第33話 パーティー名と疑問とオトメの事情



「ふぅーん、【聖獣旅団トラベラーズ】ねぇ……? 悪くないじゃないのさ」


「でっしょぉぉん!? カレンちゃんも上級に昇格したことだし、メンバー全員が上級探索者で〝新進気鋭の実力派パーティー〟として売り出しちゃうわよんっ!」


「ってことらしいんだけど、アンタ達もこの名前で良いのかい?」



 探索者組合の応接室で、ドーマ支部の支部長であるアリス・ブロッサムに、パーティーの名前が決まったことを報告する瑠夏達一行。

 発案者であるミッチェルはノリノリでご機嫌ではあるが、彼(彼女?)のことを良く知るアリスは、それがミッチェルの暴走ではないかと心配し、一行に確認の声を投げ掛ける。



「不本意だが……まあまあ良い名前なんじゃねぇか……?」


「ダディったら、気に入ったんなら素直にそう言いなって。ミーちゃんも喜ぶよ?」


「ぱんだぱんだぁ~♪」


「ふふっ。ルナちゃんはしっかりお気に召しているみたいですわよ?」


「ぐぬぬ……!」



 パーティーメンバー達のその反応で察したアリスが、嘆息と共に笑みを浮かべる。そうしてから手元に預かっていたパーティー申請書の空白欄――パーティー名の欄にその名を記入して、内容を改めて確認する。



「パーティー名【聖獣旅団トラベラーズ】。リーダーはルカ、メンバーがカレンディア嬢ちゃんとミッチェル。それから従魔としてダディとルナ。まあ方針の決定権はダディにあるんだろうが、人間向けの申請はこんな感じで良いね?」


「はい、問題ありません!」


「あいよ。そんじゃこの内容で正式に登録しとくから、一旦みんなの資格証を預けておくれ。一日ありゃあ書き換えできるから、明日また受け取りに来ておくれよ」


「それじゃあ、明日ドゥエムコフさんの所に寄ってからまた来ますね」


「分かったよ。受付には知らせとくからね」



 課題を解いた生徒を褒める教師のような微笑みで、瑠夏達を眺めるアリス。随分と変わり者ばかりの一行だが、その微笑みには彼女らの前途を祝福するような温かみが、確かに感じられた。



「何から何までありがとうございます、アリスさん」


「良いってことさね。セビーネの話じゃあ、なんだかデッカイ目標もあるんだろ? その第一歩を手助けできたんなら、あたしだって嬉しいよ」


「んじゃま、面倒な手続きも終わったことだし、屋台で晩飯でも買って帰ろうぜ。俺達の拠点によ」


「そうだねダディ。それじゃアリスさん、また明日よろしくお願いします!」


「あいよ。ちゃんと休んで体調整えんのも探索者の仕事の内だからね。ルカもカレン嬢ちゃんも、しっかりお休みよ」


「あらぁんっ!? ワタシにはお休み言ってくれないの、アリスちゃんッ!?」


「はいはい、お休みミッチェルくん」


「ミーちゃんって呼んでったらぁんッ!!」


「やかましい! 置いてくぞオネェ!!」


「ダディちゃん、ひっどぉぉぉいッッ!!」



 いつも通り、姦しく。ミッチェルを加えてより賑やかになった一行は、用意が整い晴れて契約を交わした借家への帰途へと就いたのであった。





 ◇





「ほうかいほうかい。【流離さすらい人】まで仲間にするたぁ、嬢ちゃん達の実力はこりゃホンモノじゃなぁ」


「あ、それアリスさんも言ってましたけど、何なんですかソレ? ミーちゃんのことだっていうのは分かるんですけど……」


「あらやぁねぇルカちゃん! オトメの秘密を聞き出すなんて、ワタシ恥ずかしいわぁんっ!」


「わたくしも知りたいですわっ!」


「ぱんだぁ~?」



 明くる日の昼過ぎ。午前中を休養と借家の整理に宛てた瑠夏達は、瑠夏の装備の設計を担っている鍛冶師、ドゥエムコフの工房に足を運んでいた。

 そこで新たなパーティーメンバーであるミッチェルを紹介したところ、アリスも口にした【流離い人】という言葉が浮上し、疑問に思っていた瑠夏はそれをドゥエムコフに尋ねていた。



