第3話
時刻は八時を過ぎたあたり。
今から――と言うより、実際には少し前から、ここ俺の部屋にて、勉強会とかいうやつが開かれていた。
誰が開いたかっていうのは、この金髪少女である結衣である。
高校生の俺にとっては、こんなの、単なるお遊びにしか思えないのだが、勉強会って言っても実際には、勉強なんかやるはずもなくただ遊んで帰ると言うのが普通だと思っていた。というか、昔の俺はそうだった。
ある友人の家に俺を含め三人が勉強道具を持っていって、最初の一時間ぐらいは勉強に取り組んでいたのだが、一人が勉強に飽き、家から持ってきたゲーム機で遊び始めると他のやつらもそれに釣られて遊びだすといったことが起きてしまったのである。
本来の目的である「勉強会」というのはどこにいってしまったのか。
結局のところ、勉強は一時間ほどしかやらず、それ以外の時間を遊びに費やしてしまった結果、宿題は終わらず、次の日には先生に叱られるという事になってしまったのである。
今思うと、しょうもないことをやっていたなと思う。
とそこで、俺の方をじっと見る結衣の視線が気になった。
「え、えーと……」
正直、こうなるとどうしたらいいのか分からない。
俺は、結衣とは仲があまり良くない。俺としては結月と仲良くなりたいけど、結月は……多分、俺の事嫌ってるんじゃないかって思う。
実際聞いたことはないが、俺の勝手な予想である。
「ねぇねぇお兄ちゃん、ここはどうするの?」
とそこへ、さっきまでスラスラ解いていた結衣がこちらによって来た。
「ああ、これはこうして……どうかな?」
「おお!さっすがお兄ちゃん、愛してる!」
「……いいからあっち行けって」
「むぅー……」
逆に結衣の方が、俺に対して好意的である。
「あいつが言っていた通りだな……」
「結衣ちゃんはお前にベタベタしてるもんなぁ。……はぁ」
綾斗が言っていた言葉が頭によぎった時、
「……ね、ねえ、隼人?ここ教えて?」
「……あ、は、はい!」
結月に声をかけられ、少しびっくりしたまま敬語でしゃべってしまった。……いやいいか。
「ええと?これはこうすればどう?」
「あ……なるほど、そう言う風に考えればよかったんだ」
結衣とは違い、結月の方がおとなしい感じがする。
そして表情の変化が少ない。というより、ここに俺がいるから、あまり表情を変えないのだろう。
「もー、分かんなーい!」
さっきとは違い、少々叫びながら俺に助けを求める結衣。
「……ど、どうした?」
「ここ!」
結衣は分からないところを指で指す。
「あーこれね、れは……これでどう?」
「全然分かんない!」
これは参ったな。さっきまではすんなり分かってくれたのに……。
「……じゃあこれ使って解いたらどう?」
「うーん……あっ、そういうことか!」
これはこれで教えがいがあったな。……ちょっと手こずったけど。
「よしっと、これで終わり!ねえ、終わったから一緒に遊んで!」
「ちょ、ちょっと待てって。結月が――」
「私も終わったよ」
「はやっ!」
頭がいいってなんか憧れるわ……結月に関しては、あんまり教えるところがなかったな。
なんというか、これぐらい早く終わらせられれば、時間を有効に使えそうだな。
「じゃあ私は終わったから戻るね」
「えっ?あ……」
結月は勉強が終わったので俺の部屋から出ようとするが、なぜか結衣はそれを阻止しやがった。
「……ちょ結衣ってば。私、終わったんだよ?」
「それは分かるけどさ、どうせならもうちょっと一緒にいようよ!」
「……まったく」
「ははっ……姉妹、だな」
結衣と結月のこの感じ、なんとなく姉妹のように見える。
「そんなこと……ない」
結月の後ろから抱きつく結衣。それをお構いもせず、俺の方をまっすぐ見る。
「私は、結衣のような人にはなれないんだ」
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