第11話 パンダとJKと聖女覚醒



「落ち着いてソコに集中するんだ、瑠夏。カラダの力を抜け」


「わ、分かってるけど……ッ! だってあたし、初めてなんだもん……!」



 誤解を招きそうな会話に通行人が振り向きながら通り過ぎる中、ダディに急かされて瑠夏は焦っていた。


 観光の案内役を買って出てくれたアルチェマイド侯爵家の一人娘である、カレンディア侯爵令嬢がルナと共に失踪してから十数分。

 失踪現場となった武具店の周辺での聞き込みが空振りに終わり、途方に暮れる瑠夏にダディがある提案をしたのだ。



『ルナの〝パンダぢから〟を探ってみろ』


『は???』



 ダディ曰く、聖獣のダディと霊獣のルナは、この世界の人間や魔物とは違い〝魔力〟ではなく〝神聖力〟――ダディが言うところの〝パンダ力〟を持っているとのことだ。

 そしてユニークスキル【聖獣使いパンダ・マスター】を保有する聖女である瑠夏は、そのパンダ力を感じ取ることができると言う。



「戦闘中とか気が昂ってたりすりゃあ、俺でも感知できるんだがな……。それが無いってことはルナはまだ無事な証拠なんだが、いかんせんそれじゃあ俺には感じ取れねぇんだ」


「ルナとの繋がりみたいなモノを探せばいいんだよね?」


「そうだ。ルナが選んだ聖女である瑠夏、お前なら絶対にできる」



 侯爵領の領都メリクフォレスの中心となる噴水広場で、夕暮れ時の雑踏に気を散らしながらも必死で集中する瑠夏。

 目を瞑り、額に汗の玉を浮かべて脳裏に愛くるしい娘パンダを思い浮かべる。



「――――ッ!? なんか感じたっ!!」


「見付けたか!? スマホの【アーカイブ】の地図と照らし合わせてみろ! どの辺だ!?」


「えっと……東の方! うわっ、ヤバいよダディ! ここ〝スラム街〟って表示出てる!!」


「チッ! 急ぐぞ瑠夏! 背中に乗れ!!」


「うんっ!!」



 地面に伏せたダディの背に飛び乗り、雑踏にもどかしさを感じながらも全力で移動を開始する瑠夏とダディ。

 道行く人々を驚かせながらも、ダディが道を開けろと声を張り上げて広い領都の中を爆走する。



「瑠夏、コッチで合ってるか!?」


「うん! だんだんルナのパンダ力が強く感じ取れるようになってきたよ!!」


「よし! そのまま地図と感知で誘導してくれ!!」


「分かった!! あ、ダディそこの路地を右だった!!」


「ぱんだぁあああッ!? もうちょい早めに指示出し頼む!!」


「ナビなんて初めてなんだからしょうがないじゃんッ!!」



 喧喧囂囂けんけんごうごうと言い合いながら、ダディと瑠夏は入り組んだ路地を駆け抜けて行った。





 ◇





 ルナのパンダ力を追うこと十分ほど。反応が近くなったこともありここからは慎重にと、瑠夏とダディはひっそりとした路地を縫うようにして移動していた。


 物陰から顔だけ出して辺りをうかがい、スマホの地図とルナのパンダ力を頼りに移動を繰り返し、そしてとある工房の跡地と思われる大きな建物に辿り着いた。



「ここまで近付きゃあ俺でも感じるぜ。ルナはここに居る。カレン嬢ちゃんの匂いも微かだが感じるぞ」


「二人とも大丈夫かな……?」


「瑠夏。【聖獣使いパンダ・マスター】の技能に【守護獣念話テレパンダシー】ってのがある。ルナのパンダ力を感じ取りながら、心の中で強く呼び掛けてみるんだ」


「なんでもパンダ絡めりゃいいってモンじゃないんですけど!?」



 全力でツッコミを入れたい衝動になんとか耐え、それでもルナとカレンの無事を祈りながら再び集中する瑠夏。

 か細い糸を手繰たぐり寄せるようなイメージで、ルナとの繋がりを強く意識し、言われた通りに呼び掛けを試みた。



《ルナ! ルナ、聞こえる!?》


《ぱんだぁ〜っ♡》


「うわ、ホントに繋がった……!?」



 すると集中していた瑠夏の頭の中に、聞き慣れた無邪気な声が響いた。間違いなくルナのものだ。



「よし! そしたら今建物のどこに居るのか、カレン嬢ちゃんはどこなのかそのまま聞いてくれ!」


