第17話 人命救出
あゆみちゃんが私たちに聞かせるためにスマホをスピーカーモードにして置く。
「どこにいるの?」
「駅前の高級高層ホテル上階のレストランに立て籠ってた!」
相手も女の子だった。
「ひとりで?」
「マネージャーの瞳さんと2人で!」
「マネージャーさん?」
「インタビューが終わって、マネージャーとレストランで料理食べてたら警報がなって。だから部屋から逃げようと思ったら…スタッフが待ってろって…。いつまで待っても来ないからテレビつけたら大変なことになってて・・。」
「それから?」
「いつのまにかスタッフがみんな逃げてたの!」
「えっ!」
「そしたらエレベーターも止まってて…。階段で降りようとしたら下からうめき声や叫び声が聞こえてきて、慌ててレストランに入って鍵をしめたの。」
「それからずっとそこに?」
「うん・・」
なんとあゆみちゃんのお友達の女の子は、マネージャーと2人でレストランに立て籠り3週間以上しのいでいたらしい。
たぶんレストランに立て篭って正解だ。動いていたらたぶん死んでいたかもしれない。
「でも食材がきれちゃったの…、とにかく警察も消防署も業界関係者にも、電話かけまくってたんだけど繋がらなくてさ、持ってたのが仕事の携帯だったから友達の番号も分からなくて・・」
「そうなんだ。よく私の番号わかったね。」
「何とか思い出したのよ!そしたらあゆみが出たのよ!」
興奮していて収拾がつかない感じになっているようだ。
「それで、あゆみはどこにいるの?」
すこし冷静になったようだ・・
「近頼さんって人のうち。たぶんすでに警察も消防も壊滅したんだとと思う。」
「そんな状況酷いんだ…てか…近頼さんってだれ?」
「道で助けてくれた人。」
「そうか…わたしはもうダメかも…最後にあゆみの声が聞けてよかった…」
「まって!私がそっちにいく!」
「あゆみ!ダメだよここは危険だよ。警察も壊滅じゃ無理じゃない。」
「なんとかする!」
「もう….スマホの電源きれる。バイバイ!」
「ちょっ…」
プープープープー
電話が切れてしまったらしい。
「そんな・・」
気まずい雰囲気が流れた。しかし生きている人がいる事がわかっただけでもいいと思う。
「栞ちゃん!あゆみちゃん!俺、あゆみちゃんの友達を助けに行こうと思う。」
遠藤さんが言う。
やっぱりそういうと思った・・この人。
「えっ…行ってくれるんですか?」
あゆみちゃんの顔に光がさした。
「危険だけどさ!なんとかしなくちゃ!」
「あゆみちゃん!私もそう思う!」
生きている人がいるなら何とかしなければならない。冷静な遠藤さんとなら何とかなりそうな気がする。
「栞さん…」
あゆみちゃんの目に涙がたまり溢れそうになった。
「そうと決まったら急ごう。」
涙が零れ落ちる前に遠藤さんが言う。
私たちは急いで準備をして、包丁やフォークを片手に部屋を飛び出したのだった。
マンション1階はさっきと特に変わった様子はなく、足早に3人で軽自動車に乗り込んで出発させる。
「道路は相変わらずだね。」
「本当に・・。」
道路は車が散乱していて遠藤さんも走りづらそうだった。
「街には誰もいないみたいですね・」
道路に放置してある車を避けながら駅近くの高級高層ホテルに向かう。
「静かだ・・」
やはり人が全くいない…ゾンビも全くいなかった。それがかえって恐怖心をつのらせた。
「あのホテルだよね!」
遠藤さんがあゆみちゃんに聞く。ひときわ高いビルが見えてきた駅近くの高層ホテルと言えばあそこだろう。
「たぶん間違いないと思います!」
車がホテルに近づくにつれて街並みも荒れている気がする。
キキ―
車を停める。
ホテルの前にバリケードを作るように車やトラックが置いてあったからだ。
「これ以上来るまでは進めないみたいだ。」
「そのようね。」
「ここからは徒歩で行こう。」
「はい。」
軽自動車ではそれ以上進めなかったため3人は車を降りた。
「バリケードを作ったようだね。」
「うん・・」
「ここにもゾンビが来たんですかね?」
「わからないけど・・」
ホテルに着くと自動ドアが半開きになっている。外からこじ開けるように侵入されたのかもともと開いていたのか?
