第19話 燃えるゾンビ

人間らしい食事を身ぎれいになり眠って体力を回復した。


狭いリビングに全員が座って一息ついたところで・・


「それじゃあ皆さんの事を聞かせてもらっていいですか?」


遠藤さんが話を促すと皆が自己紹介をし始める。


最初に女医さんから話し出す。


「私はセントラル総合病院で外科をしています。大角華江(おおすみはなえ)といいます。でこちらが・・」


《華江って言うんだ・・華絵先輩と同じ。先輩たち無事かな・・》


私はつい先輩達やなっちゃんの事を考えてしまう。


「私は麻酔科医の北あずさです。」


「私は看護師の牧田奈美恵ともうします。」


すると華江先生が説明し始めた。


「最初は病院のスタッフがもっといたんだけど、病院内に大量にわいてしまったゾンビに一人ずつやられて・・噛まれて発症する前の人間も結構いたんですが・・。」


「噛まれるとか本当にあるんですか?」


「遠藤君本当に会った事ないのね。そう・・あれは間違いなくゾンビよ食べようとしてくるの。」


「そうなんだ・・」


「それで私たち3人は食堂にあったわずかな食糧で3週間切り抜けてきたんだけど、もう限界だったの。そして病院の窓から外を見ていたらマイクロバスが走ってくるのが見えて・・」


私たちのバスを見て慌てて駆け寄ってきたらしい。さらに華江先生が話をつづけるのだった。


「あの?遠藤さん?」


「はい。」


「あなたは男性ですがなんともありませんか?」


「ええ、特には。」


「実はこのウイルスなのですが…。」


「はい…」


「院内の私のラボでわかった結果と病院関係のネットワークで知り得た情報ではありますが…」


「はい。」


「男性は空気感染だけじゃなく噛まれても感染しますが、女性は噛まれないと感染しません。原因はわかっていませんが染色体の問題かもしれません。空気感染はかなり発症率が高く男性は絶滅してしまう可能性がありました。ゾンビになってどんどん増えていく一方で・・噛まれた女性もゾンビになり死んだら全てゾンビになってしまうのです。」


「俺は男なのに感染してないと…」


遠藤さんが考え込んでしまった。


《なるほど・・マイクロバスで華江先生は遠藤さんを見て驚いていたみたいだけど、男性で生きているのは珍しいんだ。近くにゾンビが発症すれば男性は生きているのが難しいのか。とすれば・・唯人君は・・》


華江先生の話は続く。


「そうです。それよりも!」


「は、はい!」


華江先生が凄い事を発見したように声を上げる。


「あともうひとつ先程…とんでもないことが起きたんです。」


「とんでもないこと?」


「ええ。院内に彷徨いていたゾンビが、燃えるようにして消えて無くなったんです…。」


「燃えるように…。」


「そう自分で言っていても信じられないのですが、全部きれいさっぱり消えたんです。」


「きれいさっぱり・・」


「さらに感染してゾンビに変わる前の人達もです。」


「ええっ!?」


「本当に燃えるように…。」


「ゾンビの寿命じゃないですよね?」


「違うと思います。ゾンビは基本朽ちるまでは動き続けると思います。」


「そうなんですね。」


「はい。」


「そこに俺達が来たと。」


「そうなんです。ゾンビがいなくなった病院から出てきたところに、あなた方のマイクロバスがきたんです。」


「偶然でしょうか?」


「わかりません…。」


「華江さん達3人は感染していないのですね?」


「間違いありません。」


マイクロバスが近寄ったらゾンビが消えたってこと?


「えっと・・燃えるようにゾンビが消える?そんなことがあり得るんですか?」


「普通はそんなことあり得ないわ」


華江先生が言うがそれはそうだと思う、人間が・・いやゾンビがいきなり燃えてしまうなんて・・・


「先生の言う事は本当です。それこそ・・燃えるように」


麻酔科医の北あずさ先生も見たらしい。


「燃えるように・・」


私がポツリとつぶやく。


「それは俺達が関係しているって事でしょうか?」


遠藤さんが聞くと、北あずさ先生が言う。


「まったくの無関係という事はなさそうですよね。マイクロバスが来る前は病院の周りにもゾンビはいたはずですし消えましたから。」


看護師の牧田奈美恵さんも言う。


「本当です。病院内にあれほどいたのに・・感染率は本当に高くて、死んだ者は全てああなってししまうんです。それが全て消えるなんて信じられません。」


私がゾンビについて話す。


「実は私は・・ゾンビを見た事が無いんです。」


「「「えっ!」」」


医療従事者の3人が驚く。


「一度も?」


華江先生が信じられない・・という顔で聞いてくる。


「実は俺もなんですよ。」


「そうなんだ!?」


「どうやらそうらしいんですよ。私も聞いた時は驚きました。」


真下マネージャーが併せて話す。彼女と里奈ちゃんは先に話していたのでそれほど驚いてはいない。


真下マネージャーが続けた。


「私と里奈が閉じこもっていたホテルにもたくさんいたはずなんです。それが・・消えてしまっていた。ホテルの窓から見える下にも見えていたんです。それが1階に降りた時には何もいなくなっていました。」


