第25話 花影二輪 ★★★

 

「たまたま入学式で席が隣同士、電理コミックや少女小説の趣味で話が合って、おまけに寮でも同室って……すごいレア確率でできたえんだもんね! 


 言ってみりゃ、セリィはウチがこのマギスメイアで見つけた、ありがた~い宝物!」

 

 ティガは、そんな風に勢いよく言ってから、ふと、黙り込み。


「……けどさ、だからこそ時々思っちゃうの。セリィ……ゴメンね、こんなこと言ったら、友達でいたくなくなっちゃうかもだけど……」


「……?」


 ティガのよく動く明るい瞳に、少しだけ寂しげな色が混ざる。セリカがやや不安げに見守る中、ティガは、ちょっぴり自嘲じちょうぎみに。

 

「……あのね、ウチさ、所詮しょせん庶民出身じゃん? セリィみたいに上品じゃないし、勉強も全然できんし、魔術の腕もみだし……あと特質ギフトだって、かみなり属性持ちなら結構ノーマルなヤツで、あんまし珍しくないんだもん。


顔のソバカスだってちょい気になるし、そこらの女子より、ちょっぴりおっきな胸くらいしか自信ねーのよ、マジで」


 そう小声でつぶやくティガに、セリカはなんだか胸が、きゅっと痛むような気持がして。


「そ、そんなことないよ! 気にしなくていいって!」


「そ~お? でも、なあ……」


「大丈夫だよ、私、ティガのことが好きになったの、そんな理由じゃないんだもの! 


私さ、子供時代はいつもいつも、周囲の子に、お堅いだの愛想ないだのって言われてて……


でも、ティガは入学式の時、すっごく気さくに話しかけてくれたじゃない? それ、やっぱり嬉しくて……」


「う~ん……けどセリカとウチじゃ、やっぱ、ちょっとなあ……」


 真っすぐに親友を見つめて真剣に言うセリカに、なおもティガは、どこか煮え切れない態度を見せる。


「な、何が違うっていうのよ!? 一緒だよ、私だってティガだって、同じフツーの女の子でしょ!」


 ここでティガはチラリと、思わず身を乗り出したセリカの胸に、ジト目と溜め息を送り。


「はぁ~っ……たった今も、震度1.5プルンの揺れを確認っすわ……。


いーや、やっぱ不平等だっ! そもそもこういうのムネのおおきさって“貧富の差”っちゅーのが定番っしょ? 


なのにセリィは、ムネだって結構……ぽよんっの、ぷよんっ……だしぃ? 腰はウチよりちょい細いのに、そのくびれはわりに反則だろって!」


「ええっ!? だ、だって……それも私のせいじゃないわよ!


しいていうなら、ラベルナ天然牧場の、栄養たっぷりの牛乳とチーズ……とか?」


「太陽の恵みと牧場まきばの牛さんに、モゥ、大感謝♪ 子牛よりちち育てるのが得意っす♪ってかいっ!? 


……え~え~、分かってますよ、どーせ持たざるモノ、貧乏庶民のヒガミですよっ? 


けど、持ってるヤツがさらに何でも持ってるって、オカシクね? モテの世界はまったく、不公平だっつーの!」


「そ、そんなことない……と思うけど? だって、私の武術教師のメイ先生は、平民の出身だったし、胸だってその……かな~りつつましやかだったんだけどね?


それでも若い頃、とってもモテたって言ってたわ! もう“MMK(エムエムケー)モテてモテてこまっちゃうのバッリバリ”だったって。


『インナー・ビューティ……胸ではなく、心の豊かさ。うちに秘めたるこそが、本当の女の魅力なのですわよ』って、いつも……」


「いや、そのセンセ、言語センスからして、あんまし信用できねーんだけど? モテてたのって、旧世紀くらい前の話じゃない……? 


 いや~、ごめんねセリィ、実はいつも思ってたんだけどさ……。ラベルナって多分、言葉のセンスが、たっぷり半世紀ぶんくらい遅れてるっちゅーか……」


「え"っ……!  そ、そんなことないわよっ! 確かにラベルナはお年寄りに人気の観光地だけど、魔導SNSへのアクセスゲージだって、いっつもアンテナ三本立ってるもん!」


「はいこの話題終了~。今どき、SNSに魔導アンテナでアクセスなんて、誰もしねーっつの。それこそ最新の電像宝珠スマートオーブなら、5ゲイルファイブG・マグス通信での、お手軽アクセスが基本じゃん」


「くっ……! で、でもね? ラベルナにはちゃんと、魔石炭ませきたん使わない最新型の魔導鉄道だって通ってるし……そうだ! この前、駅前広場にスタバができたって、エミヤお姉さまが手紙で……!」


 ちなみにスタバとはもちろん、若い女子に人気の最新電理飲料を提供する、お洒落しゃれで都会的な皇国有数の人気カフェ『スターバッス』の略である。


 ふんす、と息まいて、現在のラベルナの発展ぶりについて熱く主張しようとしたセリカを、ティガは悪戯いたずらっぽく笑って、片手で軽く押しとどめ。


「あはははっ! まあいいっての、分かった分かった! セリィってさ……ホント、そんなクソ真面目なとこも含めて可愛いよね。で、それがあんたの良いとこなんだけどなあ……。