・・ドアに電源は入っていないようだった。
「自動ドアの電源・・切ってあるみたい。」
「だな。」
ホテルの中に入ってみるが1階ロビーにはゾンビも誰もいなかった。
エントランスを置くまで歩いて行きエレベーターにたどり着く。
スッ
エレベーターのスイッチに触れてみたがうんともすんとも言わない。
「これもわざと切っているのかな?」
「侵入を防ぐため?電源が来ていないだけかも。」
「階段を昇るしかないみたいね。」
52階もあるけど、その間にゾンビに遭遇したらひとたまりもない。
「とにかく階段を探そう。」
恐る恐る館内の階段を探した。
「ここじゃないな・・」
「たぶんこっちじゃない?」
ウロウロと階段を探す。
「あった・・」
やっとみつけたが階段は暗かった…
「電気が入っていないみたい」
「暗い」
「怖い・・大丈夫でしょうか?」
あゆみちゃんが不安になっている。もちろん・・わたしもだ。
「ゾンビより転倒する危険がある。とりあえず懐中電灯とかあるんじゃないかな?警備室とかに」
「だったらホテルのカウンターにも置いてあるんじゃない?」
「それもそうだね。」
カウンターに向かう。
「カウンターの周りも暗いわね。」
「部屋に入ってみよう。」
恐る恐るカウンター奥に入っていく。
「はぁはぁ」
遠藤さんの息遣いも荒くなって額に汗をかいているようだった。
流石に冷静ではいられないよね。
私もあゆみちゃんも手を握りしめて後をついて行くのだった・・反対の手には包丁を握りしめている。
「あ・・なんかありそう。」
私たちが遠藤さんの後をついていくと、懐中電灯が壁にぶら下がっているのを発見した。
「あった!」
「何本かあるみたい。」
3人で懐中電灯をつけてみるとどれもちゃんと点灯した。
「じゃあ・・階段に行こう・・」
「うん・・」
3人は懐中電灯を握りしめてホテルの階段に向かうのだった。
それからは慎重に一階づつ昇る事になったが・・それが凄くきつかった。
ようやく15階・・暗がりの中を少しずつ階段を昇ってきた。
懐中電灯の光だけで真っ暗闇の中を緊張しながら歩くのは、精神力がかなり削られた。
「ふうふう」
「ちょっと休まない?」
「でも、立ち止まるのは危険じゃないでしょうか?。」
「いや。少し休もう。いざという時走れなくなったら困る。」
「とりあえずここに座ろう。」
階段の踊り場に座り込む。
「ふうふう」
「はあはあ」
3人とも息をきらしていた。少し過呼吸気味になっている気がした。
だんだんと落ち着いてくる。
「ふーーー」
遠藤さんが深呼吸するので、私とあゆみちゃんも一緒になって深呼吸する。
「ふーーーー」
「ふーーーー」
落ち着いて来たところで遠藤さんが言う。
「よし!進もう。」
「そうね・・」
「はい」
異様に疲れるのはゾンビに遭遇するんじゃないかという恐怖のせいだ。
まだ一回もゾンビに会った事はないのだが、暗闇の中からいつ飛び出してくるか分からない中をゆっくりゆっくり上がって来た。
「あと1階だ・・」
「ふうふう、やっと・・」
「もうすこし・・」
3人はやっとレストランのある飲食フロアのエレベーターホールについた。
エレベーターホールから廊下に行く為のドアがある。
「じゃあ・・ドアを開けてみるよ・・」
二人は黙ってうなずく。
ガチャ
3人に緊張が走る。ここまできてゾンビの群れがいたら逃げ切れるか分からない・・
ドアを開けると窓から差し込む光が広がった。
「どうやら・・誰もいないみたいだ。」
「先に進んでみましょう。」
「レストランに潜んでいるって言ってました。」
「レストラン街は・・こっちだ。」
案内用の看板をチェックしてとりあえずレストランに向かった。数軒のレストランや中華料理屋さんの中をのぞいてみる。
どこにも人はいないようだった。
「このあたりだよね?」
「はい・・」
レストランの自動ドアの前に立つ。
「開かない。」
「力づくで開くかな?」
遠藤さんと私が指を差し込んで思いっきり横に引っ張るが、どうやら鍵がかかっているらしかった。
「あゆみちゃん。着信あるよね?電話かけてみたら?」
遠藤さんがあゆみちゃんに、こちらから電話をかけてみるように言う。
「うん…」
「里奈。電源とれてるといいんだけど・・」
さっきは電源が切れたと言っていたから、携帯を持っていてもつながるかどうかわからなかった。
緊張した面持ちであゆみちゃんが携帯電話の着信履歴を押す。
パランパラパラピー
やたら明るい着信音が違うレストランから聞こえてきた。
「かかった!!」
「あゆみ!怖いよー。さっきは電源きれたフリしてきったけど、やっぱり死ぬのは怖いよー」
電話の向こうで泣いているようだった。
「里奈!落ち着いて!迎えにきたよ!いまレストランフロアにいる!」
「えっ!ウソ!」
音のなったレストランに行き覗いてみると中に人がいた。
その中の人が走ってきてドアの鍵を空けて出てきた。
「え・・・」
私と遠藤さんは声をそろえて叫ぶ!
