第13話 生存の物資回収
いよいよ・・家から出る日が来た。
《大丈夫かな?いきなり襲われないかな。》
とにかく恐怖で身がすくむ。
「栞ちゃん。これを持ってください。掃除機の筒の先にガムテープで包丁を括り付けた槍と、ダンボールをナップザックに貼り付けたからこれを体の前に背負うように」
「う、うん」
遠藤さんに言われるとおりに、体の前を守るようにしてナップザックを背負い背中でカチリとベルトを締めて即席の槍を持った。
私は頷いて合図をおくる。
遠藤さんが恐る恐る・・ドアのカギを開けた。
ガチャリ
部屋の外に出るが、廊下には誰もいなかった。
「よし!誰もいないみたいだ!いくよ!」
「はい!」
廊下に出て注意しながらエレベーターの方に歩いて行く。
「栞ちゃんエレベーターが止まったりしたら、出られなくなるといけないから非常階段で降りよう。」
「そうですね・・」
階段の中に入る。
《薄暗くて・・怖い・・》
階段には特におかしなところが無かった。非常灯もついているし安全に降りることができた。
いつもエレベーターしか使ったことがないだけで前からこうだったのかもしれない。
《あれ?でも2階を通過したとき人の声がしたような・・》
遠藤さんは気がついていないようだった。気のせいかもしれないので黙っていた。
とにかく足早にマンションの入り口に来た。一階のドアロックは生きていて、電源が入っているらしく普通に開いて外に出る事が出来た。
私は掃除機の筒に括り付けた包丁の槍を構えて外に出る。マンションの外は思ったより荒れていないようだ。
「月極駐車場まで歩きます。」
「は・・はい。距離はありますか?」
「そこそこ。でも何とか頑張っていきましょう。」
歩いているうちに町が荒れていく感じがした。
《血痕がある?・・すっごく怖い。》
遠藤さんも相当怖がっているようだった。
無理もないと思う。こんな荒れた町に血痕が残っている・・そこを歩いているのだ・・どこから何が出てくるのかが分からない。周りを警戒するように歩いているため、じりじりとしか進めなかった。
「そろそろですか?」
《遠藤さんの自動車が停めてある月ぎめ駐車場に着くのはどれくらなんだろう?早く・・早くたどり着いて。》
「もうちょっとだよ!大丈夫だ・・大丈夫。」
遠藤さんも自分に言い聞かせるように私に言う。
「あそこです。」
遠藤さんが指さす方向に駐車場が見えてきた。
「えっとどこですか・・」
「あの黒い軽自動車です。」
「もう走りましょう!」
じりじり歩くのがもう怖くて怖くて走る事にした。
二人で車まで一気に走った。遠藤さんがカギを開けてくれたため助手席に飛び乗った。運転席に遠藤さんが飛び込んで来る。
《はやく!はやく!》
私は心の中でそう呟いていた。
チュチュチュチュチュチュン
《えっ?どうしたの。》
心なしか遠藤さんが焦っているようだった。
《車のエンジン・・かからないの?》
チュチュチュチュブオーン!
エンジンがかかったようだった!