「いやそうは言っても、ルナって『ぱんだぁ〜』しか言わないじゃん!?」


「【守護獣念話テレパンダシー】ならちゃんと分かるはずだ! いいからやってみろ!」


「ああもうっ!」



 有無を言わせぬダディの押しに負け、瑠夏は破れかぶれといった心境で再びルナに呼び掛ける。



《ルナ! 今どこに居るの!? カレンは一緒に居るの!?》


《カレンおねえちゃんつかまった〜! だからミッションインパンダッシブルぅ〜っ♪》


《スパイごっこか!! なに危ないことしてるの!!》


《ごめんなさい〜? いまおねえちゃんじめんのしただよ〜!》


《カレンは地下室ね!? ルナ、あんたは捕まってないんだね!? こっちに戻って来れる!?》


《は〜い、いまいくね〜!》



 念話の中でまさかルナにツッコミを入れることになるとは夢にも思っていなかった瑠夏だが、すぐさまダディに内容を伝える。


 報告を聞いたダディは。



「さすが俺の娘、天才が過ぎる……! マジ天使!」


「親バカしてる場合なの!? ルナは今からこっちに来るって言ってたけどどうやって――――」



 即座にツッコむ瑠夏であった。しかし全てを言い終える前に――――



「ぱんだぁ〜っ♪」


「いやぁあああああッ!? 地面からルナが生えてきたぁああああッ!!??」



 突如目の前の地面から、半分透けた身体をしたルナが飛び出してきたのだ。



「もう【霊体化】まで使いこなして……! お父さん目からしょっぱい汁が止まらない!!」


「何コレどうなってんのぉおおおおおッ!?」


「ぱんだぁ〜っ♪♪」



 なんとか全員小声に抑えてはいるが、大騒ぎであった。

 しかしそれも束の間のこと。一頻ひとしきり騒いだ瑠夏達は、カレンディア救出作戦を練り始める。



「瑠夏。ルナに【霊獣憑依パンダ・インストール】を使うよう指示するんだ」


「ヤダよぅ……! そこはかとなくイヤな予感がするよぅ……!!」


「ぱんだぁ〜〜??」


「大丈夫だルナ。【霊体化】を使える今のお前なら絶対成功する。お前を信じるパパを信じろ!」


「勝手に話を進めないでよぉッ!!」



 瑠夏の嘆きは放置され、ダディとルナの賛成多数で作戦が決まった。『ふんすっ』と気合い充分なルナを満足そうに一撫でしたダディは、瑠夏を真っ直ぐに見据えて促した。



「あたしの拒否権はどこなのよぉ……!? もういいもんっ! ルナ、【霊獣憑依パンダ・インストール】!!」


「ぱんだぁ〜〜〜っっ!!」



 瑠夏の指示に応えたルナが気合いの込もった鳴き声を上げると、その身体は淡く輝き始めた。そして先程地面から出てきた時のように、その身体が透け始める。

 その状態でルナは瑠夏へと歩み寄り、前足を掴めと言わんばかりに突き出した。


 瑠夏が恐る恐るその前足を手に取った、その瞬間――――



「ぱんだぁ〜〜っ!!」


「わわっ!?」



 瑠夏の視界は一瞬にして真っ白になった。思わず目を瞑った瑠夏だったが、瞼越しに光が去ったのを感じてゆっくりと目を開いた。



「す……すげぇパンダ力だ……ッ!! 成功だぜ瑠夏! スマホで自分の姿を見てみろ!」



 そこにはルナの姿は無く、ダディしか居なかった。当のダディは興奮気味に、瑠夏に自身の姿を見るように促してくる。


 言われた通りにスマホを取り出そうとして、はたと違和感に気付く。


 スマホを握る手がおかしい。手首から先にはなぜか黒い毛並みと肉球、そして鋭い爪が付いているのだ。



「は? え、なにこれ……!?」



 四苦八苦してスマホを操り、インナーカメラを起動して自分の姿を捉える。そこには――――



「パンダ耳、パンダグローブにパンダブーツ、そしてパンダビキニスーツか……! なかなか強そうだぞ瑠夏!!」


「い、いやぁああああああああああッッ!!??」



 そこには、モフモフのコスプレ衣装のようなパンダスーツに身を包んだ、あられもない露出多めの瑠夏の姿が映っていたのだった。




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