第24話 女子寮への帰り道

 それから、寮への帰り道。

 ティガは興奮気味で、セリカに話しかけてくる。

 スピナーの訓練は、今日が初日だというのに、もうちょっとした手応えがあったのだという。


「アレ、少し回せるようになってから試してみたら、雷弾らいだんの操作軌道がしっかりしてきたっつーか!? なんか、確かに効果ある気がするっ! この分だと、レギオン・バトルまでにウチ、本当に強くなっちゃうかも!」


「そうなんだ、良かったわね。私はまだちょっと……」


 苦笑するセリカ。ユーリが言うには、あのスピナーはティガはともかく、セリカとは魔術属性的にあまり相性が良くないらしいが……


「大丈夫だよ、明日以降、セリィ用のが手に入るんでしょ? だったらセリィも絶対成果出るって! それにしてもなんか、ユリっちって結構凄くね? 教え方も上手いし的確でさぁ……訓練中は、喋り方まで少し変わるっていうか? メッチャ“頼りになる教官様”って感じになるじゃん! ……たまに厳しくて怖いけどっ!」


「そうね、そこは感心しちゃった。確かに手慣れてる感じ」


「よく見りゃ、なかなかイケメンな気もするしね!」


「それ、いつかも言ってなかったっけ? まあ、確かに皇国だと珍しい髪色で、神秘的な感じはするけど……」


「あ~、ニネンセイってヤツもあんよね」


「にねん……? ああね?」


「それそれ! 教室でのテキトー・ユルキャラ的印象と違って、ユリっちって、根っこはわりに熱くて硬派っぽいと見たっ! 家が客商売してっから、これでもウチ、多少ヒトを見る目はあるつもりなんだよね~」


「へ、へえ、そうなんだ……? だったらその眼力がんりきは、なんで最初から発揮されなかったのよ……」


「ま、たまにはくもるってこともあんの! そういやセリィ、明日の放課後、ユリっちと街に行くんでしょ? ……イイなあ~」


 ティガは並んで歩くセリカに、不意に意味深な視線を送ってくる。


「えっ……?」


 セリカは驚いたように目をぱちくりさせると、次にはハッとティガの意図に気づいて、少し赤くなり。


「だ、だって、あれは……ほら、ティガも聞いてたでしょ? 訓練用品の、新しいスピナーを買いに行くだけだよ? ユーリ君としても、そんなに深い意味はない、わよ……?」


「ホントかぁ〜っ? その態度は怪しいぞ……チクショ〜、不審者ふしんしゃは身体検査だ、うりゃっ!」


 ティガはセリカの腰に勢いよく抱き着く。

 それからふざけ半分、胸と腰に手を回し、少々過激なボディチェックを試みてきた。


「ひゃあっ……! ティガ、ちょっとそれ、セクハラっ……!」


「ホラぁ、セリィって、なかなかいいモン持ってんじゃないの! 相手が意味なんて感じてなくても、その武器で“意識させる”んだっつの!


 あ~あ、ぶっちゃけ明日、ウチも二人に付いていきたいぐらいだけど、放課後は実家みせの仕事があるんだよね。かーちゃんが、また手伝えってうるさくてさ……」


「も、もう! 仕方ないじゃない、繁盛はんじょうしてるってコトなんだし……!」


 乱れた服を直しながら、今度はセリカがジト目で、ティガを軽くにらむ。

 ティガの実家は、東街ひがしまち皇都料理屋こうとりょうりや兼酒場である。


味はよく値段も庶民的だが、家族で細々やっているため常に人手不足で、娘のティガはたまに駆り出されて、そこでウェイトレスの真似事なんかをしているのだ。

 専用のフリル付き制服なんかも用意されていて、これでなかなか“看板娘”的な働きをしているらしい。


「いいな~、ユリっちと放課後デート……うらやましいなぁ~……」


「いやいや、だから、そういうのじゃないって! だいたいティガ、あなたはこの前まで、二年のカミル先輩しだったじゃない……彼はどうなったのよ?」


「だってさ~、ぜ~んぜん脈、なさそうなんだもん……ウチ、男ゴコロ知りまくり! みたいな振りしてっけど、ホントはあんま、自分に自信ないんだ~……そもそも寄ってくんの、ノリ軽くてエロ目的のヤツばっかだし。

 下心したごころミエミエですぐ振っちゃうから、経験あるある~、とか言いつつ、深いトコまではナカナカ、ねえ……? 


