第18話 女医と女優とマネージャー

ホテルで助けた里奈ちゃんのマネージャー真下さんからの提案でロケバスに乗り換える事になった。


この軽自動車に5人乗るのは心もとなかったからだ。


「そこを左です。」


「はい。」


「あの駐車場です!」


「はい。」


誘導されるままに遠藤さんが軽自動車を走らせる。


「あれです。」


真下さんが指さす先に、15人ほど乗れそうなマイクロバスがあった。


「スタッフがきちんと停めてくれていたようです。」


「壊されてもいないみたいですね。」


遠藤さんが車から降りてマイクロバスの周りを見て回る。


「よし。」


マイクロバスの隣に軽自動車を駐車して一応鍵をかけた。


「平和な世の中になったら、自分の車を取りに来なければいけないですからね。」


・・それもそうだ。


「じゃあ乗り込みましょう。」


「ロケバスの鍵はこれです。」


真下さんからマイクロバスの鍵を預かってドアを開ける。


遠藤さんが運転席に行くので私は左隣に座る。


皆も離れずに全員が前の方に座った。



チュチュチュチュブーン



放置していた割にエンジンは普通にかかったみたいだった。



「じゃあ出発します。一応シートベルトを締めておいてください。」


それぞれがシートベルトを締める。


真下さんが遠藤さんの後ろに乗って、その後ろの席にあゆみちゃんと里奈ちゃんが一緒に座った。


ピーピーピーピー


バックをし始めると音が鳴った。


「この音を聞きつけて何も来ないと良いけど・・」


真下さんがポツリとつぶやくと全員が緊張した面持ちになる。



バックが終わるまで何かが近寄って来ることは無かった。


「とにかく私たちのマンションに向かった方がいいよね?」


「そうだな・・あそこには食料もあるし電気も通ってる。」


「えっ?食料・・」


真下さんが遠藤さんに聞いてくる。


「そうです。」


「私たち・・この4日くらい・・ほとんど水しか飲んでないんです。」


「えっ!では急いで家に戻りましょう!」


道路に出て走り出すがロケバスは大きくて、さすがに道路に乱雑に停めてある車を全てよけきれない。


「あの・・真下さん」


「なんでしょうか?」


「ここからの道路には車が乱雑に停めてあるんです。」


「はい。」


「おそらくぶつけて広げないと通れない道があると思います。」


「ああ!容赦なくぶつけてくださってかまわないですよ。」


「それを聞いて安心しました。」


そして狭くて通れないところは、マイクロバスで車を押し動かしながら進んだ。


「っていうか、ゾンビも人も全然いなくないですか?」


橋本里奈ちゃんが言った。するとあゆみちゃんが言う。


「確かにいないんだよね…でも私はゾンビたくさん見たんだよ!」


「私達も最上階のふきぬけから下をみたらゾンビらしきものを見ました。外にもいたと思うのですが・・あっというまにいなくなったように思います。」


瞳さんが言う。


「そうなんですね・・俺は実際は一度も見てないんです。」


「あの・・私も…」


「えっ?一度も?」


里奈ちゃんも驚いている。


「そうなんです・・」


俺が言うと、瞳さんは信じられないといった表情をしていた。


「そうなんですか・・一度も・・」


その後もマイクロバスは車を押しながら、避けれるところは車をさけて道路を進んでいく。


少し見通しの良い道路に出てスピードを上げ始めた時だった。


「うわ!」


遠藤さんが声を出した。


前を見ると車の前に人が飛び出してきていた。


キキー!


「えっ!!」


「きゃぁぁ!」


遠藤さんが咄嗟に急ブレーキを踏んで停まった。


「えっゾンビ?」


橋本里奈ちゃんが言う。


「え・・まずくない!?」


私が言うと、あゆみちゃんがいう。


「逃げましょう!!」


すると真下さんが言う。


「ちょっと!まって!!」



女の人が近づいてきて叫んでいるようだった。


「助けてください!」


女性だった・・白衣を着ていて・・どうやら医療関係者のようだ。


「えっと助けますね!」


「ゾンビじゃないと思うわ!」


「早く!」


プシュー


遠藤さんがマイクロバスの自動ドアを開けて女の人を入れた。 


一瞬私たちはあっけにとられたが、その人が乗り込んで来て話しかけてくる。


「私はあのセントラル総合病院で働く女医です!助けて・・」


女医さんは一旦言葉を切った・・次に言ったのは・・


「というかどうして男性がいるの??」


女医さんは遠藤さんを見て驚愕の表情を浮かべた。


「えっ?」


遠藤さんがビックリしている。


男性だとなんだというのだろうか?


