第16話 怒りの理由
「なんだか分かりませんが、妙な技を! わたくしは、アーンスラッド家の娘! タランテナの
キッと
彼女が強引にユーリの肩を掴もうとした拍子、バサリと音が響く。
くるりと身を
「……っ!」
セリカがあっと息を呑んだが、ユーリはただ、一言のみ。
「てめえ、俺の昼飯と、エーテルペッパーを……ちっ」
彼はただ、舌打ちを一つしただけ。
今ここで、この高慢なご令嬢を罰することなど、彼からすれば赤子の手をひねるより簡単だが、ある意味で面倒でもあるのだ。
何しろ【マグネシス】が使われたことはおろか、それが意味する実力差にも気づかぬ
かといって実力の
つまりその舌打ちには、いろんな複雑な思いがこもっているわけだが……それをこの場の誰が理解しえただろうか。
ただ、そんなユーリの
「あんたっ! 白銀令嬢だか何だか知らんけどさ、いい加減にしなよっ! ウチは酒場兼料理屋だ、食べ物を粗末にするヤツって、許せないんだけどっ!」
「ふん、かがんで拾えば良いじゃない。まだ食べられるでしょ」
クーデリアがさして気にした風もなく、そう言い放つ。
「イイわけないでしょっ! 完全育成小麦の
「ちょ、ちょっと、二人とも……」
セリカが割って入ろうとするが、それがまた、クーデリアの
「邪魔しないでくださいな! そもそも、セリカさん! あなたがこの一件の原因でもあるのですからねっ! だいたいあなた、
セリカは、その勢いにたじたじとなりつつ。
「え? そ、それは……もう、ティガとレギオンを組む約束、しちゃってたから……そもそもクラスが違うと、不都合もあるし……」
「レギオン結成の決まり上は、別に問題ありませんわっ! これでも……これでもわたくしっ、初めてそのお姿を見た時から、あなたをっ!……コホン」
クーデリアはハッとしたように少し頬を染めてから咳払いをし、それから、つん、と小さく顔をそらし。
「……その、ですね、それなりに高く買っていたのですよ? それが、ふん、庶民出身のお友達と、ねぇ……?
朱に交われば
眉根を寄せつつ、ちらりと、ティガの方に目をやるクーデリア。
ティガもむっとしたようで、腕を組んで言い返す。
「誰とレギオンメイトになるかなんて、セリィが決めることっしょ! それこそアンタの出る幕じゃないっての!
へっ、せいぜいお上品なガリ勉同士、
舌を出して悪態をつくティガに対し、クーデリアはますます不機嫌になった。
「そんな仲良しごっこで、実力が付くはずないじゃないの! そもそもマギスメイアのレギオンは、若き魔装騎士たちが
「は~、完全に余計なお世話だわ~! ウチが設立した『カラフルブルーム』は、まだまだ発展途上中! いずれ吠え面かくのは、あんたたちのほうなんだからっ!」
「あら、優等生のセリカさんじゃなく、あなたがレギオンマスターなの? ふふ、あなたの成績って、こういっちゃなんですけども……かな~り“平凡”じゃなかったかしら? 聞いて呆れますわ」
「た、確かにウチは、セリィほど上位じゃないけど、順位でいうなら……ちゅ、中くらいだし、言い出しっぺだからね! それに、レギオンマスターの学年順位なんて、どうでもいっしょ!」
「は! 優秀なレギオンには、優秀なマスターが付き物。それこそお里が知れるってものよ……だいたい、たった二人で何ができるのかしらぁ? 学内で正式なレギオンとして認められるには、最低でも三人はメンバーが必要だっていうのに? つまりあなたたちのは、どこまで行っても、頭お花畑のごっこ遊びですわっ!」
「ぐ……! ち、違うっすわ! ウチらの『カラフルブルーム』は、もうそんな条件、とっくにクリアできてっし!」
「へえ、どうやって? 三人目、いつ見つけたんですのぉ~?」
「そ、そんなの、もうとっくだっつの! ええっと、ええっと……」
ここで、ちらり、と何かを
「あ、ちょっとティガ! 勝手に……」
察したセリカが
「へえ、そちらの彼が? なら、そっちも三人揃って正式なレギオンになったってわけですわね? それでしたら、話がググっと早いですわ……」
続いてクーデリアは、高らかに宣言する。
「そう、戦友試合! レギオン・バトルで、この件のことは全部まるっと、くっきりハッキリ、まとめてスッキリさせようじゃありませんのっ!」
レギオン・バトル……それは、マギスメイアの伝統の
「ふふっ、この
考えなしのティガさん、目障りなセリカさん、ついでに、そこのエーテルペッパー大好き男さんにもね! 何ですの、あんな下劣そうな色の飲み物の一本や二本で……ふんっ」
クーデリアがそう言ってのけた直後、彼女は周囲の温度が急に下がり、大気までが凍てついたかのような、おぞましい寒気を感じた。
「ひっ……?」
「……おい」
次いで、彼女の耳に届いた、恐ろしく冷たい
クーデリアが恐る恐る、といったように見ると、ユーリが静かな怒りを
「レギオン・バトルなんざお断りだ。俺はどこのレギオンにも入った覚えはねえし、面倒だからな……と思ってたが、そうもいかなくなったみてーだぜ。おい、銀髪クソ女さんよ。一つだけ、取り消してもらうぞ……!」
「な、何を……ですの?」
魂ごと存在全てを威圧されているような強烈なプレッシャーを感じ取りながらも、冷や汗を流しつつ、
(ユ、ユーリ君が怒ってる……は、初めて見たかも……)
セリカがゴクリと
「今、さっきよぉ……馬鹿にしたよな、お前? そう、絶対に馬鹿にした……なら、いくら人格者な俺にも、見過ごせねえラインがあるっつーことだ!」
「な! わ、わたくしが何を馬鹿にした、と……?」
「あんたに言っておく! エーテルペッパーは極上にして至高、世界最高の飲み物だっ……! 特大ドーナツは百歩
ユーリがずい、とクーデリアに向け、拾いあげた購買の紙袋を突きつける。
「分かるか? 俺のとっておきの特級エーテルペッパーが、こんな風になっちまった……絶対に泣かせてやんぞ、てめえっ!」
叩き落された拍子に瓶にヒビが入ったのだろう、紙袋から滲み出てきた液体が地面を濡らしていくのを見ながら、ユーリが吠える。
(えっ……ユーリ君の“怒りポイント”って、そこ!?)
(なんか、わりと斜め上すぎッ!)
セリカとティガが一斉に呆れた表情になるが、クーデリアはもっと驚いたようで。
「はあ~っ? はあ~っ? マジで、はあ~っ!? なんですけどっ! いったい何を言ってるんですの?
「ふぅ……そうかよ」
ユーリは小さく呟くと、肩をコキリと回しながら。
「改めて言っとくぞ、タランテナの白銀令嬢サマよ……エーテルペッパーは“最強”だ!! お前、その世間知らず丸出しな
「くっだらない! 何を意地になってるんですのっ? まあいいわ、あなたもレギオン・バトルに参加する気まんまん、ということなのですよね?」
「つまらん学生の遊びだと思ってたがな、仕方ねえ、やってやんよ……!」
「ふふっ、
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明日は、葛飾北斎の人生について学んできます!
当分は毎日朝7:00か夜19:00ごろ更新の予定です。つたない作品ですが、システム上、目次の最新話下にある★にて評価いただけますと、より時間をさいての更新や内容充実を図れますので、大変助かります!
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