第44話 忍び寄る乱入者
ユーリが部屋で、小さな落とし物に気づいたころ……
一方のセリカとティガは、なんとか女子寮に帰ってきたところだった。
「ほら、セリィ、しっかりしなって」
ペチペチと頬っぺたを数度叩くと、ようやくセリカの瞳に、光が戻ってきて。
「え、あ……私、何を……?」
「おお~、あの状態からもう回復っ! ユリっちがくれた
ティガがほっとした様子ながらも、ちょっぴり唇を尖らせて言うと、セリカは目をぱちくりさせた。
……それから数分後。
「え、えええ~ッ!!」
「う、う、嘘、だよねッ……!? 私、そんなこと、絶対しないもんっ!」
「嘘もなにも、現にユリっちが、たまたま軍の知り合いから預かってたっつう
止めようとしたユリっちの髪が
ティガが呆れたように言う。
「ええっ!?……ゴメン、なんか、全然記憶がない……うう……」
「
顔を手で覆いながら、ティガが呻く。
「ま、酔っ払いの扱いにゃ慣れてるウチの見立てじゃ、今日一日寝てれば治るってとこかな。ちょうど週末だったから明日もお休みだし、あさっての試験にゃ、影響ないっしょ」
「う、うん……あさっては、対標的戦闘試験だもんね」
「対標的戦闘試験」とは、マギスメイアにおいて、中間考査の一環として行われるものだ。格付けとしては、月例試験の上、といったところで、それなりに重要なものだ。
内容的には模擬訓練場において開催されるもので、各クラスの生徒が、属性ごとにグループに分かれて実施される。
今回の試験メニューとしては、幻魔を模した魔導ゴーレムに魔術を撃ち込んで、その威力を測る、というものがメインになる予定だった。
「ま、ウチらはユリっちの訓練とレギオン・バトルを経て、確実にパワーアップしてるもんね! もう、矢でもゴーレムでも、どんとこいって感じぃ!?
ま、セリィは今日明日、ゆっくり休んでなって。ま、明日の晩には体調、ばっちし戻ってると思うよ!」
ティガがニカッと笑った途端。
「ん~……?」
彼女のポケットから、
「あ、ケイトからだ!? わりぃ、ちょっと待っててね、セリィ……」
ケイトというのは、ティガの遊び友達の、ケイト・レイソルズのことだろう。どうやら、何かのお誘いらしい。
ティガは、二言、三言話すと、しばらくしてから通話を切ってセリカに視線を戻し。
「あのさ、ケイトがね、今日、今から出てこれないかって……」
「え、もう結構な時間だよ?」
「いや~、ウチがこないと、盛り上がらないんだってさぁ……今、駅前の『ウタフォラ』にいるんだって!」
「ウタフォラ」というのは、“
「ふぅ、仕方ないわね……でも、寮の門限はどうするの?」
「そこはそれ! セリィ、お願い! 内緒にしててっ! さっきの打ち上げ、ちょっと消化不良になっちゃってて、ウチ、もう少しだけ息抜きしたいんよ~!」
「はぁ~、分かったわよ……今日はなんだか、ティガにイロイロお世話になっちゃったみたいだしね……」
「アリガト、恩に着るっ!」
片手をちょいと上げてウインクするティガに対し、呆れつつ髪をかき上げたセリカは、首筋がちょっと汗ばんでいることに気づく。
(あ……や、やっぱり、お酒飲んで酔っぱらっちゃって、体温があがってたんだ、私……)
そう改めて実感すると、ぼんやりと“ご乱行”の記憶が蘇ってくるような気がして。
(ひゃ~……! は、は、恥ずかしいっ! あ、あり得ないわ、私っ! ……うきゃあああああっ! あ、悪夢よ、記憶よ、消え去れっ……!!)
セリカは思わず、ソファーに顔を埋めて悶絶する。続いて、ふとハッとしたように。
(そ、そうだ! 今もカラダからお酒の匂いとか、してないよね? さ、さすがに大丈夫だと思うけど……!)
