第23話 回転ハートスピナー
(な……何が、起こったの……!?)
その光景を目撃したセリカは、手にだらりとフレインベルジュをぶら下げたまま、
ティガもまた、サンダーグラップを構えなおすことも忘れ、呆然とした様子で突っ立っている。
彼女らが全身全力で、魔装武器の補助までフル活用し、同時に放った魔術弾が……目の前で、消えた。
それは、まさに魔術ならぬ、魔法のよう。
二つの暴れ狂うマグスの塊は、いつの間にか、影も形もなく……
それこそユーリの身体に届くことすらなく、かき消すように空中で無くなってしまったのだ。
「ああ、ちょっとした手品さ。当然種も仕掛けもあっけど、そこは企業秘密ってヤツだ……でも言っとくが、
「いやいや……そ、そんな学芸会の出し物みたいにサラリと言っちゃうレベルじゃ、絶対にないわよ……!?」
「す、
もはや驚きを通り越して
ユーリはそれを、
「さあな、多分、この部屋に仕掛けでもあんだろ……」
とだけ言い捨てて、先を続ける。
「だが、まあ……うん、だいたい分かったな」
再び右肩をコキリと鳴らしてから、腕組みを解いたユーリは、重々しく言った。
「やっぱ、教科書通りの技術と認識なんだよなぁ……。電理魔術の殿堂、マギスメイアの授業レベルもたかが知れてるっちゅーか、呆れんぜ」
「え~、ユリっちだって、授業出てるから、それぐらい分かりそうなもんじゃん?」
「ちょっとティガ、ユーリ君が、真面目に授業受けてるわけないじゃないの……」
「あれれっ!? 珍しいね、
「え!? い、いえ、なんとなくだけど、私もちょっとだけなら彼のことが分かってきたから……そ、そうね、互いに少し距離が縮まったかな~……なんて?」
ちらっと
「俺はな、流れでレギオン・メイトになったからって
まずセリカから、かな……そもそも炎属性の特徴は? ついでにお前の
「あ……は、はい!」
セリカは我知らず敬語になりつつ、生真面目に返答する。
「ええと、まず炎属性の特徴としては、全体に高威力の攻撃が可能なこと。ただ、他属性に比べると攻撃
「なるほど、文字通りの火力特化型ってわけだ、分かりやすい。んで、【マグスチャージ】は、一定時間の溜めモード付きで魔術を発動させることで、さらに威力を強化できる特質……だが、弱点もあるよな?」
「ええ、【マグスチャージ】の最中は、精神力の大きな集中が必要になるから、しばらく無防備になりやすいわね」
「そこについて、だ。お前はラベルナの
ユーリは、マルクディオとの一件の時に見た、セリカの勇姿を思い出しながら言う。
「手持ちの
つまりは、お前の身体能力と
具体的には、攻撃・防御動作で身体を動かしてる間に、【マグスチャージ】を
「え! そりゃ、実行できたら理想的だけど……そんな無茶なこと、できるの?」
「無論だ。というか、簡単じゃねえけど、今のお前のレベルでも不可能じゃねえってところだな。見たとこ、お前のマグスの
「う、うん……頑張ってみるけど」
「よし。具体的な鍛え方については、少し待ってろ。続いてティガ、お前のほうだが……」
「はいっす! 雷属性の特徴は、単発攻撃と複数同時攻撃の切り替えに長けてること。ちなみに、ウチの特質は【マグス
「ははっ、気分屋でせっかち、落ち着きがねえお前らしいな」
「それ、めっちゃ余計なお世話ってヤツだし!」
ふくれっ面で口を尖らせるティガ。それに苦笑しつつ、ユーリは。
「まあ、とにかくだ……【マグスアクセラ―】持ちはスピード勝負。相手より高速で電理魔術式を完成させることで、そのぶん先手を取れ、手数も多く繰り出せるってわけだ。
けど、それにはやっぱりマグス操作の精度が大事になるよな。今、お前が操れる
「う~ん……せいぜい、二つかなあ?」
「それ、三倍にしろ」
「ひえっ!! ……マジ!?」
「マジもマジ、大マジだ。さっきお前が撃った【サンダーグレネード】も、小弾二つを一つに
「そりゃ、そうだけど……」
「いずれにせよコントロールだよ、お前らに足りないのは……要は、マグスを練り自在に操るための精神集中力ってこと。
「そ、そんなこと言われてもぉ……」
「ねえ?」
顔を見合わせるティガとセリカ。
「
ユーリはそう言って、壁の近くの棚に手を伸ばすと、そこから小さな球体を取り出す。
「……それは?」
セリカとティガは、
大きさは、ちょうど
見た感じ、球体ではあるが
「ハンド・マグススピナーだ。こりゃ、主に軍の新人が訓練で使うもんだが、俺なりに調整してある……」
ユーリはそれを軽く親指で
ユーリはそれを、突き出した人差し指の腹に乗せて、二人の目の前に差し出した。
「ほら、だいたいこんな感じだな? マグスを正しいやり方で通しゃ、回転し続ける仕組みになってんだ。訓練の都合でしばらくは別のメニューをやっけど、最終的にはお前ら、これを常に回しながら、生活してもらうぞ」
「えっ、常に?」
「ああ、飯と風呂と寝てる時間以外は、全部だ」
