がないでしょうし……」


 セリカは髪をかきあげつつ微笑しながら、やんわりと、そう口にする。

 

-------------------------------------------------------------------------------

★★★【読者の皆様に、よろしければ……のお願い】★★★

皆様の応援のおかげで無事、本作、12000PV突破しました! 


ちなみにこそっと観測してみたところ、★一つで順位が30位とか変わることもあるようです。★三つで100位近く…! つまり皆さまの★一票は、小さいように見えて、文字通り作品の運命や著者のやる気に、巨大な影響を与えうる一票なのです! 


マジで、あなた様の「ポチっと」一つで、主人公&ヒロインどころでなく、とかくエタりやすいWEB小説界隈の、作品世界そのものの運命が救えちゃうかもしれませんよ⁉︎


ですので、よろしければ目次下の★にて評価いただければ、更新と誤字修正その他、もっと気合入れて頑張れますので、なにとぞっ! 


当分は毎日朝7:00か夜19:00ごろ更新の予定です。よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る