 本当は耳年増みみどしまっつの? 口ばっかりの初心者レベルっつーか。セリィも知ってんでしょ?」


「ま、まあね……」


 愚痴ぐちめいたものを漏らすティガに、セリカは苦笑する。それでも、情熱をかたむけられる相手がいるだけ、うらやましさみたいなものはあるのだが。


(そもそもティガが初心者レベルだったら、私は……アリさん、いえ、ミジンコとか微生物びせいぶつレベルよね、たぶん……あ~あ……)


 目の前がなんだか暗くなる。どっと気分が落ち込みかけてきたので、セリカは慌てて頭を一つ振って。

 

「で、でも、ティガはちゃんとモテてるじゃない! 私なんて、男子にろくに告白されたこともないよ……?


 この学園に来てから、男子はみんな、何か妙にジロジロ見てくるだけでさ……


 ある意味で注目はされてるのかもだけど、視線をちゃんと合わせて笑顔で挨拶しようとすると、変に赤くなって距離とられて、プイッて目をらされちゃったりしてね? 


 なんなんだろ、まったく……フツーに何気なく接してくれるの、ユーリ君くらいしかいないんだから……!」 


 ここはどうしても、ちょっぴり口を尖らせて、不満げになるセリカであった。

 だが、ティガはそんな悩みに同意してくれるどころか、呆れ果てたような顔で。


「……セリィ、マジでそう思ってんの? は~っ、分かってねえなぁ~……さすがラベルナ公国の秘宝、歩くニブチン天然記念物っ!」


 つまりは……高嶺たかねの花、過ぎるのである。

 クラスの平凡へいぼん男子どもは、当然セリカに熱い好意・関心を寄せている。

 ただ、相手は公女様で優等生で、品があってスタイルまでもいい、学園でも超トップクラスの完璧美人なのだ。


 加えてマギスメイアは、伝統長き名門めいもん魔術学園。ここに集う男子生徒は、マルクディオのような例外を除けば、皆がある意味、中途半端にお行儀ぎょうぎと頭が良い。

 だから当然、良くも悪くも“身のほど”をわきまえてしまっている。


「どうせ僕なんて……」とか「いや~、やっぱ俺クラスじゃムリじゃね……?」などという大人の分別くさい理性が、燃えあがりかけた情熱の炎を、いとも簡単に消し止めてしまうのである。


 結果、ちょっと気のく女子受けする男子も、せいぜいクラスで二番手三番手の女子……言ってみれば、手ごろなところで妥協だきょうする、という思考に走りがちなのだ。


 ……また、これにはもちろん、セリカがわりに勝ち気で凛とした性格かつ、ラベルナ流の武術・剣術の上級者であることも影響している。


 悲しいかな、この年頃の男子は、とかく女子より上位じょういに立ちたいもの。


 頭も良ければ身体的にもかなわない、自分より強いオンナはちょっと……みたいな、下らない見栄みえがある。

 いわば「恋愛カースト・ドーナツ化現象」とでも言うべき奇特きとくな状況……

 それこそが、現在悩める乙女セリカを取り巻いている、この奇妙な現象の正体なのである。

 

 それはともかく。


「ちょ、ちょっとティガ! て、天然記念物って何なの? 私だって、それなりに悩んで……」


 不当な扱いに抗議の声をあげようとしたセリカだったが、肩をすくめたティガに、さっさとさえぎられてしまい。

  

「はぁ~、やっぱりセリィって、マジで育ちがいいっていうか? アホらしアホらしっ! ……って感じで、世界の真実を教えたげる気もなくなるわ~……」


「え~! やっぱり、よく分かんないんだけど? だいたいそれって、私のせいじゃないからね!? 私だって、別に好きで公女に生まれたわけじゃないし……」


「分かってる分かってる、ウチら、そんな身分の境界線きょうかいせんを飛び越えた、超レアな親友同士じゃん!」


 そう言って、ティガはニッと笑う。


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今日は、頑張ってパステルカラー表紙のモテ本を読む予定です!


当分は毎日朝7:00か夜19:00ごろ更新の予定です。つたない作品ですが、システム上、目次の最新話下にある★にて評価いただけますと、より時間をさいての更新や内容充実を図れますので、大変助かります!


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