私は彼女が何に驚いているのか分からなかった。


それを不思議に思う間もなく矢継ぎ早に女医さんが叫ぶ。


「とにかく!あの病院にあと2人取り残されています!助けてください!」


美人だ・・30歳くらいの女医さんだった。


「病院から誰か走ってくる!」


私が言うと皆がロケバスの前を見る。


むこうから2人の女性が走ってきていた。


「あれは私の病院での仲間です!やっと生きている人間に会えたんです!助けてください!」


「も!もちろんです!」


「とにかく乗せましょう!」


真下さんが二人を乗せるように言う。


二人をバスに乗せると女医さんが叫ぶ。


「は・・はやくドアを閉めてください!」


凄く慌てていた。周りにはゾンビも何もいないというのに・・


「行きます!」


遠藤さんがまたマイクロバスを走らせるのだった。



女優の橋本里奈を助けた高級高層ホテルから帰る途中で医療関係者を助けた。


そしてようやく自分たちの町に戻って来た。




町が荒れている・・出かけた時より町が荒れ果ているみたいだ・・


「遠藤さん・・」


「ああ、栞ちゃん。出かけた時より町が荒れている。」


私たち二人の会話を聞いて全員に緊張が走るのだった。


ところが・・


人にもゾンビにも全く会うことなくマンションの前まで来た。


しかし・・!