あゆみちゃんが真下さんの話を聞いて、自分が気が付いた事を話す。


「二人に聞いてたんですが、スーパーに行っても薬局に行ってもゾンビも死体も何もなかったって言うんです。」


「本当なの?」


「はい・・そうです。」


遠藤さんが言う。


「街の中にもいないし・・本当にゾンビなんているのかな?と思っていました。」


「そういえば・・ここに来るマイクロバスの外を見ていても全く見かけなかったわね。」


華江先生が言う。


私たちが業務用スーパーに行った時も薬局に行った時も道路上に何もいなかった。それは普通あり得ない事だったんだ。


「やっぱり俺達が何か関係しているのでしょうか?」


「いろいろ調べてみないと分からないわ。」


華江先生が言う。


「調べる?なにをですか?」


すると北あずさ先生が言う。


「華江先生はウイルスや遺伝子の第一人者なんです。」


そうか・・だとすれば・・この異常事態の事もわかるのかな?


「ただ・・私もいくら調べても、まだその要因も何もつかめていないわ。しばらく集中して研究する必要があるのだけれど・・ラボがあの状況では・・」


「皆でどうにかしましょう!」


遠藤さんが励ますように言った。


しかし・・いったいどうすれば・・



皆で話をしていたが、救出した人たちの体力が限界のようだった。


「皆さんは、もう睡眠をとった方がいいと思います。」


遠藤さんが言うと華江先生が言う。


「そうね・・脳が疲労してまともな事が考えられなくなりそうだわ。」


「狭いと思いますが台所も使えば何とかこの人数でも寝れると思います。俺が台所で寝ますので今日救出された方は部屋を使ってください。」


遠藤さんが言うのに合わせて私も提案する。


「私も台所の床に寝ます。いつも十分休めてますので皆さんはお部屋で休養を取ってください。」


するとあゆみちゃんも私と同意見のようだった。


「あの、私も十分に休ませてもらいましたから、皆さんでお部屋を使った方がいいと思います。」


「そんな・・悪いわ。」


華江先生が言うと真下さんも申し訳なさそうに言う。


「里奈はそうさせてほしいけど、私は大丈夫ですよ。」


「いやいや俺は本当に台所で十分です。皆は本当に疲れを取った方がいいと思いますよ。」



遠藤さんが言うと少しみんなが黙った後でぽつりと華江先生が言う。


「わかりました、それではお言葉に甘えさせていただくわ。皆さんもそうさせていただきましょう。真下さんと里奈ちゃんがベッドをお借りしてはいかが?北さんと牧田さんはお布団をお借りしたら?私はソファーを使わせてもらいます。」


「はいじゃあそう言う事でお願いします。」


遠藤さんがそれを確定させるように決定した。


「ありがとうございます・・」

「それではお言葉に甘えてそうさせていただきます。」

「皆さんもお疲れでしょうに・・すみません。」


それぞれからお礼の言葉が返って来た。


「じゃあ俺はこっちで。」


電気が来ているので部屋のエアコンをかけて台所も温めるようにした。


遠藤さんが毛布を1枚だけ持って台所に出ていく、それに私とあゆみちゃんが付いて行く。


狭い台所で3人で横になった。


「ごめんね、毛布1枚を3人でかけるようになるけど・・」


「休めるだけで十分。」


私が言うとあゆみちゃんが笑って言う。


「3人で寝る方が安心です。」


皆で遠藤さんの部屋に雑魚寝した。


男の人の隣に眠るのに慣れてしまっている自分がいた。緊急時でそれどころじゃなくなったというのも大きいと思うが、遠藤さんはどう考えているんだろうか?


部屋に勝手に転がり込んできて申し訳ないような気もするのだった。


しかし・・昼間の緊張と疲れであっというまに眠りに落ちてしまった。



朝になり台所に寝ていた私たち3人が部屋に戻ると華江先生はすでに起きていた。さらに私たちが部屋に入った音で真下さんと北先生、牧田さんが起きる。


「すみません・・音を立てちゃいましたか?」


遠藤さんが申し訳なさそうに皆に言う。


「いえいえ。十分休みましたよ。」


真下さんが言う。橋本里奈ちゃんだけが相当疲れていたのかまったく起きる気配がない。芸能活動だけでも疲れていたと思うが、こんなことになり相当な疲労がたまっていたのだろう。熟睡しているようだった。


