セイクリッド・カルテット ~不死身の男の殺し方~

中野砥石

不死身の男編 1

プロローグ 不死身の男の謀略

「これもきてしまいました」


 ニコラス・アレキウスは溜息ためいきいた。

 周りには赤黒い液体が地面に染み込んでいた。ニコラスの足元には肉塊にくかいが赤黒く染まった地面にゴロゴロと転がっていた。

 ニコラスの被っている道化師どうけしの顔をした仮面と手元は飛び散った赤黒い液体が付着していた。

 地面に転がっていた肉塊から漂う鉄臭てつくさにおいが充満するこの空間にニコラスはゆっくりと進む。


 ニコラスは退屈していた


 数百年を超える長い時間を過ごしているニコラスにとって唯一の望みは刺激的な時間を過ごし続ける事。


 狩猟しゅりょう賭博とばく虐殺ぎゃくさつ


 ありとあらゆる、文字通り自身の命をけるような事象じしょうを長い時の中でやってきた。

 不死身という力を存分に利用して危険極きけんきわまりない、けれどとても刺激的で甘美かんびな時間をニコラスはいつもほっしていた。


 しかし、永遠の時間を過ごす事のできるニコラスに見合う数の刺激的な出来事はそう多くなかった。

 すぐに刺激的な出来事に飽きて次の刺激的な出来事へ乗り移るニコラスにはもう今まで以上に刺激的な出来事がなくなってしまった。


 今も小国の人間を全員八つ裂きにして惨殺ざんさつし、一国をとしても、ニコラスの心には何も波風が立たなくなっていた。

 この世にある刺激的な出来事をやり尽くしたニコラスにとって今のこの世は地獄と何ら変わりない。


 だからニコラスは考えた。


 どうしたら今までにない甘美で上質な刺激を得られるのか。

 そして思いついた。

 不死身のニコラス自身を殺す事の出来る役者にんげんを用意する事だ。

 永遠の命がついえるこれ以上ない危険を感じる事で今まで以上の刺激を味わう事ができる。それこそ生きている中で一番の刺激に違いない。


 そう考えたニコラスは早速行動に移した。

 魔の力を宿すニコラスに対抗できる退魔たいまの力を持つものを探し、それを扱う事のできる人材を見つけ、自身にそれを行使するための目的を与える。

 この時、ニコラスは今までに味わった事のない高揚感こうようかん心躍こころおどらせていた。


 そして役者の準備は整った。

 退魔たいまの力を宿す聖女をさらい、退魔の力を宿す武器を所有する血族から退魔の武器を奪い、使いこなす事のできる人物達を陰から操って退魔の力を与えた。

 これであとは役者をおどらせる舞台を用意するだけ。


「さて、これからどうやって役者を集めましょうか」


 被っている仮面の下で歪んだ、それでいて純粋な笑い声を零しながら、ニコラスは役者がそろう舞台に足を運んだ。

 そしてニコラスの準備した役者——若人わこうど四人はニコラスの用意した舞台へ集うのであった。

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