「パンダぁ? 疑問だったんなら本人が居るんだから聞きゃあ良いじゃねぇか。おいオネェ、教えてやれよ」


っ」


「……あ゛?」


って呼んでくれなきゃ、教えてあげないわよんっ♡」


「…………人間誰しも聞かれたくねぇこたぁあらぁな。よし瑠夏、諦めっか」


「ちょっとぉぉぉッ!? そこはヤ・サ・シ・ク『ミーちゃん♡』って呼んでくれるところじゃないのぉんッ!? んもぉ~っ、ダディちゃんのイ・ケ・ズぅ♡」


「なあ瑠夏、殴っていいかコイツ……」


「いやダメだよッ!?」



 平常運転でクネクネとを作りながら、頬に手を当ててダディにウィンクを飛ばすミッチェル。そんな様子に肩を震わせながら牙を剥くダディであったが、さすがに殴るのは瑠夏が慌てて止めたのだった。

 そしてそんな一行の空気に慣れたのか、もしくは自身も変人であるが故か、ドゥエムコフが代わりにとその質問の答えを語り出した。



「コイツが、元はさる国のお抱え暗殺者だったってぇ話は聞いとるじゃろ? そういった話ってのは出回る所にゃ出回るモンなんじゃ。実際ちゃんと足抜けできとるのか、実は実力があって邪魔な探索者を暗殺しにきたんじゃねぇかってな、コイツに見合った能力を持った連中からは、その高い能力が故に避けられとっての。そんでいつまでも誰とも組めずにソロであちこち放浪しとったから、いつからか【流離い人】なんちゅう二つ名が付いたって訳じゃ」



 なるほどなと、得心がいった……瑠夏達。

 ミッチェルの持つユニークスキルだけで考えても、まさに暗殺者にお誂え向きといった破格の能力を有しているわけだしと、彼のバックボーンを知っていたのならいつ背後を取られるか気が気でないというのも、理解ができてしまったのだ。



「そんな……! ミーちゃんは嘘なんか吐いてないのに……ッ!」


「ルカお姉様……」



 そんな事情を聞かされた瑠夏は、思わず俯いてしまった。

 初対面の時こそ驚き、脅威に感じはしたが、それ以降はずっと気さくで、優しい漢女オトメであったミッチェル。そんな彼女の優しさを感じているからこそ、そのような前評判だけで爪弾きにしていたという周囲の人間達に、怒りを抱いた。そしてその怒りは、今の説明を聞いて僅かであっても納得してしまった自分にも向いていた。


 そんな俯く瑠夏の頭に、不意に大きな手が置かれる。



「ルカちゃんは優しいわねん。怒ってくれて、オネェさんとっても嬉しいわん」


「ミーちゃん……?」


「だけど大丈夫よん。そうやって流離ってきたからこそ、こうしてルカちゃんに……ステキな仲間に出会えたんだもの。あの時ルカちゃんに信じてもらえて、ワタシ本当に嬉しかったんだからねん?」



 バチリッと。甘いマスクに長い睫毛でウィンクを投げながら、そう瑠夏に語って聞かせるミッチェル。

 そしてその言葉は嘘ではなく本心だと、出会った時にもその言葉の真実を見抜いた瑠夏の【審理眼】がそう、痛いほどに伝えてくる。



「だ・か・ら! そんな悲しそうなお顔しないでちょうだいな♡ ワタシは今、サイッコーにハッピーなんだからねんっ♡」


「ミーちゃん……うんっ。改めて、仲間としても友達としてもよろしくね!」


「わたくしももちろん、ミーちゃん様のことは信じていますわ!」


「ぱんだぁ~っ♪」


「アナタ達……っ! ワタシ、嬉しいわぁんッ♡」



 ガシッと抱き合って友情を確かめ合った女性(?)陣。それを眺めながらドゥエムコフは潤んだ目元を擦り、ダディは……



「……パンダかよぅ、事ある毎に俺が悪モンみてぇになってるんだがよぅ……」



 同調するべきか否か躊躇しながら、疎外感を感じてイジケていたのであった。




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