「じ、授業中も……?」
「当然だろが、掌に隠せるサイズなんだからな。ま、一週間もやってりゃ、かなり上達するって」
顔を見合わせたセリカとティガだったが、ユーリがさらに
最初こそ実にぎこちない手つきだったが、ユーリの簡単なレクチャーを受けつつ、それぞれ十分もすると、二人とも少しはコツを
スピナーが、それなりの回転を見せるようになってきたところで。
「へえ、なかなかスジがいいじゃんか」
ユーリがとりあえずといった感じで
「へへっ、そう!? う~ん、ウチ、結構やればできる子だったのかなぁ……!」
「ちょっとティガ、調子に乗らないの!」
セリカにたしなめられ、ティガは小さく舌を出す。それからふと、何かに気づいたように。
「ん? でもこれ、一つしかないのってもったいなくね? ウチら二人でやるなら、もう一個あったほうが効率的なんじゃ?」
「あ、それはそうよね……」
「まあ、これでも軍の訓練用品だしな。本来なら民間に出回るものでもねえし、俺がちょっと改造してっから、こう見えてコイツは、そこそこ貴重品なんだよ。
とはいえ、確かに一理ある。ま、ティガは操れる雷弾を増やすのがメインの課題なんで、今、手元にあるそいつがちょうどいいだろ。そんでセリカは……ああそうだ、明日の放課後、空いてっか? ちょい付き合えよ」
「えっ!? 放課後……ユーリ君に……?」
セリカは一瞬、ドキリとしたような表情を見せる。そこにすかさずティガが割り込み……
「おやぁ、ユーリのダンナっ! どさくさまぎれに、クラスでカースト一位の美少女にデートのお誘いですかい?
手取り足取り、何を教えるつもりかなっ、なんつって! にひひ!」
「……くだらんことばっか言ってる不真面目なヤツには、手取り足取りどころか、もう
「スイマセンっした! 教官! 自分、ヤボでケチな酒場育ちなもんでっ!」
慌ててビシィと敬礼するティガを無視し、ふぅと溜め息をついたユーリは続ける。
「そもそもスピナーは、それぞれの属性や個性に合ったものが一番なんだよ。だからもう一つ、
「あ、ああ、買い物ってことね、なんだ……うん、分かった、大丈夫……!」
「あ? なんでお前、そんな赤くなってんだ……エロ親父のティガじゃねえが、確かにそんだけ美人なんだから、堂々としてりゃいんだよ。世の中、綺麗な女にゃ男がいんのが当たり前なんだし、オトコと街歩いたくらいじゃ、誰も気にしねえぞ?」
「……ゆ、ユーリ君っ!? あ~、そ、その、美人だとか綺麗だとか……た、ただのクラスメイトに、そ、そんなに軽々しく言うもんじゃ……ないと思う、んだけど……」
セリカが
「あ~、もしかして俺、やっちまったか? そうだな、公女様ともなりゃそういう礼儀作法、ちゃんと仕込まれてんだもんな。いや……すまんすまん、俺もあんまし、お上品な育ちじゃないもんでな?
けど、あの白銀令嬢サマとかと違って、お前、お姫様のクセになんか話しやすいから、ついつい立場を忘れちまうんだよなぁ……
それに、実はメチャ努力家だしよ? 一人じゃなんもできんから守ってください、ってナヨっちいのじゃなくてさ、ちゃんと自分の足で立てて、強くて凛としてる女は好きだぜ」
(ひゃー⁉︎ ああ、もうっ……! す、好き、なんて……ま、また!)
どこぞの無自覚最強キャラさながらに、その気もないのに、無意識のうちに容赦なく、女心にグイグイ攻め込んでいくユーリ。
(クッ……落ち着け! れ、冷静になるんだ、私! そ、そうだ、ばあやが言ってた、こういうときには羊を数えるのよ……ん? 数えるのって
「……だ、大丈夫、気にしてないからっ……!」
蚊の鳴くような声で、そう返すのがやっとだ。
「あ、そう? なら助かった、お姫様、今回はご無礼のほど、どうぞお許しくださいませ、ってヤツだ……こんくらいで、
女心を分かっているようで分かっていない、異界からの最強帰還者……ユーリはあくまで
「まあとにかくだ、店については、俺にちょっとアテがあんだ。知り合いの
さっきも言ったけど、
「そ、そうなんだ……ユーリ君って、結構顔が広いんだね?」
「……好きでそうなったわけじゃねえけどな、腐れ縁ってヤツだよ。ま、とにかく明日の放課後だ、忘れんなよ、セリカ?」
「あ、うん……!」
苦笑しながら念を押すユーリに、セリカはただ、こくりと
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今日は、満員電車に揺られながら全力でハンドスピナーの訓練をします…!
当分は毎日朝7:00か夜19:00ごろ更新の予定です。つたない作品ですが、システム上、目次の最新話下にある★にて評価いただけますと、より時間をさいての更新や内容充実を図れますので、大変助かります!
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