セリカは少し頬を赤らめると、バッと顔をあげて、慌ててティガに言った。
「それはそうと! ティガ、私、これからちょっとシャワー浴びるから!」
「え!?」
目をぱちくりさせたティガの返事を待たず、セリカは急いで立ち上がると、共有のシャワールームの脱衣所に駆け込んでいった……
※ ※ ※
「ちょっと、セリィ!? 何なんよ、急に……まったく、しょうがねーなあ、あ、タオル、そこに置いといてあげるかんね?」
脱衣所のドア越しに、ティガの声が聞こえてくる。ありがとう、と少し大きめな声で返すセリカ。
「OKOK! じゃあ、アリーが待ってるし、ウチもそろそろ行くね~!? もち、そんな遅くならないようにすっから!」
「うん……! でもティガ、あまり目立たないようにしてね? 寮母さんを
「ほいほ~い……そうだ、せっかくだからこの前買った香水付けてかないと! しまったの、どこだっけ~?」
「もう、あんまり散らかさないでよ~?」
セリカが返したそんな声も、聞こえているのかいないのか。
「あ、ソバカス隠すコンシーラーも~……」
脱ぎ終えた服を棚に入れ、セリカがシャワーノズルに手を伸ばした頃にもまだ、薄い壁の向こうではガサガサ、とあちこちを探し回っているらしいティガの気配が続いている。
やがて「あった~!」と、
(まったく、騒がしいったら……)
部屋のドアが閉まる音を聞き終えてから、セリカは溜め息まじりに、シャワーを操作する。たちまちノズルから温かいお湯が
慣れないアルコールによってかいてしまった全身の汗とともに、
だが、次の瞬間。
ふと壁に備え付けられた窓に目を向けた直後、セリカの全身が、予想外の恐怖に
同時、その白い喉から、思わず
※ ※ ※
ユーリが女子寮にやってきたのは、その少し前、ティガが急ぎ足で寮を飛び出していったのと、ちょうど入れ替わるようなタイミングだった。
部屋に残されていたティガの落とし物……マグスレットと
セリカの“ご乱行”騒動があったばかりという面倒くささも手伝って、寮母に代理でそれを渡し、さっさと退散しようと思っていたのだが……その時に限って、寮母は留守だった。
何か
(まったく……間が
そんな時。
「き、きゃあっ~~~……!」
周囲の空気を切り裂くような、少女の悲鳴が聞こえてきたのである。
ユーリははっとして、耳をそばだてる。
「こ、来ないで……! だ、誰か……!」
声は一階の廊下の奥から聞こえてくるようだ。そしてユーリは、その声に聞き覚えがあった。それは間違いなく……セリカ・コルベットのもの。
(……!?)
一瞬
(ちっ……仕方ねえ。万が一があってからじゃ遅いしな……!)
別に人助けが趣味というわけでもないが、セリカの危機では仕方がない。何よりも、軍人として、自分は荒事には慣れている。そう、確実にこの寮にいる誰よりも、だ。
ユーリは意を決すると、身体にマグスを駆け巡らせる。
「な、何事……?」
ふとドアが開き、悲鳴に気づいた別部屋の女生徒が、恐る恐る顔を
「ひゃっ!?」
脚にマグスを込め、まさに常人には捉えきれない速度で、ユーリは声がした場所、セリカたちの部屋へ急行した。さっとドアのノブに手をかけたところで、ふと気づく。
(カギ……開いてんじゃねえか!?)
不用心にもほどがあるが、どうも嫌な予感がする。すかさずドアを開け放つと中に踏み込み……ユーリはそこに広がっていた光景に、思わず息を呑んだ。
「……ッ!?」
ショルダーバックに片方のブーツ、色とりどりのハンカチ、アクセサリー類に小物……部屋の床には、大量の物品が散らかっていた。次いで奥に視線をやると、開きっぱなしのクローゼットが目に入る。
ユーリの顔からスッと表情が消え、その眼が、緊急事態の予感に鋭く細められた……
-------------------------------------------------------------------------------
今日は、自家製の卵入りお好み焼きを食べて、腹いっぱいです…!
★★★【読者の皆様に、よろしければ……のお願い】★★★
皆様の応援のおかげで無事、本作、10000PV突破しました!
よろしければ目次下の★にて評価いただければ、更新と誤字修正その他、もっと気合入れて頑張れますので、なにとぞなにとぞっ! (クレクレしまくりですみません…!)
当分は毎日朝7:00か夜19:00ごろ更新の予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます