第21話 ゾンビ世界でショッピングを
救出した人も含め全員で業務スーパーの駐車場に到着した。
「前より荒れてませんね」
「人々がスーパーや薬局は危険と分かっているので、もう誰も来ないんじゃないでしょうか?」
スーパーや薬局にゾンビが人間を待ち伏せする話は、あゆみちゃんしか知らないので一通りみんなに説明してくれた。
「あゆみさんの言う通りなら業務用スーパーの中には、ゾンビが潜んでいる可能性があるってことよね。」
華江先生が言う。
「そのはずです。でも私が遠藤さんと栞さんから聞いた話では、ゾンビは一切いなかったらしいんです。」
あゆみちゃんが答えるが、みんな不安そうに顔を見合わせる。
「危険なのでは・・」
「本当に大丈夫でしょうか・・」
「ゾンビがいたら逃げられないんじゃないですか?」
新しく助けた人たちが口々に言う。たしかに保証はない・・
「すみません。ただ・・私も遠藤さんも一度もゾンビに会った事がないんです。」
「本当なんですよ。このスーパーにもゾンビはいなかったんです。」
私と遠藤さんが言う。私と遠藤さんは近くでゾンビを見た事がないため、緊張感に欠けているだけなのかもしれない・・
「私達の病院に来た時もゾンビが燃えていなくなっちゃったの。だからここでも同じ現象が起きている可能性もあるわ。」
華江先生が言う。
「もしかしたら、さっきのようにゾンビが消えてるかも知れないですよね?」
あずさ先生も重ねて言う。
すると不安に満ちた顔でみんなが頷いた。
「それでも油断は禁物よ。みなさん注意を怠らないようにしましょう。」
華江先生が皆に釘をさす。
業務用スーパーの自動ドアはまだ電源が通っていて普通に開いた。
「ここはまだ電気が生きてるみたい。」
真下さんが言う。
みんな適当な武器を握りしめてスーパーに入っていく。
中に入ると前と同じように電気がつけっぱなしだった。
ずっとつけっぱなしだったからか、一部が切れかかってパチパチしているところもあった。それがみんなの恐怖を掻き立てていく。
全員でカートを押す。
みんな恐怖で震え一人ではまともに歩けなそうだったが、堪えて皆で固まり中に入っていく。
「冷凍庫が生きててくれてます!」
遠藤さんが言うと皆が集まってくる。
「まだ肉の種類によっては食べられそうね。牛肉なら冷凍で1ヶ月は持つと思うから消費期限を見ながら持っていきましょう。少しぐらい切れてても食べれるはず。」
真下さんが言う。すると里奈ちゃんとあゆみちゃんが肉の日付を見始めた。
「ただ・・私の家の冷蔵庫にはこんなには入らないわよ。」
華江先生が言う。すると遠藤さんが提案をする。
「じゃあ家電量販店も行きませんか?」
「うん?ああなるほど・・冷凍庫を確保するのね?」
「これだけ人数がいればなんとか運べると思います。」
「ではそうしましょう。」
「じゃあ冷凍ものは冷凍庫を回収した後で取りにきませんか?」
奈美恵さんが言う。
「私もその方がいいと思います。溶けて食べられなくなったら悲しいわ。」
真下さんが奈美恵さんの意見に同意した。
「じゃあ念のため冷凍が必要な物以外は、今持っていった方がいいんじゃないかしら?」
華江先生が提案する。
「俺もその方がいいと思います。この人数の食料となればかなり大量ですし、いま持っていける物は持っていきましょう。」
米、パスタ、乾麺、粉もの、乾物、お菓子、缶詰、水、ジュース、
お酒、レトルトパック、袋ラーメン、カップラーメン、コーヒー、ココア、
砂糖、塩、醤油、ソース、調味料、ハンドソープやシャンプー、
割りばしからマグカップや皿まで、棚にあるだけどんどんカートに乗せていく。
カートは15台ほどになった。
全員で駐車場のマイクロバスに全て運び込んだ。
「結構な量になりましたね。」
車を運転しながら遠藤さんが隣に座った華江先生に話しかける。遠藤さんはどうやら物資が大量でテンションが上がっているみたいだ。
「ええ。マイクロバスで良かったわ。」
「本当ですね!真下さん!このバスは軽油ですか?」
「だと思います。」
真下さんが答える。
「じゃあガソリンスタンドに軽油もつめに行きましょう。」
「そうしましょう。」