皆が起きて座っている。


昨日は疲れすぎて気にしていなかったが、皆がTシャツやシャツを1枚羽織っただけなので・・気になってしまう。


遠藤さんが台所に行く。


昨日のうちに炊飯器のタイマーをセットして、朝にご飯が炊きあがるようにしてくれていたらしい。全員のおにぎりを作ってくれるようだった。


「栞ちゃん。缶詰開けてもらえる?」


「はい。」


私は遠藤さんに言われ、牛のしぐれ肉の缶詰を開けて皿に取り出した。


「ありがとう。」


遠藤さんはそのしぐれ肉をおにぎりに詰めて海苔でくるんでいく。


「じゃあ飲み物を用意しますね。」


私は紙コップを並べてペットボトルの天然水を注いでいく。


あゆみちゃんが出来上がった物からトレーに乗せて部屋に運び込む。


「お待たせしました。」


あゆみちゃんが言うと皆がそれぞれに頭を下げて礼を言う。


「いただきます。」


「どうぞどうぞ!」


昨日の夕食と同じように、全員が無言であっというまに食べ終わったのだった。


「こんな粗食ですみません。」


遠藤さんが申し訳なさそうに言うと、


「いえ十分すぎます。いままでを考えるとやっと生き返ったという感じがしますよ。」


「私たちも料理屋さんに立てこもっていたのにビルの電源を切られて食料がダメになっていって・・本当にありがたいです。」


華江先生と真下さんが話す。皆がだまってうんうん頷いていた。



皆が落ち着いたところで遠藤さんが話し始める。


「それで、今日なんですがいろいろ調査に動きたいと思ってるんです。」


「私も賛成です。ではラボもありますし私たちのセントラル総合病院に行きませんか?」


遠藤さんが言うと華江先生が賛同した。


「では病院に行きましょう。」


遠藤さんが言うが・・


「もう動くんですか?」


里奈ちゃんが怯えたように言う。それもそうだ・・昨日まで命が尽きる恐怖とゾンビによって脅かされ続けていたのだ。さすがに疲れて動けないかもしれない。


すると遠藤さんがそれを聞いて言う。


「そうだと思います。疲れてますよね!俺は行きますがここに残って待つ人を決めますか?」


「当然私は行きます。」


華江先生が間髪入れずに行くという。強いメンタルをもっている人だ・・心強い。


「私も行きます。役に立つ薬品などを取ってきたいので。」


北あずさ先生が併せて言うと、牧田奈美恵さんも付いて行くらしい。


「私も行きます。」


私は遠藤さんと行動し続けてきたのだが、この人のそばが安全な気がするのでついて行く事に決める。


「えっと・・この部屋に残るのは、真下さんと里奈ちゃんとあゆみちゃんで良いのかな?」


「あの・・私もだいぶ体力が回復したので役に立ちたいです。行きます!」


あゆみちゃんも行く事となった。すると里奈ちゃんが慌てて言う。


「えっと!私もいきます!」


真下さんが補足するように話す。


「そうね里奈。皆が出かけたらここがどんなことになるか分からないし、帰ってこなくなる可能性もあるから、行動は一緒にした方がいいと思う。」


「わかりました。では・・全員で行く事にしましょう。」


遠藤さんが言うと皆が頷いた。


「では皆でマイクロバスに向かいましょう。」


遠藤さんは早速行こうと言うのだが、私は気が付いた事を言う。


「ただですね・・!あの・・昨日、皆さんの服を洗ったんですが、まだ乾いてないんです・・」


「あ、だとパジャマとジャージで動くことになりますよね・・。」


「せめて下着や上着を着て行った方がいいかと思うのですが・」


遠藤さんは私から話を聞いてやっと気が付いたようだった。少し顔を赤くしてうんうんと頷いていた。この人は・・肝心なところで鈍感だった。


「このマンションには1階にコインランドリーがありますので、服を乾燥をさせてから行きませんか?」


私が提案する。


「まあノーブラでも私はそれほど気にはなりませんが・・そうしましょう。」


華江先生が同意してくれる。


「あの・・俺ちょっと必要な物というか、持っていきたいものがあるんです。」


「なんでしょうか?」


「このマンションを探索した時に4階の部屋にあった天体望遠鏡です。」


「わかりました。誰と取りに行きますか?」


真下さんが聞いてくる。


「じゃあ、遠藤さんと私でコインランドリーと4階のあの部屋をまわりましょうか?」


「じゃあ私も行く!」


あゆみちゃんが私と遠藤さんについてきてくれるらしい。


「じゃあちょっと4階の部屋にあった天体望遠鏡をとってきます。乾燥機をかけて服を着たらセントラル総合病院に向かいましょう。」


「それで行きましょう。」


皆がうなずいた。

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