遠藤さんが車を運転して月極駐車場を出る。道路には動いている車や歩行者はいなかった。
とにかく街がどうなっているかを見る必要があった・・
「ひどい・・」
「荒れ果ててる・・」
道路には乗り捨てられた車がそこら中に置いてあったが、何とか間を縫って走っていく事が出来た。でもどこで車が通れなくなるのかも分からない・・私は手に汗握りながら座っていた。
「業務用のスーパーに向かってみる。」
遠藤さんが言うので私は無言でうなずいた。
難航すると思っていたが・・あっさり業務用食品スーパーに到着してしまった。
「じゃあ!いくよ!」
業務用スーパーの駐車場には誰もいなかった。しかし車は散乱して置いてあり、車の間を走り抜けて業務用スーパーの自動ドアに一目散に向かう。
《怖い・・何もいませんように!》
「暴徒もいないようだ!走ろう!」
遠藤さんは手にフォークしか持っていないのに勇敢にも前を走っていく。
自動ドアの少し前に立って、中をのぞいてみる。
「だれか・・いるかな?」
「静かですね。」
「開くかな?」
ふたりで自動ドアの前に立ってみる。
ウィーン
「開いた!」
「開きましたね・・なにもいない・・」
「そうですね。」
「とにかく中に入りましょう。」
とりあえず二人で恐る恐る自動ドアの中に入っていく。
店内は電気がついていて明るかった。まるで普通に営業しているようだ・・どういうことだろう?暴徒なんか少しもいなかった。
二人は寄り添うようにして、じりじりと中に進む。
《怖い・・心臓が破裂しそう・・誰もいないのだろうか・・》
さらに奥に入っていくと、ガラスなど割れているところがある。散らかっているところも多少あるが、しかしそれほど乱れた形跡はない。
遠藤さんはさらに奥へと進んでいく。
《きっと遠藤さんはこの店で買い慣れてたんだろうな・・》
とにかく遅れないように遠藤さんについて行く。
「冷蔵庫があります。」
「ほんとですね。」
二人で冷蔵庫まで近づいてみると・・がっかりな結果だった。
冷蔵庫の中にあった肉はドリップが出て変色していた。軽く腐ったような匂いがする。
「これは食べられないです。。」
「ですね。」
どうやら肉は無理なようだった。
「こっちに冷凍庫が・・」
遠藤さんについて行くと、大きな冷凍庫ルームがありそこに冷凍肉があった。
「冷凍牛肉なら食べられそうです。」
「はい。」
「ちょっとカートとってきます。」
《えっ怖い。一人でこんなところにいれない!!》
「あの!私も行きます。」
二人で店頭にカートを取りに行くのだった。
店頭には雑多にカートが置いてあった。
怖かった。
とにかくいつ何が出てくるのかが分からない・・体が震える。
そしてふたりで4台のカートを転がしていく。
「栞ちゃんと二人分だけどいっぱい欲しいですよね。」
「はい。とりあえずレジは動いていないし店員さんもいないのですが・・大丈夫でしょうか?」
「この際仕方がないんじゃないでしょうか?生きる方が先決ですから。」
「わかりました。」
「とりあえず缶詰がいっぱいあった方が助かるはず。」
「はい」
遠藤さんの言うとおりまずは缶詰めコーナーに行ってみる。棚には普通に缶詰があった。床にもそこら中に散乱していたが缶詰なので問題なく食べられそうだ。
「ほとんど残っている感じですね。取りに来た人はいないんでしょうか?散乱していても持っていかれた形跡がない・・」
遠藤さんの言うとおりだった。ものが残っている・・
「たしかにそうですね。私たちみたいに取りに来た人がいないのでしょうか?残っているのは不思議じゃないですか?」
「なんで誰も持って行っていないんでしょう?」
「そうですよね。」
蟹缶、牛缶、サバやさんま缶、果物缶を大量に集めた。
「缶詰はこれだけあればいいですね。10個ずつあればしばらくは・・」
「はい。車に積み込める量もありますしね。」
「そうですよね。じゃあ栞ちゃん、乾物の方に行きましょう。」
「はい。」
つぎは乾物の方に行き大量の海苔をゲット。
「海苔は結構助かるんです。あとは煮干しとかするめがあればいいですね。」
遠藤さんに言われ、どんどんカートに積み込んでいく。
「次は調味料の方に行きましょう。」
「はい。」
遠藤さんはとてもてきぱきとしていた。業務用スーパーが趣味というだけあって売っている場所や、何をどのくらい買えばいいのかを心得ている。メモ無しでこれが出来るのは凄い。
調味料コーナーにも普通に調味料が置いてあった。床に散乱してはいるが全部使えそうな状態だった。
味噌5パックと醤油1.8リットル6本、徳用ケチャップ5、徳用マヨネーズ5をカートに入れる。
「遠藤さん。もっともっていかないんですか?」
遠藤さんに質問してみる。
「もしかしたら誰かが来るかもしれないからね。とりあえずほどほどにしておこうかと。」
「確かにそうですね。」
「でも不思議ですよね。普通に食べ物が置いてあるし・・もうなくなっていてもおかしくは無いですよね?」
「本当です。」
遠藤さんの言うとおり・・店内にある食品や調味料は、ほとんどが手付かずだった。
この状況で誰も取りに来ない・・そんなことがあるんだろうか?
