第30話 ビジョン・クエスター ★★★

 次の日の放課後……例の地下フロアで、ユーリはセリカとティガに、いったん各々おのおののスピナーの回転を披露ひろうさせた。

その簡単な訓練進行度のチェックを終えると、続けて二人に言う。


「そろそろ、次の段階だ……具体的には、組み手だな。武術・剣術の心得があるセリカはさらにそれを強化。ティガ、お前も最低限の実技は学園でやってるだろが、もっとぎ澄ます必要があんぜ」


「うん、ウチの魔装武器マギスギア雷拳手甲サンダーグラップは、接近戦用だもんね」


「それだけじゃねえぞ? お前の特質ギフトの【マグスアクセラー】は、高速連撃に向いてて、先手を取りやすいだろ? 


けど、相手はカカシや頭カラッポな低級幻魔じゃねえんだ。先に仕掛けた魔術の雷弾や雷撃をかわされたら、どうする?」


「えっと……教本通りなら、反撃に備えて防御体勢に入る……かなあ?」


ちげえよ……そんなの、お前が持ってる優位性を捨てる最悪の悪手だぞ? 自分の持ち味、殺してどーすんだ。


 つまり……守るんじゃねえ、次も“攻める”んだよ。もし先手を外したら、即座に距離を詰めてけ。ステップを白兵戦に移行して、ガチにサンダーグラップでやりあうんだ」


「あっ、確かに……! さすがユリっち! ムリに回避したら、相手の姿勢も崩れてるかも、だしねっ!」


 ティガはようやく理解した、というように顔をぱっと輝かせる。


「その通り。攻撃は最大の防御なり、ってヤツでな。そもそもお前、守勢と攻勢を判断してスタンス入れ替えたり、ゴチャゴチャ考えるのに向いてねーだろ?」


「くっ……悔しいけど、何も言い返せん……」


 ティガががっくりと項垂うなだれつつ、そう呟く。


「あとはもう一つ……サンダーグラップは両手につけるマグスギアだろ? 拳を左右使えるわけで、当然連打向き……回転力なら、剣型や槍型より高いってこともあんぜ? 


ま、とにかくまずは一つ、得意戦術とパターン作って、それを練習で繰り返して身につけんだよ。とりあえず、“馬鹿の一つ覚え戦術”でいけ!」


「アイアイサー! ユリっち教官っ!」


 ノリよく敬礼を返すティガの横で。


「えっとね、ユーリ君? あの~……私にも何か、アドバイスはないの、かな……?」


 セリカがおずおずと、どこか物欲しげに尋ねてくるが。


「セリカ、お前の課題は、当分例の【チャージ】の洗練で十分だ。言っとくが、別にお前の力を馬鹿にしてんじゃなくて、それが最大に有効だから、だからな?


あの白銀令嬢様の戦術は変幻自在型テクニカルで、パワー勝負の炎属性使いたるお前にゃ、分が悪いんだろ?」


「そうなのよね……まあ、お付きの二人だって、得意戦術や実力は未知数なんだけど」


 セリカは、あのエルトシャルというキザっぽい男子生徒と、チェルシーなる気だるげな女生徒の顔を思い浮かべながら、溜め息をついた。


「でも、あの二人は、少なくとも順位は一桁じゃないんじゃね? 確か二桁ダブルスターぐらいだと思うけど……」


「そうだな、ひとまず順位ならあの令嬢様がダントツなんだから、最大の仮想敵はあのお嬢様だろ。ひとまずセリカ、改めて言うが、【マグスチャージ】は身体動かしながら、できるだけ静かに、途切れないようにすんだぞ? 


 溜め中に一度でも集中が切れたら、最初から溜め直しになっちまうリスキーな特質ギフトなんだからな」


「あ、はい!」


「じゃあ、もうごたくは十分だろ。さっさと組み手、始めんぞ! で、俺が普通に相手してやってもいーけど、せっかくココには面白いモンがあっからな……ちょっと待ってろ」


 ユーリはニヤリと笑って、壁際へと歩を進めていく。それから立ち止まって何かの操作をすると、周囲の壁が小さく振動し始めた。


「な、何なの、コレ……!」


「ひえっ……またまた、スンゲーのが出てきたんですけどっ!?」


 唖然とした表情を浮かべるセリカとティガ。

 

