第20話 ゾンビはやっぱ消えてる?
ゾンビが消えた謎を調べるために調査に出ることになった。
全員がマンションを出てマイクロバスに乗り込む。
バスの中から見る町は昨日と全く変わらず、特に何かが暴れていたような形跡もなかった。
「静かですよね。」
真下マネージャーさんがポツリという。
「本当ですね・・」
華江先生が緊張した面持ちで答えた。
「昨日と変らないですね。」
遠藤さんが言う。
みんなが緊張気味に周りを警戒して見ていた。
マイクロバスはマンションから遠ざかっていく。
・・しかしマンションを離れてしばらくすると街は、昨日より荒れた感じがする・・血が付いた車があったり商店のガラスなどが割れている。
「このあたりは昨日よりも荒れてますよね。」
私が言うと皆もそう思ったらしく黙ってうなずいた。
すると華江先生が言った。
「という事はこの辺でまたゾンビが出たか人が動いたという事よね?まだそのあたりに隠れてる人間がいるのかもしれないわ。」
「もしかしたら、家の中に潜んでいるという事ですか?」
遠藤さんが華江先生に聞く。。
「そうかもしれないわ。でもこれだけ外が荒れていると、恐ろしくて外に出る人もそういないわよね。」
「ですが家の中に籠りきって1カ月も暮らし続けるなんて難しいです。」
あずさ先生もそれに答えるように言う。
「たしかに・・遠藤さんのように買いだめが趣味の人が、たくさんいるわけありませんしね。」
私が言うと皆が頷いた。
「そうよね。」
「珍しいわよね・・」
「そういう男の人もいるんだぁって思いました。」
「私・・そういう彼氏理想ですよ。」
「確かに料理と買い物してくれるだけでも助かるわよね。」
「私は洗濯掃除が苦じゃないから、料理だけでも作ってもらえたら本当にうれしいわ。」
女子たちは遠藤さんの評価がだいぶ高いようだ。
《やはり生きる力が強い人はこういう状況では更にモテるのかもしれない。》
私は大学に入るまでも男の人と付き合った事が無いのでよくわからなかったが、買い物や料理が得意な男性はモテるらしい。
道には乗り捨てられた車があるものの特に人やゾンビはいなかった。
マイクロバスは順調にセントラル総合病院に到着する。
止まったのは病院正面玄関前のロータリーだった。
「みんな武器を持ちましょう。」
遠藤さんが言う。
包丁やナイフ、あとマンションで他の部屋にあったステンレス製の靴べらと金槌などを持ってバスを降りる。
「じゃあ行きます!皆さんついてきてください!」
遠藤さんよりも華江先生が先に車を降りた。
「ここは・・開いてないようですね。」
遠藤さんが言うと華江先生が答える。
「ええ。私たちが出てきたのは他のドアよ。」
正面玄関の自動ドアには電気が通っていなかったため脇に回る。
すると救急搬送用のドアが開くようだった。
「入ります。」
「気をつけて!」
「はい・・」
皆が頷いて恐る恐る中に入っていく。
《怖い・・・》
皆がかなり緊張していた。
「怖い・・」
私が里奈ちゃんの手を握ってあげているが震えているようだった。
病院の中は薄暗く静まりかえっていた。
「誰もいないようですね。」
「ええ、助けてもらうまではゾンビが大量に徘徊してたところなんだけど、キレイさっぱり消えちゃったのよ。」
遠藤さんの問いに華江先生が答える。
「静かだ・・」
華江先生の言うとおり病院の中には誰もいなかったようだ。
「ちょっと屋上に上がって見ていいですか?」
遠藤さんが言うと北先生が導いてくれる。
「わかりました行きましょう。階段はこちらです。」
皆で階段を慎重に上がっていく。
病院の階段には窓があって明るく昇りやすかった。
《ホテルの階段より怖さが少なめでよかった・・》
「ここから出れます。」
ガチャン
全員で屋上についた。
10階までゆっくり恐怖をこらえて上がってきたため、皆が変な汗をかいている。
病院は10階建てなので屋上はそこそこ高さがあった。
「ちょっと気になることがあって、望遠鏡で見てみていいですか?」
遠藤さんがそう言って手すりまで歩き天体望遠鏡を設置した。
望遠鏡を覗いてすぐに言う。
「やっぱり!ゾンビだ!」
「えっうそ!」
私が代わってもらい望遠鏡を覗き込む。
《本当だ・・ゆっくり当てもなく歩いている集団がいる・・》
「あれが・・そうなんですか?」
私は初めて見るためゾンビだと言われてもいまいち信じられない。
全員で代わりながらのぞいてみる。
「あれゾンビだね。」
「ええ・・ゾンビね。」
「ゾンビだ。」
あゆみちゃんも、華江先生も、里奈ちゃんも声をそろえてゾンビだという。
すると里奈ちゃんがなにかに気がついたようだった。
「あっ!ちょっとまって!ビルの窓に人がいるよ!」
「えっ!本当ですか?」
里奈ちゃんが言うので遠藤さんが驚いた様子で望遠鏡をのぞく。
「本当だ!人が隠れているようですが・・。」
「どうしましょう。」
「助けないと・・」
華江先生が言った。
「でもゾンビが・・」
里奈ちゃんが怖がっている。
「それでもなんとかしなければ。」
すると遠藤さんが言うのだった。
「とにかくあの女性達の所に行きましょう!」
「でも・・ゾンビがいるわ。」
「そうね、あれを突破してビルにたどり着けるかどうかも分からないわ。」
華江先生と真下さんが言った。
「ですが!せっかく生きている人を見つけたのに・・見捨てる事は出来ません!早くしないとやられてしまう可能性もある!
