三章 JKのダンジョン攻略クエスト付き

第29話 ダンジョンと素材集めとオトメ襲来



『じ、嬢ちゃんが戦えることはよっく分かった……! 装備を作ることもやぶさかじゃねぇ。じゃが、一つ問題があるんじゃ』


『何なんですか問題って?』



 探索者組合の支部長、アリス・ブロッサムの紹介で知り合った偏屈な鍛治職人のドワーフは、その立派な髭を撫でながら言葉を濁した。

 しかし直近でまたも恥ずかしい思いをした瑠夏には、もはや怖いものは無かった。また不埒な真似をすれば、今度こそギブアップを無視して命を奪わんと怒りを込めて、ドゥエムコフへと詰め寄ったのだ。



『素材が無いんじゃ』


『素材??』



 偏屈なエロオヤジ職人の工房に、間の抜けた声が響いたのであった。





「まあ、パンダかんだ言ってもやるこたぁ一緒だったから、良かったじゃねえか」


「ええ! わたくし達の旅の目的とも合致しますし、一挙両得ですわ、お姉様!」


「ぱんだぁ〜っ♪♪」



 頼れる父親パンダのダディの背に跨って、ダンジョンの奥深くへと突き進んでいく瑠夏達一行。

 未だ〝浅層〟と呼ばれる上層部――地下十五階層を雑魚モンスターを蹴散らしながら、奥へ奥へと攻略を進めていく。



「そうだけどさぁ〜。でも結局はあの格好で戦わなきゃいけないし、素材が手に入っても装備ができるまで時間掛かるって言うし……。あそこで恥ずかしい思いをしたあたしは何なのよまったく……!」



 ダディの背に揺られ、ルナを抱えてそのモフモフの毛並みに癒されていた瑠夏が、盛大に溜息を漏らす。


 ドゥエムコフ曰く、【霊獣憑依パンダ・インストール】時の瑠夏が身に付けていたリングコスチュームは、そのどれもが〝神の恩寵品アーティファクト〟級の逸品であるとのこと。

 ただ露出を減らしたいだけの瑠夏にとっては理解に苦しむが、アリス支部長ですら認める一流の鍛治職人は、決して妥協を許さなかった。



『ソレに見合うだけの最高の装備を作ってやる。じゃからおんしらは、そのための素材を集めてくるんじゃ。なぁに、ここはダンジョン都市じゃ。ダンジョンの〝深層〟クラスのモンスターの素材なら、少なくともそのけしから……ゲフンッ。ルカ嬢ちゃんの装備に見合うモノが見付かるはずじゃて』



 そう話すドゥエムコフに追い立てられるようにして、工房を後にした瑠夏達。その後は予定通り不動産屋へと赴いて物件を依頼し、その足で素材集めのためにダンジョン攻略を開始したのであった。



「拠点にする借家だって無料タダじゃねぇんだ。資金繰りも兼ねてダンジョン攻略は悪かねぇ。いい加減切り替えろよ、瑠夏」


「むぅぅ……! 分かってるよダディ……」


「ぱんだぁ〜っ♪♪」



 口では文句は言うものの、それなりに納得はしている様子の瑠夏であった。愛らしいルナを抱きしめて、不貞腐れた顔をモフモフにうずめてはいたが。



「さあ、そうと決まりゃあガンガン行こうぜ! カレン嬢ちゃんもバンバン魔法の練習するんだぜ!」


「はいですわ、ダディ様!!」



 ダディが雑魚を踏み潰しね飛ばし、その背の上からカレンディアが魔法で掃射する。

 さながら移動砲台や戦車といった怒涛の攻略スタイルで、一行はさらに奥深くへと侵攻していくのであった。





 ◇





 一行はさらに攻略の深度を上げ、今日は朝から活動を始めていたこともあり階層を二十九階層にまで進めていた。

 二十階層を超えた辺りからダンジョン内にはトラップも出現し始め、姿を見せるモンスターの種類も二桁を超えるほどに増えてきている。



「カレンってばイイ感じじゃん! やっぱり発想の転換って大事なんだねー!」


「そんな……照れてしまいますわ、お姉様……!」


「いやいや、実際大したモンだぜカレン嬢ちゃん」


「ぱんだぱんだぁ〜っ♡」



 火球ファイアボールを撃ち放ち、群れを成して襲いかかってきたスケルトンナイト――骸骨のモンスターの上位種だ――を殲滅させたカレンディアを、口々に褒め称える瑠夏達。


 瑠夏が何の気なしに呟いた、『一個で大きくなっちゃうなら小さいのをいっぱい作れば?』という発言により、『お姉様がおっしゃるならやってみせますわ!!』と気合いを見せたカレンディアが、なんだかんだで成功させてしまった並列での多重詠唱。

 カレンディアの膨大な魔力を注がれた火球群はサイズこそ通常のものではあったが、野球ボールをバランスボールほどにまで膨れ上がらせるその魔力で形成されたその一発一発の威力は、桁違いであった。