「その前に薬局に行って必要な物を大量に入手しましょう。」
「では薬局に。」
テンションの上がった遠藤さんが運転するマイクロバスは、ひとまず薬局チェーン店に向かうのだった。
薬局の駐車場についたが、ここも特に荒れてる形跡はないようだった。
「前に来た時と変ってない・・」
「本当ですね。」
遠藤さんがつぶやいて私が答える。
「もう人間が来ることはないからでしょうか?」
「どうなんでしょう・・」
「前と同じなら、たぶん裏からじゃないと入れないですよね?」
「だと思います。」
また12人でぞろぞろと薬局に入るがやはり中にゾンビはいなかった。
みんなで必要な物をかき集めていく。
「生理帯やトイレットペーパー、ティッシュ、絆創膏、傷薬、化粧水やクレンジングなど皆さんが必要だと思うもの集めましょう!」
私が一度取りに来た経験から皆に伝える。
化粧品やローションなどはそれぞれの肌に合うあわないがあるので、それぞれが自分の好きな物を選んでいく。
それをみんなで駐車場のマイクロバスまで、つぎつぎと運び込んでいくのだった。
ダンボールで入手したものもあって結構かさばる。
「ゾンビはこないようです。」
遠藤さんが言うと皆がホッとする。
マイクロバスの後ろ座席が物でいっぱいになり、全員が真ん中より前に座った。
「えっとガソリンスタンドに行く前に、服屋さんに向かいましょう。」
遠藤さんが楽しそうに言う。
「今つめていかないの?」
華江先生が言う。
「まだ半分以上あるようなので、最後でも大丈夫だと思います。」
「わかったわ。」
《遠藤さんは本当に買い物が好きな人なんだな・・お金を払わないでどんどん入手できるのが楽しそう・・》
マイクロバスは洋服などのショップがある繁華街に向かうのだった。
バスは繁華街にあるルマネ百貨店に到着した。
おしゃれな服や下着なども売っている百貨店で、私もよく利用したことがある。
「ここ・・ゾンビいますかね?」
私が遠藤さんに聞く。《・・・わかるはずないだろうけど・・・》
「まだゾンビを直接見た事がないからよくわからないけど、いないような気はしてる。」
「私もそんな感じがするけど油断は禁物よ。」
華江先生が念を押すように言う。
「ですよね・・せっかくここまで来ていきなり襲われるとか嫌ですもんね。」
あずさ先生が神妙な顔で言う。
「そもそも人々がこんな状況で贅沢品を取りに来ること自体あり得ない気もします。きっとここにはゾンビは集まらないんじゃないでしょうか?」
「私たちも服を選びたいですし行ってみましょう。もうドロドロの服を着続けるのは厳しい。」
助けたばかりの女性が言う。
「それもそうですね。」
真下さんが賛成した。
「わかりました。とにかく俺が先に行きますのでついてきてください。皆さんの服を確保しましょう。」
遠藤さんが言うと皆が頷く。
ルマネ百貨店はおしゃれな服が売っているビルだった。
百貨店に近づいて行くといきなりショーウィンドウが割れていた。
全員に緊張が走る。
「割れてますけど、大丈夫でしょうか?」
「どうでしょう。でもここから入れそうですし気配もなさそうなので入って見ませんか?」
結局遠藤さんの後ろについて、皆が割れたショーウインドウから中に入っていく。
マネキンが無表情で立っている・・
「マネキンが・・怖いです。」
私が言うと、牧田奈美恵さんも同意する。
「本当にギョっとしちゃう。」
「バラバラに動くのは危険ですよね?」
遠藤さんが言う。
「じゃあ里奈ちゃん達の服を、先に全員で見に行ったらいいんじゃないでしょうか?」
「ああじゃあそうしましょう。あなた達どこに行きたい?」
私が里奈ちゃんに聞くと少し考えて答えた。
「3階のグリーンコンチに行きたい。」
「グリコン私も行きたい!」
「あとブラックバイマウス」
「それも行きたい!!」
里奈ちゃんとあゆみちゃんはいきたい店があるそうだ。実は私が行きたいショップのドレイブレもその階にある。
「よし!じゃあそこに行きましょう。」
百貨店の店内は小さい窓から入る光のみなので薄暗い。
「やっぱり中は薄暗いですね・・」
「でも、かろうじて誘導灯や窓からのかすかな明かりがあるから歩けます。」
「どこかに電源はないのかしら?」
「避難用の誘導灯が付いていたので、お店のバックヤードに入れば電気を付けれると思います。」
遠藤さん、真下さん、華江先生に続いて私が言う。
「じゃあとにかく、二人のお目当てのお洋服屋さんに行きましょう。」
3階まで恐る恐る階段で昇っていく。
さっきまで階段の壁にあった小窓がなくなり、お店側の方はもっと暗くなっていた。
「あの・・携帯のライトがあります。」
助けた女性の携帯のバッテリーがあったらしく、ライトをつけてフロアを進んでいく。
「意外に明るいですね!」
「どうにか電源を探せそうです。」
「あの・・お店はここです。」
里奈ちゃんが言う。
グリーンコンチネンタルという看板があった。確かにおしゃれそうな店だが暗くて中がはっきり見えない。
「じゃあ・・遠藤さん一緒にバックヤードまで来てもらってもいいですか?」
「わかりました。」
携帯のライトを借りた私の後ろを遠藤さんが付いてくる。その後ろからみんながぞろぞろとついてきた。
私が恐怖で震える手で・・バックヤードのドアを開くと中はさらに真っ暗だった。
携帯のライトで照らしてもらうとつきあたりに電源を見つけた。
ガチャ
扉を開くとそこに、黒い電源スイッチが並んでいる。
パチパチパチパチパチパチ
6個あったスイッチを全部入れると、店内の天井にあるスポットが全部ついた。
「ついた!」
「明るくなりました!」
店内でじっと通路を警戒していたあゆみちゃんと助けた女性の1人が言う。
ひとつの店舗の明かりがついた事で周辺の店も見渡せるようになった。
通路の奥の店はまだ薄暗い。
「どうやらゾンビは一体もいないようです。」
遠藤さんが言うと皆がホッとした顔をした。
「この服屋さんで見たい人は見ててください!俺は向かいの店の電源もつけてきます!」
「里奈!一緒に服みよう。」
「うん一緒に選ぼう!」
里奈ちゃんとあゆみちゃんが服を見始めると遠藤さんが振り返って言う。
「気に入ったやつを全部持って行っていいと思うよ。」
「え・・それは良心がひけるというか・・」
あゆみちゃんが言うが遠藤さんが続けて言う。
「業務スーパーや薬局でも大量に物を持ってきたんだし、この際もう気にしなくてもいいと思うよ。」
遠藤さんの言うとおりだ・・いまさら気にすることはなさそうだ・・
なんだかその言葉で12人の女性のテンションが上がった気がした。やはり女性は新しい服をみるとテンションが上がるようだった。
「まずはゆっくり選ぶといいわ。」
真下さんが里奈ちゃんに向かって言う。
そして・・助けた女性たちと奈美恵さんも服を見始めた。
「ここ・・私の趣味じゃないわ。」
「先生私もです。」
どうやらこの店には、大人の華江先生とあずささんには気に入った物はなさそうだった。
「じゃ俺は次の店の電源つけに行きます!」
「私も付いて行きます!」
「じゃあ念のため私もいくわ。」
遠藤さんと私そして華江先生が他の店の電気をつけて回る事になったのだった。
3Fフロアの服屋さんでは里奈ちゃんとあゆみちゃん、私、奈美恵さん、助けた女性のうちの2人が好きなだけ洋服を確保していた。
お店の大きい紙袋に詰められるだけ詰めて一人3袋くらいずつ持っている。
次は華江先生、北あずさ先生、真下さん、助けた二人の女性が好きそうなお店が2階にあるという事でそちらに向かった。2階はブランドショップが立ち並ぶ。
「遠藤さん。また電気をつけますのでお願いします。」
「わかりました。栞ちゃんたちの荷物はいったんここに置きましょう。」
そして女の子たちの袋をフロアの廊下に置く。
皆でお店の電気をつけ始める。するとある事に気が付く。
「二階って確か駅にも出れたんですよね?」
すると駅に向かう自動ドアが見えてくる。
「え?ゾンビ大丈夫ですかね?」
遠藤さんが言うので駅の方を一緒に見にいく事にする。自動ドアの扉の内側から駅の通路を見るが誰もいない・・
「やはり何もいないみたいですね。」
遠藤さんが言う。
「じゃあ続けて服を回収しましょう。」
皆で服を探し始めた。
この階には私の好きな石鹸も売っていたので、そこに行って石鹸を数個ゲットした。
やはり華江先生とあずさ先生、真下さんは大人っぽい服が好きなようだった。