バスで入り口まで行ってどうにかあの人たちのもとに!何とかなるかもしれません!この病院で武器になるものを探していきましょう!」
遠藤さんは本当に勇気がある。向こう見ずなところもあるけど・・頼もしかった。
「私も!遠藤さんに助けられた身なので、遠藤さんがそうしたいと言うなら協力します。」
私が言うとあゆみちゃんも言う。
「あ、あの!私も行きます!2人より3人の方がいいと思います!」
「あゆみが行くなら私も行く!」
里奈ちゃんが震えながら涙をためて言う。
「里奈・・が行くなら私も行かなければならないわ。」
真下さんが言うと医療関係者の3人も行くという。
病院関係者の3人が武器になりそうなものがある部屋に案内してくれる。
武器を探している時も病院内にゾンビはいなかった。
消火器やメスと院長室にあったゴルフクラブ、硫酸などを入手してマイクロバスに乗り込む。
「じゃあみなさん!いきますよ!」
皆コクリと頷いた。
結局全員で女性たちがいるビルに救出に向かう事になったのだった。
全員でマイクロバスに乗り込んで、ゾンビがいた方向にバスを走らせる。
すると・・異変が起こった・・
それは・・
「さきほどこの辺りにいたゾンビがいませんね。」
遠藤さんが言う。
「本当だわ。ビルの陰にでも隠れたのかしら?」
私が言うと皆が口々にいう。
「あいつらは車の音に寄って来るはずです。」
あゆみちゃんが言った。
「本当にそのとおり。病院内でもやつらは少しの物音に反応して群がってきたわ。」
あずさ先生も音に反応すると推測している。
「おそらくだけど・・バスが近づいた事で、病院で起きたゾンビ消失と同じことがおきてるのかもしれないわね。」
華江先生がある程度の事から結論めいた事を言うのだった。
「ただその原因が二人にあるのかはまだわからないですよね?」
あずさ先生が言うと華江先生が頷く。
さきほど天体望遠鏡で覗いたゾンビがいたはずの道のりには、まったくゾンビがいなかった。
女性たちが隠れているのが見えたビルの正面にあっけなく到達する。
「降りましょう!」
遠藤さんが言うと全員が緊張の面持ちで降りる。さっきはゾンビの群れがいた場所だし無理もなかった。
「危険だわ。慎重にかたまっていきましょう。」
華江先生が言った。
「そうですよね・・さっきは確実にこのあたりにゾンビがいたはず。急に出てきたら逃げられないわ。」
真下さんが冷静にいう。
恐る恐るビルの入り口に行くと、自動ドアが開きっぱなしになっていた。
「みなさんいいですか?入りますよ。」
《本当にゾンビはいなくなったのだろうか?本当はどこかに隠れていて襲われるんじゃない?恐怖で足がすくむんだけど・・》
そんな心配をよそにビルに入っても何もいなかった。
「とにかく上がらなくちゃ!階段を探しましょう!」
エレベーターホールの裏手に階段があったが問題が発生した・・。
そこは電気が切れていて暗かったのだ。
「しまった!懐中電灯を忘れた!」
「そうね・・私のライターならあるけど・・」
マネージャーの真下さんが言う。
「貸してください。」
真下さんが遠藤さんにライターを渡した。
しゅぽ
薄い灯りではあるがなんとか歩けそうだった。
「4階でしたよね。」
「はい」
私が遠藤さんに答える。
ライターの灯りを頼りに階段を上っていく。
全員の息づかいが聞こえる。
相当に恐怖を感じているらしかった。階段の踊り場につくたび角をまがるたびにビクビクしながらすすんでいく。
「熱っち!」
つけっぱなしで来たのでライターが熱をもったらしい・・遠藤さんがライターを落とすとあたりは暗闇になった。
「さ・・さがさないと!」
「ど・・どこ?」
「おちついて!みんな!」
「動かないように。」