二人が目を丸くして見守る中、壁がぽっかりと割れると、その中から、二つの丸くて銀色に輝く巨大物体がせりだしてきた。それを横目に、ユーリが言う。


「ビジョン・クエスター……皇国軍用の電理戦闘シミュレーターだ」

 

 まるでロケットか何かの操縦席のように、台座の上に丸く巨大な卵型のポッドが付いている。


中には椅子いす代わりらしいシートとともに、ヘッドギアとサングラスを合わせたような、奇妙な装置が収まっていた。


 同時、室内に電理魔晶光が差したかと思うと、立体映像の形で、空中に操作盤のようなものも出現してくる。


「さて……あとは分かるだろ。お前ら二人、このポッドに入れ。もちろん、その電理ゴーグル付けてな? 俺が、この空中立体表示コンソールで、環境やら設定をいじってやっからよ」


 ユーリはそう言うと、ついでにとばかり、少し人の悪い笑みを浮かべ。


「ちなみに電源は……ちょっと細工してあって、学園のマグス発電機に直結だ……どんだけ使い倒そうと、1ソルもかかんねえからな?」


※ ※ ※


 青い空と白い雲が広がる空間。

 草原と森のフィールドを眼下に見下ろし、セリカとティガは、空中に浮いていた。


「す、凄いね、ティガ! これがシミュレーターの電理仮想領域でんりかそうりょういきの中だなんて、信じられない……」


「う、うん! しかも、空飛べるって……どれだけ進化してんだっつーの、ロムス皇国軍の訓練装置っ!」


『それも俺の改造だ……おい、油断すんなよ? 足にまとってるマグスのコントロールが乱れると、あっという間に落下が始まるぞ?』


 ユーリの声が、どこからか仮想空間の中に響いてくる。まるで神様か何かが告げる、天の声のような具合だ。


『あと、さすがに魔装武器マグスギアの力まではフルに持ち込めねえから、重さとか間合い、最低限の性質、形しか再現されねえけどな。で、お前ら、とりあえずそこでガチにってみろや。


ま、普通にやってもつまらんから、試合形式だ……地面に落っこちたり、そこの空中に出てる立体HPゲージがゼロになったら、終わりな?』


「オッケオッケ、要はウチの弟らがハマってる、電理対戦ゲームみたいなもんってことね!」


 能天気なだけに、適応だけはさすがに早いティガが、陽気に言う。一方のセリカは……


「私、ゲームってあまりやったことないんだけど……大丈夫かな?」


「そ? ウチは、わりに得意~♪ これでも『スマプラ・トゥーンズ』の子供大会じゃ、疾風迅雷しっぷうじんらいのティガちゃんって言われたもんよっ!


 そこへ行くと、セリィはブキッチョだもんねっ! にひひ! 


 たまに部屋の『マリンカート』でコントローラー持つと、右とか左とかに行く操作と一緒に、イチイチ身体がかたむいて丸ごと動いちゃうんだもん、ウチもう、おっかしくて! ぷ~っ、クスクスッ……!」


「うっ……な、何よ、馬鹿にしてっ!」


 口を尖らせるセリカに向け、両手でブイサインを作って見せるティガに、すかさずユーリ教官・・から叱責しっせきが飛ぶ。


『そこの調子ノリな金髪ポンチ! こいつは訓練で、ゲームじゃねえんだ……実戦だと思って、全身全力でやれっ!』


「ほ~い、まっかせてっ!」


『お前……ちょっとビジョン・クエスターなめてんだろ? ……よし、じゃあ質問だ。セリカも聞いとけよ? お前らが仮に、現実の世界で訓練をやるとすんよな? 


その時、相手の動きを見て自分の対応を決め、敵との距離感やら動きの気配、次の一手の予兆を察知するのに、身体のどこを使う? ついでに、いざ攻撃した時の手応てごたえを測るのは?』


「えっと……相手の動きを見るんだから目、それと音を聞くから耳……?」


「相手の行動に伴う空気の震えを感じたり、手応えとかについては……触感しょっかんも、かな?」


 ティガに続き、セリカも答える。そんな二人に対してユーリは。


『半分正解だが、半分は不正解だな。その感覚、五感を制御してんのはどこだ? ……脳だろが』


「う、うん……」


『結局、“訓練で上達する”ってのは、脳がいろいろ雑多なことを判断して、覚えて、シミュレーションの結果で学んでいってんだよ。


もちろん身体に覚えさせるっていう部分もあるが、それだって、結局は神経の働きだ……で、その電理ゴーグルも、疑似的にだが、電理仮想領域で、そんな五感全てを再現できる……』