「ですがまだ詠唱に時間が掛かりますわ……。短略や破棄をするには、まだまだ練度が足りませんわね」


「ノータイムであんな魔法攻撃が撃てたら、それこそ大魔導士レベルの魔法使いになっちまうな。おい瑠夏、こりゃ俺達もうかうかしてらんねぇぞ?」


「分かってるってば〜! だから今から戦おうとしてるじゃんっ」


「ぱんだぱんだぁ! ぱんだぁ〜!」



 覚束おぼつか無い魔力制御を発想の転換でクリアしたカレンディアに、ダディとルナも揃って奮起する。散々文句を漏らしていた瑠夏でさえも、可愛い妹分の躍進と進歩に恥ずかしいだのとは言ってはいられなくなったようだ。



「ルナ、【霊獣憑依パンダ・インストール】!」


「ぱんだぁ〜っ!!」



 瑠夏の指示により、【霊体化】したルナがそのスキルを行使する。光り輝く霊獣ルナと一体化した瑠夏の衣装が、露出過多でパンダカラーなリングコスチュームへと変貌する。



「良く見たらこの戦闘時の衣装、細かいレース編みなど意匠が素晴らしいですわね……」


「ちょ!? カレンてばそんなにお尻をマジマジ見ないでよぉおおおッ!!??」


「あら、大変可愛らしくて似合っておいでですよ、お姉様? 見慣れたとはいえ下着としては……という意味ではありますけれど……」


「もぉーーーーッ!! 絶対に素材を見付けて、ドゥエムコフさんにアウターを作ってもらうんだからぁーーーッ!!!」



 羞恥と怒りを誤魔化すような勢いで駆け出す瑠夏。新たに集まってきたスケルトンナイト達は、そんな瑠夏の八つ当たりの【聖獣格闘術パンダアーツ】によって、粉骨砕身されてしまうのであった。





 そうして相も変わらずかしましく、辿り着いた三十階層の〝階層主フロアボス〟の間の手前の安全地帯セーフティエリア

 こちらも相変わらず気の抜けるような、レベルアップをしらせる軽快な電子音を何度か聞いた瑠夏達は、本日の締め括りとばかりにボス戦を控え、安全地帯の広間で休息を取っていた。



「三十階層の階層主フロアボスは、確かスライムキングだと聞いておりますわ」


「スライムかぁ……。またファンタジーではド定番なモンスターだねぇ」


「だが油断はすんなよ瑠夏。スライムは確かに定番もいいとこなモンスターだが、昨今のラノベや漫画では強キャラとして描かれてることも多いからな!」


「いやそりゃお兄ちゃんのラノベとか読んで知ってるけどさ、だからどうしてパンダのダディがそうサブカルチャーに詳しいのよ!?」


「女神パン・ダルシアの祝福ギフトのおかげだな。お父さんは年頃の娘とも会話が弾ませられる、出来るパンダなのだ」


「ぱんだぁ〜っ♪」



 合体を解いたルナが行使する、新たなスキル【異空間収納パンダ・ラ・ボックス】からお菓子と飲み物を取り出して、ピクニック気分で談笑する瑠夏達。



 ――――んふふふぅ〜ん♡ るんららぁ〜♡



 瑠夏のスマホアプリ【アーカイブ】でスライムキングについて検索し、攻略法を話し合う一行であったが、しかし。



 ――――んっんっんん〜♡ しゃばどぅび〜♪♪


「……なあ、さっきからパンダか変な声が聞こえねぇか?」


「できれば幻聴だと思いたいけど、あたしも無駄に良い声のハミングが聞こえる気がする……」


「わたくしにも聞こえますわ……!」


「ぱんだぁ〜?」



 念の為に、出したゴミすらキチンとルナの【異空間収納パンダ・ラ・ボックス】に仕舞い、背中のジッパーを閉めた瑠夏達は、その謎のハミングの出処を探り始めた。

 安全地帯セーフティエリアの広間には、今は瑠夏達二人と二頭しか存在しない。ならばと再び聞き耳を立てると、そのビブラートも美しい美声の……ただし野太いハミングは、瑠夏達がやって来たのとは別の通路の先から聞こえてくるようだ。



 ――――ふんふふふ〜ん♡ しゃらんら〜っ♪♪



 野太く美しいハミングは、徐々に大きくなってきている。それはつまり、それを口ずさんでいる何者かが、瑠夏達の居るこの広間へと近付いて来ていることを示していた。


 瑠夏達の間に緊張が走る。三人娘を庇うように前に進み出たダディが、いつでも飛び出せるように四肢を踏ん張り警戒をあらわにする。


 そして――――



「ふんふん……あらぁ〜ん? なんだか可愛らしい先客ちゃん達が居るわねん♡ ハァイ♡ ワタシはミッチェルよぉ〜んっ♡♡」



 セミロングほどのウルフカットの緑色の髪をつややかに揺らし、露出された細身だがしなやかそうな筋肉の鎧を身に纏った、百八十センチほどの一人の男性が、を作って喜びの黄色い、ただし野太い声を上げる。



(お、オカマ……!? オネェ!? いやまさか、これはもしかして……ファンタジーに生息するというあの伝説の……〝漢女オトメ族〟なのッ!!??)



 言葉を失い目を見張る瑠夏達の視線にさらされ、ミッチェルと名乗ったその怪しさしかない漢女オトメは、クネクネモジモジとを作っては、恍惚の笑みを浮かべて悦に浸っていたのだった。




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