「「!!!橋本里奈じゃん!!!」」
レストランの中から顔を出したのは・・髪はゴワゴワ、服はよれよれだったが間違いなくそうだ!
あの・女優の橋本里奈だ!
「あゆみちゃんの友達って・・」
天使すぎる可愛さで有名なこの女優をCMやドラマで見ない日はない、売れっ子新人女優だった!コメディ映画にも出て国営放送のドラマに準主役で1年間出ていたあの!橋本里奈だったのだ!
「あゆみ〜」
泣きながらあゆみちゃんに抱きつく。
「里奈ぁ!」
2人は抱きしめあった。
コツコツコツ
ヒールの音が聞こえる。
橋本里奈の後ろからキリリとしたクールビューティーな女性が歩いて来た。
冷静に頭を下げて私たちに挨拶をしてくる。
「マネージャーの真下瞳です。」
「あ、近藤近頼といいます。」
「長尾栞です。」
「よくぞ助けに来てくださいました。ありがとうございます。」
凄く冷静な人だった。遠藤さんに輪をかけて冷静だ・・
「一緒に逃げましょう。」
遠藤さんが言う。
「はい・・・里奈いきましょう。」
「う・・うん。」
「里奈!ほんと頑張ったんだね!」
「うん!あゆみ!来てくれてありがとう・・あゆみを巻き込んだら悪いと思って、携帯の電源が切れたふりしてたんだ・・」
「うんうん。」
「うぇぇぇぇん。」
「うぇぇぇっぇん」
女子高生二人は抱き合って泣いてしまった。
「とにかくここも安全とは言えない。すぐに出ましょう。」
「外は大丈夫なのですか?」
遠藤さんと真下さんが話をしている。
「ええここまでは特に問題なく来れました。」
「わかりました。では里奈!この人たちについて出ましょう!」
「わ・・わかった。ひっくひっく」
というわけで、いま昇ってきたら階段を降りることとなった。
《また・・この階段を降りるのか。》
あの恐怖と戦いながら暗闇の中階段を下る・・
「じゃあ俺が先頭を行きます。あゆみちゃんは真下さんに懐中電灯を渡して。」
「はい。」
「栞と真下さんは後ろから来てもらえますか?」
「わかりました。」
「あゆみちゃんと里奈ちゃんは俺の後ろについてきて。」
「は・・はい!」
また真っ暗闇の中を懐中電灯片手に進むこととなった。
《正直これが一番精神的につらいのよね・・でも仕方がないけど・・》
「ふうふう」
「はあはあ・・」
「はあふう」
やっぱりみんな息が切れてしまう。おそらく相当に心拍数があがっているんだと思う。いつどこからゾンビが出てくるか分からない恐怖に、わたしも座り込んでしまいそうになる。
でも下りは休まずに一気に下りてこられた。
「じゃあ1階についたのでドアを開けます。」
「はい・・」
ガチャ
1階に出ると光が差し込んで来た。
「つ・・ついた・・」
「そのようですね・・」
遠藤さんも真下さんも汗びっしょりだった。
《私も女の子二人もそうだけど・・》
「じゃあ車に向かいます。」
5人は寄り添うように、ホテルの自動ドアの隙間から外に出た。
「上から見えてましたがやはり街は荒れてるんですね。」
「はい、どうやら争った跡なんかもあるみたいです。」
「実際に人がいっぱいいたはずなんです・・その・・暴徒?ゾンビもいっぱい。でも・・いなくなってしまった?」
「えっ?どういう事なんですか?」
「とにかくゆっくりはしていられませんよね!」
「は、はい!急に襲われるとまずい急ぎましょう!」
バリケードを超え遠藤さんの軽自動車にぎゅうぎゅうに乗り込んだ。
流石に軽自動車4人定員に5人はきついみたいだけど・・
車で少し進むと瞳さんが言った。
「あの?近くの駐車場に私達が乗って来たロケバスがあります!キーを持っているのでそこにいけますか?」
「それは助かります!」
遠藤さんが答える。
私たちが乗った軽は近くの駐車場に向かって走るのだった。
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