《まあ・・大人だもんな。》
しかし・・女性はファッションや美容が好きなんだと思う。好きなだけ持って行っていいとなると欲が出たようで自分の好みの服を、紙袋にパンパンに詰め込んでいくのだった。
一通り服を入手したみんなは満足そうな顔で集まってくる。
「じゃあ・・そろそろ行きましょうか?」
華江先生が言うので、私がストップする。
「あの服もそうですが下着も入手しませんか?」
「あ、そうだったわね。むしろそちらの方が大事だったかもしれないわ。」
華江先生が納得する。
「じゃあ・・俺はこの階で待ってますから。」
「ダメ!」
「一緒に来てください。」
「遠藤さんがいないと不安です。」
遠藤さんが下着と聞いて恥ずかしがって、行くのを遠慮すると皆がついてくるように言う。
なんだかんだと遠藤さんがいないと皆不安なのだった。
遠藤さんが先に行く。
下着ショップがあるフロアにつく。下着ショップの電気と次々と点けていくと、遠藤さんはどこかばつが悪そうにしていた。
「これも可愛い。」
「これもいい。」
「ブラはこれでちょうどいい」
皆が選び始めるが遠藤さんが困っているようなので私が言う。
「あの下着ならかさばらないので、袋に詰められるだけ詰めて持ち帰ってから選びませんか?」
「それもそうよね。」
華江先生が同意してくれた。
皆もそれもそうだという顔になり、急いで大きな袋にブラやパンティを詰め込み始める。後は肌着だった汗を吸う肌着はいくらあっても困らないはず。
「生理が来た時のガードルもいると思います。」
「ボディスーツももらっていいかしら」
「紐パンとか持って行ってもいいものだろうか?」
「高いレースの下着セットは全て詰め込んじゃいましょう」
・・・本当にゾンビの世界なのだろうか?みんなショッピングを楽しんでいるようにさえ見えてくる。
しかし・・それでいいのだと思う。
ゾンビの世界だから暗く落ち込んでいなければいけないなどという事はない。こんな時だからこそ楽しんでいいと思う。私もあまり考えすぎずに楽しんで下着を詰め込んでいく。
「だいぶ袋がいっぱいになったみたいですね。」
私が言うと真下さんが答える。
「さすがに十分じゃないかしら?」
「でしたら・・最後に遠藤さんの服を見に行きましょう。」
「賛成!」
「そうしましょう!」
皆が賛成する。
「いや・・俺は今家にあるので十分ですよ。」
遠藤さんは遠慮していた。
「遠藤さん!ダメですよ。私たちがこんなに楽しんで遠藤さんが何もないなんてダメです。」
私がいうと皆がそうだそうだという。
全員でメンズファッションフロアへ向かった。
メンズファッションフロアにもおしゃれな服がたくさん合った。
遠藤さんにあいそうなカジュアルな服屋さんに入りみんなで選んであげる。
そして次にちょっとモード系のお店にいきコートを見つけてそれを羽織らせてみる。衣装に着られているようだったが、なかなかカッコよかったのでみんなでそれを持っていくように薦める。
結局のところ、遠藤さんも2袋ほどの大きな袋に大量に服を詰めて百貨店を出ることになったのだった。
百貨店の外に出てもゾンビはどこにもいなかった。
「やはりゾンビはいないようね。でも急いで行きましょう。」
「はい!」
皆が急いでマイクロバスに乗り込む。
マイクロバスの中は食べ物と日用品と服でいっぱいになる。
「けっこういいお洋服あったわね。」
華江先生がいうと皆が満足そうにうなずいた。
「私の着たい服もありました。」
あゆみちゃんが嬉しそうに言う。
「里奈はどうだったの?」
「結構掘り出し物があったよ!いい感じのデザインのがあったし、着回しが出来るように結構回収して来ちゃった。」
「お互いの服を交換してコーデしようよ!」
「いいよ!ありだよね!同じ店で買ってるからコーデしやすいしさ!」
それを聞いていた大人たちも、若い子たちの意見を取り入れ服をシェアすることにしたらしかった。
私も・・着たい服がたくさん着れそうなのでいい案だと思った。
こころなしか遠藤さんの横顔もうれしそうなのがうれしかった。
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