不気味なのは床にたまにある血の跡だ…。
「栞ちゃん見てください血の跡があります。」
「本当・・・でも食料はそのまま・・どういうことなんでしょう?」
「わかりません。とりあえず主食も必要ですね。」
遠藤さんは冷静に動いている。遠藤さんに促されて米売り場に行って見る。
「精米日はもう1カ月以上まえだけど十分食べられます。」
「はい。」
米10キロ3つと小麦粉5袋を入手する。
「あと糖分やちょっとした食べ物を取りに行きましょう。」
「あ、はい。」
「こっちです。」
「遠藤さん詳しいですよね。」
「通い詰めてますから。」
お菓子コーナーも普通にあったのでポテチとチョコを大量に取り、ホットケーキミックスを棚の10箱全部カートに入れた。
「カートがそろそろいっぱいになってきました。」
「けっこう積みあがりましたね。」
「とにかく積めるだけ積んでいきます。」
「わかりました。」
「あとはレトルト食品とアイスクリームとジュースと水を入手します。」
遠藤さんは店内をどんどん進んでいく。
「レトルト食品や冷凍食品もほとんど手つかずだ・・」
「本当ですね・・」
「アイスコーナーもとけてませんね。」
「まだ電気が通っているのが凄いです。」
「奇跡ですよね。」
レトルト食品を大量に取り、冷凍食品やアイスクリーム3キロを積む。
「じゃあ栞ちゃん、飲み物コーナーに行きましょうか。」
「はい」
ジュース3箱、天然水2Lの6本いりダンボールを5箱積み込む。
これが結構かさばるが一番大事な物かもしれない。水道が止まる可能性もあるのだ・・水は絶対に必要だろう。
「カートにスペースがあるので肉を積みましょう。」
「はい。」
冷凍庫に行って冷凍牛肉を5キロ取り出して積み込む。
「こんなところでしょうね。」
遠藤さんは一旦ここで打ち切る事にしたようだ。
「だいぶ山積みになりましたね。」
そのままカートを押して二人で車に向かう。
カートにはかなり山積みなので重かった。
レジを通さないで行くのにかなり罪悪感があった。
《仕方がない生きるためだ・・》
自分に言い聞かせる。
「ごめんなさい。」
一応、いないお店の人に謝っていく。
車の後ろのドアを開けて後部座席を倒し、大量の食品を中に詰め込む。周りを警戒しながら詰め込んでいるが結局誰も来なかった。
「だれも・・来ないですね。」
「本当です。店の人もいなかったし暴徒もいない・・どうしたんでしょう?」
「街には誰もいなくなっちゃったんでしょうかね?」
「わかりません。」
「とにかく栞ちゃん!乗ってください!」
「はい。」
マンションを出てから一人も人に会う事はなかった。
スーパーにも誰もいないし、どこにも人がいないのだった。
・・町はどうなってしまったのか?
普通なら車で混雑する道が、乗り捨てた車でいっぱいだった。かろうじて道路を走る事は出来るが、かなり車を避けながら走らなければならなかった。
遠藤さんと二人で周りを警戒しながら街の中を走り抜ける。
「あの・・ガソリンが半分くらいしかないのでガススタに行きます。」
「はい・・もしかしたら、そっちの方に人がいるかもしれないですよね?」
「そうですね。」
二人を乗せた車はガソリンスタンドに向かって走っていくのだった。
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