第4話

「私は、結衣のようにはなれないんだ。……どういうことだか」


次の日の学校の屋上にて。

今日はなんとなく屋上に行きたい気分だったので屋上に来てみた。


「うーん……よくわからん」


昨日結月が言っていた「結衣のようにはなれない」という言葉に関して、考えれば考えるほど分からなくなってきている。


「なぁ、お前、まだ悩んでんのか?」

「なんのこと――って、どうしてここに?」


屋上にやって来たのは綾斗だった。

なぜ俺がいるところに限ってこいつが出てくるか。


「いや別に。ただ、お前の恋愛どうなのかを聞きたくてね」

「なにが恋愛だ。俺はもう、恋愛はしない」

「フラれたから。そんな理由通じないぞ」

「……じゃあ何て言えばいいんだよ?」

「そうだなぁ。いっそのこと、結衣ちゃんの事を好きになったらどうだ!?」

「なっ!?そ、それはダメだ、絶対に!」


どうして俺が結衣の事を好きになるんだ。あっちがむしろ、俺の事が……いやそんなこと、あるか?


「なんでだよ?別に好きになっても良いじゃないか」

「そ、それだと、俺がロリコンみたいになるじゃねぇか!」

「お前、ロリコンじゃないの?」

「全然ちげぇわ!!バカか!」


時間が経つのは早いもので、もう放課後になってしまった。

放課後になっても俺はまだ帰らない理由がある。図書室で調べ物をしてから帰ろうと思ったから。

あるクラスメイトから「ここの図書室に怖い本があるから、それを借りてきてくれないか」と頼まれたことから。

いやお前が取りに行けよと言ったが、「図書室にいる図書委員がいやなんだよ」とかなんとか言って、結局俺が取りに行くことになってしまったのである。

本来だったら昼休みぐらいに取りに行こうと思ったのだが、あいにく昼休みは係りの仕事があり、図書室に行けなかったのである。


「はぁ……なんで俺が」


色々と文句を言いながら図書室へ。


「こんにちはー」


……返事がない。いつもだったらこの図書室には生徒がいるはずなのだが。


「誰もいない?そんなこと……」


こんなもの静かな図書室は初めてだった。

図書室の受け付けを見ても、いつもはそこに図書委員か図書の先生がいるのだが、なぜか今日に限っていない。


「……まあいい。お目当ての本を探して帰ろう」


本を頼んだクラスメイトは、「部活があるから」と言うことだったので、そいつは部活動へ行ってしまった。

だからその本を渡すのは明日になる。


「――ああ、隼人くんじゃない。放課後にどうしたの?」


人が居ないのかと思い図書室を回ろうとしたとき、図書室の奥の方に一人の生徒がいた。


「えっ?あ、ど、どうも。というかこんなところでなにしてるんすか?」

「本の整理かな」


石橋 綾花。俺のひとつ上の先輩。つまり高校二年生である。

委員会は図書委員異に所属しており、部活はバトミントン部。細身な体からは妙な色気を感じる。


「それで……隼人くんは?」

「ああ、俺はちょっとさがしてる本があって」

「ふーんそうなの」

「な、なんですか?」


なぜか綾花先輩は、俺との距離を詰めてくる。


「ねぇ隼人くん。君、付き合ってる人とかいるの?」


げっ、その質問か……。


「え、ええと……い、いないです」

「そうなの?」


綾花先輩は少し驚いたような顔をしている。


「なんで驚いた顔するんですか」

「だって隼人くんってモテそうだなって思ってたんだけど……」

「そ、そうすか。でも、俺には彼女なんかいません」


フラれたけど、な。


「そうなんだ。……分かった、じゃあ誰かにとられる前に私がとっちゃってもいい?」

「先輩、冗談やめてくださいって」

「ふふっ、バレた?」

「バレます」

「そっか、それは残念。でも、今の言葉、いつかは本気になるかもねっ」


最後にちょっと笑いながら意味深な発言をして、本の整理へと戻っていった。

……こんなことしてる場合じゃない、早くお目当ての本を見つけなければ!


「えーと、この段かな?」


一応、そのクラスメイトが言うには「図書室の一番最後の本棚から二番目の本棚」という情報は与えられているので、見つけるのにそれほど苦労しないはずだ。


「この本棚だよな……ここにあるはず」


が、なぜかその本は見つからなかった。

もう一度同じ本棚を見ても無いものは無い。

こういう時に限って、別の本棚とかに移動させられたりするので、一応隣の本棚も見てみた。

そう。ある本を借りたとして、同じところに返すかと言われたら、同じところに返す確率は低いのである。特にここの図書室は。

そういうのを分かっているうえでの捜索。


「ここじゃないのか。じやあ……」


この図書室は、以外と広いのである。なので、探すだけでこんなに苦労するものだと思わなかった。


「ここならあるんじゃないか?」


図書室に入ってから二十分ほどが過ぎていた。

なぜかここの本棚には、お目当ての本がある気がした。


「これか……?」


お目当ての本らしきものは、ひどく埃をかぶり所々折れたりしていて、結構前からある本なんだなというのが分かった。

表紙の埃をさっと手で払うと、大量の埃が飛び交い目の前が少しだけ見えなくなった。

見た目ではそこまで埃は被っていないように見えたのだが、結構な量の埃が被っていたんだなと思った。

さて、クラスメイトから事前に渡されていたメモを見ると、確かにメモに書かれている本のタイトルと、実際に今もっている本のタイトルと一致していた。

この本を借りるため綾花先輩のところへ向かった。


「先輩?ちょっといいですか」

「なに?告白?」

「ち、違いますって。ええと、この本借りたいんですけど」

「はいはい、ちょっと待っててね」


図書室の受付で数分待っていると、綾花先輩がその本と借りた人の名前を記入するカード持ってきた。


「この本、結構汚れてるみたいなんだけど大丈夫?一応、周りに付いてた埃は全部落としたけど……」


確かに埃が落ちたその本は、けっこう黒いシミや何かをこぼしたような跡が付いていた。


「あー、まあ大丈夫ですよ。返却日は借りた日から二週間以内でしたっけ?」

「うん。あ、そう言えば、その本に一ヶ所だけページがくっついているところがあるんだけど、なんでか分かる?」


と、少し声のトーンを落として言ってきた。


「……いや分かんないです」

「その本は分かる通り怖い本なんだけど、結構実話をもとにして作られた話が多いんだ。で、そのくっついているページは、どうやら霊がとりついているとかなんとか」

「霊がとりついている?」

「とりついているというか、そのページを開けちゃうと、そこに書かれている霊が来ちゃうんだって」

「どこからその話を?」

「去年の三年生から」


「――ありがとうございました」


図書室を後にした俺は、このまま家に帰ることにしようと思った。

クラスメイトの家に行ったとしてもまだ部活をしているし、かといって部活中に渡すのも……。

もうひとつの理由としては、単純にこの本を読みたいから。


「またお菓子かなんか買っていこうかな」


言われる前に買っておこうと思い、今日は結衣の好きなお菓子やらを買っていくことにした。もちろん結月にも。











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