「遠藤さん1階の不動産のガラスが割れてる!」


「本当だ・・」


ロケバスの中からマンションを見ると不動産会社のガラスが割れていた。


「でも誰もいないみたいです。」


「ゾンビでしょうか?」


「わかりません。」


「俺、ちょっと見てきます!ドアを閉めて!」


遠藤さんはドアを開けて外に飛び出し一人で不動産会社の前にいく。


この人・・すっごく勇気があるのか・・馬鹿なのか・・いずれにせよ凄い。


「大丈夫だ・・中には誰もいないみたいだ!」


たぶん遠藤さんも私もゾンビに会ったことが無いので、だんだんと麻痺してきているのかもしれない。


「いやいや!遠藤さん・・いきなり一人で降りるのは危険ですよ。」


女医さんが言う。


「あ・・すみません。それほど危険は無いと思って・・」


遠藤さんが調べてくれたので、全員バスを降りて不動産屋の中を覗くが誰もいなかった。


私は初めてゾンビを見てしまうのかと緊張していたが見る事はなかった。


「この不動産の入り口は表側だけだから、マンションの中には誰も入ってないと思います!」


遠藤さんが皆を安心させるように言う。


《しかし・・なぜこんなに荒れているんだろう?》


全員かなり慎重にマンションに入っていくのだった。


出て行った時は3人だったが今は8人になったため安心感が増した。


恐らく暴徒が来たらひとたまりもないのだろうけど・・


1階のオートロックは問題なく開いた。


「あの、念のため階段で行きます。エレベーターが止まったら閉じ込められてしまいますので。」


遠藤さんが言うとみんなが頷く。


マンション内は全室無人なのを確認しているので安心して歩ける。


新しく加わった人たちはそれを知らないので恐怖で顔が引きつっていた。


「あの・・マンション内は安全が確認できていますので大丈夫ですよ。」


私が言うがみんなの緊張は解けないみたいだった。


遠藤さんの部屋の鍵を空け全員で入った。


「お・・おじゃまします。」


「すみません。」


「失礼します」


・・私は一緒に女優の橋本里奈がいるのが不思議でしょうがない。


医療関係者の皆も気が付いているみたいだが特に声をかけなかった。


《そして分かっていた事ではあったけど・・》


ワンルームには8人は多くて、ぎゅうぎゅう詰めだった。


「すみませんいったんそのあたりに座ってください。」


遠藤さんが言うのでそれぞれに座る。皆が部屋の真ん中を見るように座った。



「飯を作りますのでちょっと待っててください。」


遠藤さんがキッチンに向かう。



座り込む人はみな疲れ果てていた。


「あなた達はここに隠れていたの?」


女医さんが私に聞いてくる。


「はい・・最初は私と遠藤さんが二人で、あゆみちゃんが途中から。 」


「あの、お二人はお付き合いをしているのですか?」


真下さんが聞いてきた。私と遠藤さんの事を聞いているのだろう。


「ちがいます・・私達はたまたま隣に住んでいました。」


「力を合わせて何とか切り抜けていたわけね。」


女医さんが納得したようだった。


真中さんも感心している様子だ。


「料理は彼が?」


「はい、料理が趣味らしく彼がいつもしてくれます。」


「なんだか・・普通に文明的な生活をしていたみたいで驚きだわ。」


皆がうんうんと頷いている。


しばらくすると


8人分の牛肉を塩コショウしオーブンでチンした物と、ご飯の付け合わせに冷凍野菜のほうれん草へ醤油をかけたおひたしが出来上がった。


凄くおいしそうな匂いがした。


私とあゆみちゃんが運ぶのを手伝う。


「普通に・・料理が・・」


「本当に」


「う・うう・・」


女医さんが驚き病院から出てきた女性が感動している。橋本里奈ちゃんに至っては泣いていた。


「どうぞ食べてください。」


遠藤さんが言うと皆が一心不乱に食べ始めた。



とにかく全員が黙々と食べていた。


「そろそろ食べ終わったみたいなのでちょっと待っててください。」


「あ、私手伝う。」


私は遠藤さんが何かを用意するようだったので、台所に行く。


遠藤さんがパイナップルの缶を2つあけたので。私がフォークで取り出しそれぞれに2つずつ出してあげた。


「パイン缶・・」


「デザートまで?」


まさかと思っていたのだろう。これもあっという間にみんな食べた。


「ふぅ・・」


「助かりました・・」


「あゆみ・・本当にありがとう」


病院から来た人達と真下さん橋本里奈ちゃんがお礼を言う。


「あの・・遠藤さん。皆さんにシャワーをお貸ししてあげたらいいかもしれません。」


「あ・・ああ!そうだよね。皆さんべたべたして気持ち悪いでしょうから、順番でシャワーをお使いいただいていいですよ。」


みんな髪がゴワゴワで顔もベタベタしていたので、私たちがシャワーをすすめた。


「じゃあ、若い人から・・というか聞いていいですか?橋本里奈さんですよね?」


「私も驚きました・・なんで女優さんが?」


「もしかしたらお知り合いなんですか?」


病院関係者の3人が里奈ちゃんを見て驚いている。


ご飯を食べて余裕が生まれ、里奈ちゃんに話しかけたのだった。


「私と里奈が友達なんです!いま助けてきたばかりで・・」


「そう言う事だったの・・」


「はい、あゆみのおかげで助かりました。私が先にシャワーを浴びてもいいんですか?」


「ああハイどうぞどうぞ!ただ・・ガスが止まってしまっています。電気湯沸かしでお湯を差し入れますので、たらいで水と混ぜて入ってもらっても良いですか?」


遠藤さんがお湯をたらいで丁度良く作って洗うように勧める。


「十分です。」


「あの遠藤さん。みんなのために私の部屋からバスタオルとフェイスタオル、あと着れるならTシャツとかジャージもあるから取りに行きたいんだけど一緒に来てくれる?」


「ああ、もちろん。」


私と遠藤さんが二人でベランダ伝いに私の部屋に戻って、服や下着ジャージやパジャマなどを全部持ってくる。


「みなさん!よかったらこれ使ってください。」


「あ、俺のTシャツやジャージも着れると思う。緩いかもしれないけどどうぞ・・」


「皆さんのお洋服は洗いますので下さい。」


「それなら洗濯機を貸していただければ自分たちでやります。」


女医さんが答えた。


里奈ちゃんが一人でシャワールームにいるのは怖いと言うので、マネージャーの真下さんも一緒に入る事にした。


彼女らが入っている間にも残ったみんなで情報交換をしていた。


「じゃあ次は、あなたたちが入ってきたら?」


「先生がお先に・・」


「気遣いなんていらないわ。私は一人でいいし」


「じゃあ私は怖いので・・一緒に入る?」


「うん。」


病院から逃げてきた後の二人が一緒に入ることになった。


里奈ちゃんとと真下さんがさっぱりしてシャワーから出てきた。


綺麗になった里奈ちゃんは芸能人オーラが出てきた気がする。普通の女の子だけどやっぱり違う。


その後もみんなが代わる代わるシャワーを浴びて上がってくる。


私とあゆみちゃんが電気湯沸かし器でお湯を沸かしてせっせと差し入れた。


最後に女医さんがシャワーに入る。


「あの・・お湯です。」


「あ、はいすみません。」


私がお湯を差し入れた時にはすでに女医さんは服を脱いでいた。


慌てて目をそらしたがバッチリと裸を見てしまった・・私が慌てて目を背けるのを見て女医さんが言う。


「同じ女性同士じゃない、別にみられても恥ずかしくないわよ。」


「は、はい!」


《やばいくらい・・ナイスバディ・・女医?モデルの間違いじゃないの?》


嫉妬するくらいのボディラインだった。これで女医だというのだからさぞかしモテるだろう。


シャー


お湯を混ぜずに水のシャワーを浴びているようだった。きっと何かを洗い流すようにしているのかもしれない・・


ガチャ


女医さんが早めにシャワーを終えて出てきた。


「ふう。ありがとう。」



全員がさっぱりしたところで円になって情報交換をし始める。


《ただ私は良いんだけど・・皆がノーブラのままTシャツやジャージを身に着けているので、バストトップが気になるんだけど・・》


遠藤さんの顔を見るとそれに気が付いたのか・・目線を下に向けていた。


集まっている人は今までの極限状態から解放されて、そこまで頭が回っていないようだった。


《まあ・・しかたないか・・》


どうせ遠藤さん一人だし。


私は気にするのをやめた。

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