ものすごい緊張感だった・・こんなところで襲われたらたまったもんじゃない。
「あった!」
あゆみちゃんが見つけたようだ。
「つけて!」
しゅぽ
すると階段に灯りが生まれどっちに進むのかが分かった。
「熱くなったらとまりましょう。」
あずさ先生が声をかける。
「はい。」
なんとか女性たちがいた4階に着いた。
雑居ビルの4階は飲食店街でお洒落な店が並ぶ。
「西側の部屋でしたよね?」
遠藤さんが聞くと皆が恐怖で声も出せなくなってしまったらしく、ただ頷くだけだった。
「間違いないはずです。」
私が遠藤さんに答える。
「じゃあ行きます。」
お店はどこもガラスが破られていた。その荒廃した感じがより一層恐怖を掻き立てた。
しかし女性達が隠れている部屋につくまでは、まったくゾンビに遭遇することはなかった。
「つきました。」
遠藤さんが言う。
「そのようですね。」
華江先生が答える。
そのお店はお洒落なイタリアンレストランだった。入り口にはチョークで書かれたメニューや、今日のランチというチラシが散乱していた。
中を見ても隠れていた人達は見えない。
「助けに来ました!」
遠藤さんが入り口から大きな声で叫ぶと、奥のほうから4人の女性が駆け出してきた。
4人のうちの1人が自動ドアの手元と1番下にある鍵をあける。
慌てているようで手が震えている。
4人がお店から廊下に飛び出てきて開口一番言った事は・・
「え?橋本里奈!」
「本当だ!橋本里奈だ!」
「え!」
「マジ?」
皆が里奈ちゃんに食いついていた。
まさかこんなところに救出に来るのが、飛ぶ鳥を落とす勢いの新人有名女優だとは思ってなかったみたいだ。
「とにかく!逃げましょう!」
遠藤さんが声をかけると皆が我にかえったようだった。
「あなた方は!?」
女性達の1人が言うと遠藤さんが言う。
「説明は後です!とにかく奴らが来る前に!」
遠藤さんの言葉に皆がひきつった顔で頷いた。
「遠藤さん!なら私の家がいいわ!広いから全員入れるしセキュリティーもしっかりしてるから無事なはず。」
華江先生が言った。
・・それもそうだった。
私たちのマンションの一室には全員は入りきらない。
「それならば一旦、業務用食品スーパーと薬局と服屋とガソリンスタンドによりませんか?」
遠藤さんが冷静に淡々と言う。
《なんでこの人はこういう時に冷静になっちゃうんだろう?そういう性分なのかな?》
それに華江先生と山下さんが答える。
「そうね!わかったわ協力する。」
「これだけの人数の食料を集めるのは大変だわ、業務用スーパーでは手分けしましょう。」
そして通路をもと来た階段へと戻る。
「また・・ここか・・」
「懐中電灯とかあればいいのに・・」
1階まではまたあの暗い階段を降りねはならなかった。
帰りの階段は助けに来た皆それほど怖がっていなかったが、助けた4人はあまりもの恐怖に震えていた。
ビルを出てマイクロバスにたどり着くまでも、結局ゾンビに会う事はなかった。
全員がマイクロバスに乗り込む。
新しい4人もいままで助けてきた人と同じように、髪の毛もごわごわで汗臭さや汚れた臭いがした。
とにかく最初は業務用スーパーに向かう事になった。
「食べ物の確保を優先します!」
遠藤さんが言う。
皆は黙って遠藤さんに従うだけだった。
帰りの道も荒れてはいるがゾンビはいなかった。
バスは順調に走り揺れている。
助け出した4人はあまりもの疲れのためかウトウトし始めた。
助かった安堵感で気が緩んだのかもしれなかった。
バスは車の散乱する道をひたすら業務用スーパーに向かって走っていくのだった。
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