「それは……なんとなく分かるけど」


 セリカが小首をかしげながら言うのに、ティガもうんうん、とうなずいている。


『さて、じゃあ改めて質問だ。“世界を感じる”って意味において、脳とその電理ゴーグル……違うのはどこだ?』


「えっ……?」


「……!? ……あ!」


 セリカがはっとしたような表情を浮かべる。

 

『そうだ、セリカには分かったみてえだな。逆に言や、人間ってのは、脳味噌・・・っていう疑似ゴーグル付けて、世界を認識してるに過ぎないんだよ。


こう考えた時、非常に現実に近い仮想空間内において、精神的な働きの分野じゃ、ある意味で「仮想の体験と現実の体験は、限りなく等価とうかに近づく」んだ。


しかも魔術は、マグスを使うだろが。コイツは筋肉とかとは関係ねえ、意志と精神の力が作用する領域だからな……ま、だからこそ、魔装騎士の道において、男女の差はほとんどないって言われてんだが。ガタイの良さや筋肉の力だけなら、男のほうが有利なはずだからな。


で、少し話がズレたが……覚えとけよ。魔術は、とにかく五感と精神をつかさどってる脳味噌さんの得意分野だってことをな? つまるとこ、超ハイレベルな電理仮想領域においちゃ、訓練で筋肉こそはつかねえが、マグスを扱う力や、戦闘状況に応じたたいさばき、反応速度なんかは、ある程度まできちんと伸ばせんだよ』


「な、なるほど……」


「う、うん! ウチにも、おかげでバッチリ分かったよっ! 要は、やっぱりこの訓練、対戦ゲームみたいなもんだってことでしょ! 練習すれば、上手くなんだもん!」


『ゲームみたいなもん、じゃなくて、ゲーム体験がリアルな体験そのものに限りなく近づく、って話なんだが……ホントに分かってんのか?』


「大丈夫っ、まかせて! ゲーム得意なウチなら、こんなの、たぶん余裕だしっ!」


 ティガがなんとも浅い考えで胸を張るのを、ユーリはジト目で軽くにらんで……


『ったく……じゃあ、セリカとのハンデ設定はナシな? セリカはリアルだと武術の心得があるぶん、お前は逆にゲームに慣れてんだ、差し引きゼロってことでな!』


「え、ええ~っ……」


『セリカも容赦なくシメてやっていいぞ! ダメージは全部、その領域内で処理されて、もちろんリアルに肉体的ダメージなんざ入らねえからな』


「あ、うん……それじゃ、恨みっこなしってことでね? 手加減せずに行かせてもらうわよ、疾風迅雷しっぷうじんらいのティガさん……?」


 さっきのお返しとばかり、優雅炎剣フレインベルジュを肩で担ぐようにし、脅すように切っ先を揺らしつつ、にっこり笑うセリカ。それを見て、ティガはおびえたような悲鳴を上げる。


「ひぃぃぃ~~~っ! 目が笑ってねーし! ご、ごめんセリィ、ウチが調子に乗り過ぎたっ! マジ勘弁!」


『言わんこっちゃねえ……だいたいコイツは、脳ミソが身体に出す指示と、肉体や筋肉に流れるマグスを電理信号に置換して、仮想領域の中で動きと魔術的効果を再現してんだよ。


だから、少なくとも本人の持つ身体能力は、アバターでもほぼ100%再現……ラグも少なきゃ、コントローラーさばきなんて、一切関係ねえんだからな?』


「そ、そ~なん!? あ、やっぱハンデ付きでお願いします……」


『仕方ねえな。実際、訓練効果を上げるにゃ、二人をある程度、実力伯仲はくちゅうにしとかねーと意味ねえしな……おいティガ、じゃあちょっとはハンデ設定入れてやっから、感謝しろよ!』


 ユーリの呆れたような声と同時、「試合開始」を告げる電理ブザー音が、広大な仮想領域内に鳴り響いた。


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そういえば、最近、据え置きゲームどころか、スマホゲーすらあまりプレイしていません……! 積みゲー消化したい!


当分は毎日朝7:00か夜19:00ごろ更新の予定です。つたない作品ですが、システム上、目次の最新話下にある★にて評価いただけますと、より時間をさいての更新や内容充実を図れますので、大変助かります!


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