まあ分かんないよね、先行イメージの第一印象が完璧すぎてさ。ホントは結構ブキッチョだったり、意外に家事苦手だったり、ねえ?」


「……ま、まあね。それは否定できないかなあ……」


「ま、ウチのクラスの男どもが見る目ないし、ついでにガキで根性なしって部分は、仕方ね~って気もするし……そこはこっちがオトナになって、許してやんないとね~?」


「あ……う、うん」


 ティガが珍しく見せる、ちょっと奥深い笑みを見ながら、セリカはふと、内心で思う。


(あれ? もう少し経って、私たちが大人になったら……ティガって実は、すごくモテるようになるんじゃないかしら……)


 弟妹きょうだいが多いせいか、ティガはこんな“お姉さんぶり”が、時々、妙に板についていることがある。


 普段の陽気で元気な、ちょっとお馬鹿なキャラとはまるで違うだけに、そんなときはいつも、ハッと驚くほど新鮮な印象を受けてしまうのだ。

 

 目の前で元気よく揺れる明るい金髪と、大きく笑うティガの白い歯を見ているうち、ふと……。

 セリカはそんな気持ちを、大事な親友に伝えたくなって。


「あのさ、ティガ?」


「ん~?」


「……さっきは、庶民のヒガミだとかなんとか言ってたけどね? ティガって、私から見て、十分魅力的だと思うよ。だから……友達になりたいなって思ったし、友達でいられるんだと思うの」


 ティガは、驚いたように目をぱちくりさせると、直後にちょっと赤くなった頬を掻きつつ。


「は、はぁ~? セリィのくせに、何を知ったようなことっ……!」


「だって、本当にそう思うのよ? これはまあ、私の、直感みたいなものだけど……男子にだって絶対純粋な意味で、ティガのことを好きになる人って、いると思う。そうね、あなたって……いつでもパッて明るくて気さくで、太陽みたいなんだもん」


「お、おう……」


「あ……! ま、まあ、ミジンコ以下の私が男のコの感覚なんて語っても、説得力ないかもだけどね……その、間違ってたらゴメン……」 


「おいおい、最後、そこでモニョんな! ちぇっ、だいたいウチを口説こうなんて、セリィのクセに生意気だぞ~!」


 どこか照れ隠しめかして、このこのっとばかり、両腕を伸ばしてくるティガ。

 そのまま彼女は、セリカのつやのある薄銀苺ベリーブロンドの髪を、わしゃわしゃ掻きまわす。


「ひゃっ……ティガ! やめてやめてっ、も、もうっ!」


「アンタが、妙にくすぐって~コト言うからだっ! こ~の、ウブチン娘のくせに! だいたいセリィって、誰かをホントに好きになったことあるのっ?」


「え? そ、そりゃあない……と思うけど。だいたいそういうの、わ、私、よく分かんないしっ!」


 乱暴に髪をでまわすティガの両腕から逃れようと、ジタバタもがきながら、セリカはしどろもどろに答える。

  

「かぁ~、もったいねえ~! 白銀令嬢クーデリアじゃねーけど、もったいねえわのネエワ元年だわっ! これだから、優等生で級長のお姫サマは……! 


 でもさ、恋愛に“いいな”って憧れるキモチくらいはあんでしょ!? 前にウチに『男とキスしたことぐらいある!』なんて、くだらねーミエ張ったくらいだもんね」


「……ああっ、ソレ、まだ覚えてたの!?」


「もちろん! いくら酔っぱらってても、ここぞって時は意識鮮明! 可愛い子猫ちゃんのすきは見逃がさんかみなり使いですよぉ、このティガさんはっ! 


 まあいいって、とにかくあんたはユリっちと明日の放課後、目いっぱい、学生っぽく清楚せいそなお時間デートを楽しんできなって!」


「あ! だ、だからそれは、そういうんじゃ……」


「おいおい~……いい加減くどいっつの! 皇国パスタ用のトマトみたいに顔赤らめて、話をループさせんなし! もう待ち合わせ場所は決めたんか、おいっ!」


「……い、言わないっ! ……もう、ティガは意地悪なんだからっ! けどホントのホントに、ただ、炎属性の訓練用スピナーを見繕みつくろってもらうだけなんだからねっ?」


「へえ、マジ? あ~あ、こりゃダメだわ。明日は進展しねーだろな……今どき課金アリの電理乙女ゲーでも、もう少し無料で先が読めるわ! 


いいじゃん、とりあえずはお試しお試し! 最初はお互いなんでもなくても、ふとした拍子ひょうしにキモチ、芽生えちゃうかもしれんしなぁ? にひひッ!」


「もうっ! 女子向け電理コミックと恋愛小説の読みすぎ! 第一ここはマギスメイアよ、英雄の鍛錬場なんだから。皇国の未来のために鍛錬第一、ピンク色の恋愛脳なんて、もってのほか、でしょ!」


「か~っ、そうかてえこと言うなよ、おネエちゃんっ! 今どき地魔術生まれのゴーレムでも、もうちっとは融通ゆうづうきかすっての……!」


 こうして女子二人のにぎやかな会話は、やがて行く手に穏やかにともった、寮のあかりが見えてくるまで……日が落ちかけた構内で、もうしばらく続いたのだった。


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スタバのスは、素晴らしいのス! しばらく行ってないですが……


当分は毎日朝7:00か夜19:00ごろ更新の予定です。つたない作品ですが、システム上、目次の最新話下にある★にて評価いただけますと、より時間をさいての更新や内容充実を図れますので、大変助かります!


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